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第19話

 唇が乾いて、しょうがない。舐めて、湿らせた。 「ファスナー下ろして、てめえの出せよ」 「ひざまずきなさい。ボトムをくつろげる段階から、きみが始める。その点に意義がある」  ステッキが胸の高さに持ち上がり、それの先端で乳首を軽くつつかれた。  佑也は(まなじり)をつり上げて、ステッキをはたき落とした。 〝突き〟を繰り出す要領で、ステッキは間髪を容れずに胸元に舞い戻ってきた。そして佑也が反射的に身をすくませた隙に乗じて、心臓の真上にめり込む。  佑也が逆襲に転じる気配を見せれば、それより〇・〇一秒早く胸骨を突き砕く。  そう威嚇するように心臓のぐるりで円を描いたあとで、ステッキは鳩尾(みぞおち)を掃き下ろしていく。  それは若草に達すると、蜜の袋を掬いあげる。  加虐的な悦びにぎらついていれば、躊躇なく反撃に出る。ところが闇色の双眸は凪いだ海のような静けさを宿し、それだけに底知れない不気味さをたたえ、かえって身の毛がよだつ。 〝愛〟を免罪符に、(ほしいまま)に振る舞ってはばからない男だ。  あるいは正気と狂気の境界線上に、かろうじて踏みとどまっている男だ。  橘にむやみに逆らいつづけて不興を買えば、睾丸を叩きつぶされかねない──。 「きみは木偶(でく)の坊か。やりもしないうちから白旗を掲げるのであれば、それでもかまわない。取引は、ご破算だ」  氷の塊をうなじに押し当てられたように背筋が、ひんやりする。それでも、びくついていると悟られることがないように、佑也は口をへの字にひん曲げた。  ゼンマイ仕掛けの人形のように、ぎくしゃくとしゃがんだ。腹立たしさに顔をひきつらせて、安楽椅子ににじり寄る。  膝立ちになると、綾織りのボトムに包まれたウエストに、挑みかかるように手を伸ばした。  心臓が破裂しそうなくらい、鼓動が速まる。指が小刻みに震えて、たかがバックルを外すくらいのことに、ひどく手こずる。  やっとのことでベルトをゆるめたものの、今度は腕全体ががたがたと震えだして、ファスナーの金具を何度もつまみそこねた。  苦心惨憺、ファスナーを下ろし終えると前立てを左右に割り広げた。  なかば、やけっぱちで下着をずらし、雄身を摑み出した。

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