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第17話 山田オッサン編【15】
昼休み終了を少し過ぎた喫煙ルーム内。
「この中にさぁ自販機とか欲しいよなー」
鼻と口から同時に煙を吐きながら言った山田に、佐藤がツッコんだ。
「こんなに利用者が少ねぇのにか?」
「よし、みんながもっとバンバン利用するようにキャンペーンでもしよーぜ」
「こんなに禁煙ブームな世の中が見えてねぇのか、お前の目には」
「俺の目はフシ穴だぜ?」
「なんの自販機が欲しいんスか?」
鈴木が訊いた。今日もヨメと昼メシの田中は別行動だった。
「なんか、ジャンクな菓子みてぇな? 輸入モノの」
「なんだ、コーヒーとかじゃねぇのかよ」
「ゆうべさぁ海外ドラマ観てたんだけどよ、医療モノの。チャンネル回してたらたまたまやってて」
「チャンネルって回しませんよね、いま」
「そーいや何て言うんだ? 今どきは」
「変える?」
「でもそれだとなんかニュアンス伝わんなくねぇか」
「ンなこたどーでもいいんだよ!」
山田が唾を飛ばして喚いた。
「はいはい、ジャンクな菓子の自販機っすね。で?」
「ERの医者が休憩中に買って食って、こんなモン食いモンじゃねぇぐれェのこと言ってんの」
「で?」
「それやりてぇなって」
「うん」
「──」
「──」
「で?」
「は? そんだけだけど?」
言った山田を佐藤と鈴木が眺めた。
「買ったものに対して、こんなモン食いモンじゃねぇって言いたいだけっすか?」
「お前な、そんだけのために自販機設置すんのかよ?」
「だってなんかカッコよくねぇ?」
「全然わかりませんけど、まぁ山田さんがワガママ言えば設置してくれるんじゃないスかね、また」
言った鈴木を山田と佐藤が眺めた。
「またってどーいう意味だよ鈴木?」
「この喫煙ルームみたいにってことっすよ山田さん」
「俺、喫煙ルーム作れなんて言ってねーし」
「でも喫煙所廃止案にすげー反対してましたよね? 会社のために身を粉にして働いてる社員を殺す気っすか! とか何とか」
「は? 言ってねーし」
「俺この耳で聞きましたし、通りすがりに」
「オマエはどこまで壁にコップで盗み聴きすりゃ気が済むんだよ鈴木」
「コップなんか使わなくても丸聞こえでしたけど」
「てか普通は逆だろ、受動喫煙のリスクについて非喫煙者が喚くことだろうがソレ? しかも誰が身を粉にして働いてるって?」
「俺以外の誰がいるってんだよ?」
煙草を捨てて言った山田は、すぐに次の1本を咥えて火を点けた。
「昼休み終わってんのにまだ一服し続けようってヤツがよく言うぜ」
「まだここにいるお前らに言われたかねぇよ」
「俺は何も言ってませんよ」
「ひとりだけいい子ぶんなよ鈴木」
「つーか、俺が反対したからってこんなモンが登場するワケねーだろ」
こんなモンってのは喫煙ルームのことらしい。
「山田さん、俺はコーヒーの自販機が欲しいっす」
「だからなんでオレに言うんだ?」
「山田さんにその気がなくても上層部が配慮してんですよね? 山田さんの背景に」
「俺の背景って何、花柄か? 水玉模様か?」
「クマ柄っすかね」
「ずいぶんファンシーだな」
「オマエら!」
山田が目を三角にして2人に指を突きつけた。
「寄ってたかって俺をマッパにひん剥いて、嫌がるオレの両手両足開かせて恥ずかしいトコロ全部舐めるように覗きやがったくせに、これ以上まだオレを辱めてぇのかよ!?」
「クマ柄で通じたとは、山田さんにしては上出来ですね」
「お前ら2人ともなかなか言い得て妙だけどな、俺は何も言ってねぇし」
佐藤が反論したとき、入り口でドサッと音がして彼らはそちらに目を向けた。
本田がいた。山田を探しに来たらしい。
「山田さん……佐藤係長と鈴木係長に何されたんですか!?」
青ざめて立ち尽くす足元にビジネスバッグが落ちている。
「いやモノのたとえだから。な、本田」
「そりゃあもう想像を絶するような恥ずかしい行為を強要して穴という穴を掘り返したけど、ちなみに主犯は田中係長だからね、企画課の」
「ホンダいじりはやめろスズキ、めんどくせぇから」
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