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第20話

 売り言葉に買い言葉を地でいく展開に、自嘲的な笑みが浮かぶ。ともあれ、あとは陽根を頬張れば、敵前逃亡とは見なされない──。  それが、今この瞬間に炸裂する恐れがある時限爆弾であるかのように、おっかなびっくり幹を捧げ持った。悲愴感を漂わせて、茂みに顔を伏せていく。  しかし柔毛に頬をくすぐられたとたん、怖じ気づいた。  ぱっと手を離した。掌を太腿にごしごしとこすりつけて、そこに生々しい雄の感触をぬぐう。うつむき、うなだれた。  至近距離で目にした男の武器は、おとなしやかにある現在(いま)ですら持ち重りがする。  矛盾しているようだが、凌辱されたときは垣間見た程度だから、まだ救われた。勃ちあがったときの獰猛さを予感させる〝それ〟を口に含むのは、相当な勇気がいる。  並外れて大きな〝それ〟に刺し貫かれてのたうち回ったすえに悶絶したことは、記憶に新しい。トラウマといえば陳腐だが、冷たい汗が腋窩を濡らす。  佑也は、尻でいざって後ろにずれた。  橘が、聞こえよがしなため息をついた。 「童貞ではあるまいし、オーラルセックスのたしなみくらいはあるだろう。きみの躰に直接、手ほどきする必要があるのか」 「うるっさいな! シミュレーション中なんだから、せっつくな」  親指を下に向けながら啖呵を切った。腹をくくって再び股間に顔を寄せていったものの、まごつく。  自分が同性相手に口淫に挑むのはもちろん、歴代のカノジョ──と言ってもふたりきりだが──に口でしてもらった経験などない。  砲塔に舌を伸ばしては、引っ込める。そうやって、もたついていると橘は業を煮やしたようだ。  襟髪を摑まれて、下に引っぱられた。たまらず上を向くと、返す手で鼻をつままれた。  十秒、二十秒……だんだん息が苦しくなってくる。それでも頑なに口を真一文字に結んだままでいると、指先に力が加わった。  佑也は髪を振り乱して抗った。窒息するのがいやなら口を開け、と威すなんて、やり方があくどい。  だが橘は泣き落としが通じるような、まともな神経の持ち主ではないことは、レイプされたさいに、いやというほど思い知らされた。

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