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◇ 恋慕 ◇ 弐

 同じ頃、遼玄の転生先へと先回りすべく、神界から降りてきていた帝雀、剛准、白啓の三人は、当の遼玄を捜して奔走していた。  前世であまりにも無惨な生涯を遂げた彼のことが気掛かりで、早めに転生先である次の世へと先回りしたはずだったのだが、どういうわけか一向にその遼玄と巡り会えずにいたのだ。  一応、神である立場の彼らにとって、遼玄の所在を突き止めるなど容易いことであるはずなのに、今生においてはどうにも儘ならない。今まで幾度も転生先に赴いては見届けてきたというのに、何故、今回に限ってはこんなに苦労を強いられるというのか、ワケが分からずに三人は途方に暮れていた。 「どういうことだ? 転生する先を間違ったんじゃねえのか?」  白虎神である白啓が多少苛立ちながらそんなことを吐き出せば、 「いや、時代と場所は合っているはずだ……」  こちらも頭が痛いといったふうに帝雀も首を傾げる。 「まさか……五龍のじいさん共の仕業じゃねえのか……? 俺たちが遼玄の手助けをしてるのがバレちまったんじゃあ……」  【五龍】というのは神界の頂点を司る五大神で、この世界をおさめている神々たちのことだ。隕石の衝突をきっかけに、魔界の封印を破って蘇った四凶獣を討伐する際に自分たちを召喚したのも、彼ら五龍に他ならない。  その後、遼玄が神界の掟を冒し、紫燕と契りを交わしてしまったことで、世界は闇に覆われるという異変に見舞われた。その罰として、遼玄と紫燕は地上界へと追放され、それぞれに『遼二』と『紫月』という名前を与えられて、向こう千年を人間として輪廻転生することを強いられたわけなのだ。  そんな彼らのことを放っておけずに、自分たちも神界を抜け出し、地上へと降り立ってから幾年月を過ごしただろうか、かれこれ千年の内の半分はゆうに超しているだろう。  そのことに五龍が気付き、それでは戒めにならないと、遼玄らの所在を突き止められないような妨害措置を施したとでもいうのか。いや、そんなはずはない。第一、自分たちが地上界に来ていることなど、五龍にはとうの昔からお見通しのはずだからだ。  今までは見て見ぬふりをしてくれていたのだろうが、今になって急にそれらを阻むなどとは考え難い。ではいったい何故、遼玄の所在がつかめないのだろう。  仲間内でも一番の年長者である剛准が、ふと思いついたようにつぶやいた。 「もしかしたら遼玄のヤツ、前世での嫌な記憶を自ら封じ込めてしまっているのかも知れないな……」  どういうことだ――と、他の二人が首を傾げる。 「いや、この前あんな無惨な生涯を遂げたせいで、それを思い出したくないあまりに記憶障害に陥っているのかも知れないと思ってな?」 「記憶障害だと? つまり……遼玄は紫燕と同様、今までの記憶が一切無い状態で今生に転生しているということか?」  帝雀が驚いたように相槌ちを入れた。 「断言はできないが、有り得ない話じゃない。ヤツの記憶の波動が辿れないのはそのせいなのかも知れないと思ってな」  なるほど、そういうわけか。今まで遼玄を見つけ出すのが容易だったのは、彼にすべての記憶が蓄積されていたからだ。その波動を辿って彼を捜し出し、そのもとへと赴いていたのだから――  逆に紫燕を捜し出すのが難儀だったのは、彼の記憶は生まれ変わる度に真っ更に戻されてしまい、波動を感じる取ることができなかったからということになる。こう考えれば剛准の仮設にも合点がいくというものだ。 「しかしそうであれば困ったことになったな……どこから手をつけていいのか八方塞がりだ」 「だが捜すしかあるまいよ。紫燕でも遼玄でもいい。どちらか一人でも見つかれば何とか道は開けるだろう」  そうして帝雀らは、手掛かりの薄いままに、二人の居所を掴むべく再び奔走するのだった。まさか、当の二人が既に出会っているなどとは思いもよらぬままに――

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