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◇ 荒天 ◇ 参

「……!」 「お前に……」  抱いてもらえたら―― 「そしたら俺、きっと……」  どんなことがあっても生き抜いていけそうな気がする。  お前が俺の初めての男だって、ずっとそれを支えに思っていけるから―― 「けど、やっぱそんなのは気色悪い……っか? お前は此処に来る客とはワケが違う……」  思い直したように苦笑する声を震わせて、紫月は視線を泳がせた。  重なり合った額と額の合間からぼやけて見えるその瞳は大粒の涙でうるみ、今にもこぼれて落ちそうだ。深秋の冷気が互いの吐息と絡み合って上気する。  視界に入りきらないくらいに寄せ合った唇を、おそるおそる近付けて重ね合わせれば、瞬時に切なさが互いを欲する欲情へと変わるのを感じた。 ――くちづけを交わすなど初めてだった。  物心ついてからこのかた、親もなく、庭師をしていた親方に拾われて育てられた。その日その日をしのぐことだけで精一杯だったこれまでの人生で、初めて得た他人との触れ合いに、言いようのない高揚感がこみあげる。  まるで意志とは切り離されたように熱を増す自身の変化が、我がものとは思えない程に遼二を高揚させていった。夢中で唇を貪り、かってが分からないことが逆に高みへと押し上げて、火照った気持ちをあおっていった。  二人はそのまま倒れ込むように敷物の上へと転がり込んで、しばらくはきつく互いを抱き締め合った。 「紫月……俺、その……こーゆーこと初めてで……」  慣れていないし、だから何事も上手くできなくて格好悪いよなとでも言うように口ごもり、だがそれとは裏腹に身体は素直に反応していて、押し倒されて重なり合った腰元あたりに遼二の硬く熱いモノがぶつかっているのを感じて、そんな様子に紫月はこの上なく愛おしい気持ちに駆られていくのを感じていた。 「いいんだ。俺だって同じ……。兄さんたちのを一応見聞きしちゃあいるけど……こうするのはお前が初めてだから」  逸る気持ちのままに、きつく互いを抱き締め貪り合うことだけで精一杯だった。  何をどうしていいか分からずに、絡み合う内に着物の裾が乱れて、肌があらわになっていく。熱にうなされるままにそれらを脱ぎ捨て、敷物代わりにして素肌をさらし合い、これ以上はくっ付けないというくらいに互いのすべてを密着し合った。  乱れた下着を脱ぎ、勃起した雄同士を擦り付け合って、荒くなる吐息に目眩がしそうだ。欲情した瞳で見つめ合い、先走りで互いの腹部を濡らし合い、軽い痛みを感じる程に硬さを増したモノを持て余しては焦れ合って―― 「ココ、触っても……い?」 「ああ……いいぜ、触って……」  お前にならどこに何をされてもいい。むしろこの身体中のすべてをお前に浸食されてしまいたい。  二度と忘れないように、お前を俺に刻みつけてくれ――!  欲情の合間から顔を出す感激と愛しさの入り混じったような気持ちに自然と涙があふれ出す。紫月は自らを組み敷くぎこちない愛撫を、ひとつ残らず記憶の中に刻みつけるように、全身全霊で彼にすがりつき、そして受け止めた。

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