18 / 52
第18話 山田オッサン編【16】
「田中さんのとこ、男の子なんでしたっけ?」
「予定ではな」
ヨメが産休に入った田中が久々に合流した昼休み。
そろそろ暑さが増してきた本日は、冷やし中華! 冷やし中華! と山田が路上で騒いだため、黙らせるため早々に手近な小汚いラーメン屋に決定した。
「息子だったらさぁ、やっぱケンシロウとかつけるワケ?」
訊いたのは、仕事の外出で近くにいるからとやってきた佐藤弟だ。
「せめてケンジロウくらいにしといたほうがいいんじゃねーの?」
「あのな、ぜってぇ北斗の拳がらみにしねーから。てか山田お前、あんだけ冷やし中華って騒いだくせに何タンメンなんか食ってんだよ?」
「今さら言うかよ田中?」
「ケンジロウだと俺の名前に近くなっちゃうじゃん」
「あれ、お前の名前なんだっけ弟?」
「イチさん!!」
狭苦しく暑苦しい店内に充満する、野郎5人の騒々しさ。
「ケンジだよケンジ!」
「そーだったのか? 佐藤」
「たぶんな」
「たぶんじゃねぇクソ兄貴」
「佐藤さんの名前は何でしたっけ?」
「ヒロシ」
「ヒロシって呼んだことあります? 山田さん」
「なんでオレに訊くんだよ、ねぇよ」
「あっでもケンジロウだと!」
弟がハッとしたツラを上げた。
「なんかイチタロウと近いし!」
「近ェか?」
「ケンジ+ジロウで、なんかイチさんと合体する感じだし!」
「なんでそーなるんだよ、次郎は山田の甥っ子なだけじゃねぇか」
「次郎と合体なんかさせないし」
言った鈴木をほかのヤツらが見た。
「え、それ、鈴リンが言うコト?」
「鈴木お前、次郎の何なんだ?」
「そーいやこないだ、すげー懐いてたよなぁ鈴木に」
「あ! 前世で夫婦だったとか次郎と!」
「誰も山田妹との仲を疑わねぇんだな」
「鈴木みてぇな義弟ほしくねぇし」
「息子ならどースか?」
「え? 俺が鈴木の母チャンと結婚すんの?」
「てか次郎の父チャンってどんなヤツだったんだよ?」
「ん? うーん」
山田が麺を引っかけたままの箸を止め、口を開けて宙を見た。
「どんなって……どんなんだっけなぁ?」
「え? 会ったことあんだろ?」
「あるけど覚えてねぇなぁ。そもそもさぁヒトの顔なんて1ヶ月も会わねぇと忘れるじゃん?」
「フツー忘れねぇよ」
「え、じゃあ佐藤さんが大阪に行ってたときも忘れてたんスか?」
「1ヶ月も会わねぇっつーのはなかった気がするぜ?」
鈴木と田中と佐藤弟が目を合わせた。
「ありましたよね?」
「少なくとも俺たちはな」
「俺、余裕で3ヶ月とか会わなかったりした気がするけど」
「ヒソヒソ話してんじゃねーよ、お前ら」
佐藤の声に、どん!と丼の音が被った。
「オッチャン、カキ氷ひとつ!イチゴ!」
ともだちにシェアしよう!