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◇ 破天 ◇ 遼玄の回想 五
いい加減迷惑なんだ。
辛いんだ。
何の関係もないお前らを巻き込んで、けれどそんな厚意に対して俺にできることなど何もないということを思い知らされる度に胸が焼け焦げるようだ。
放っておいてくれた方が楽なんだ。
自暴自棄になって焦れて、挙句はお前らに八つ当たりすることぐらいしかできないこんな俺など、見捨ててくれた方がマシなんだよ。
涙がこぼれそうになって天を仰げば、荒天の雲間から降り注ぐ雨粒が次第に量を増してきやがる。そんな俺の手を取って、急ぎ足で住処へと急ぐこいつの笑顔がたまらなくて、俺は抑えきれなくなった涙を雨にさらした。
いつか――
いつか千年が経ち、この戒めが解けて、その時に蘇った四凶の獣を打ち砕くことができた時――俺はお前らに何かを返せるだろうか。
おそらくは何もないだろう。
想像を絶するような友情に対して返せるものなど何もないのは重々承知だ。
それでも、もしも紫燕の呪いが解放されて、ふたたび皆で笑い合える日が来るのなら――その時はすべてをかけて伝えたい。
お前らと共にいられる一瞬一瞬が俺の至極なのだと、心からの『ありがとう』をきちんと言葉で伝えたい。
帝雀、剛准、白啓、かけがえのない俺の仲間たち。
そして紫燕――唯一人の愛する人に、すべてをかけてこの気持ちをぶつけたい。
俺の願いは神界に戻ることなんかじゃない。不老不死の永遠なんかじゃなく、四神としての立場なんかじゃなく、ただ一度の生をお前らと共に過ごせるのなら他には何も望まない。共に笑って喧嘩して、いつの時でも離れずに傍にいられたらそれでいい。これ以上の至極はないのだと、心からそう伝えたい。
そんなことぐらいしか思いつかないけれど。
ありがとうのひと言を、ありったけの気持ちを込めて言うから。
大声でそう云うから――
今は、済まない。お前らの厚意に甘んじるしかできないでいるこんな俺を、どうか許して欲しい――
◇ ◇ ◇
ポツリポツリと滴る雨の感覚が強くなる。
ふと、隣りを見やれば、足取りも止まりそうな様子でうつむく遼玄の姿に気がついて、帝雀はしばし歩をとめた。
「何をぼんやりしてるんだ遼二! さあ、急がないと雨足が強まってきそうだ。行くぞ!」
急に腕を引っ張られ、遼玄はハッと目の前の帝雀を見つめた。
雨粒が頬を打って涙の跡を流していく。
連れられるままに彼の後をついて小走りにさせられながら、荒天の下を仲間たちが待つ住処へと急いだ。
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