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第19話 山田オッサン編【17】

 ラーメン屋を出てチンタラ歩く道すがら、佐藤弟がボヤいた。 「あー会社戻りたくねー、イチさんと別れたくねー」 「草葉の陰から応援してっから、さっさと帰って仕事に励めよ」 「草葉の陰って意味わかってっか山田?」 「イチさん死んじゃダメ!」 「あれ?」  田中がふと、遠くを見た。 「誰か走ってくんぜ?」 「このクソ暑ィのに……」 「山田さーーーーん!!」  自分と山田のものらしき鞄を両脇に抱えた乙女ゲームの王子様が、血相を変えて猛ダッシュしてくる。  誰アレ? と佐藤弟が訊き、本田と兄が答え、山田さんにくっついてる新人、と鈴木が補足した。 「あーあの、例の?」  佐藤弟が不機嫌なツラになったとき、本田が山田のもとにゴールした。 「山田さんっ、午後のアポっ、遅れます!」  汗だくで息切れしている王子様は、しかし暑苦しい汗の粒までがキラキラ輝いて見える。 「おっ前、外にまで迎えに来んじゃねーよ」 「お前がカキ氷なんか食ってっからだろ山田」 「王子はやっぱり、お姫様を迎えに来るんスねぇ」 「鈴リン何言ってんの? 意味わかんねぇソレ」 「弟がご機嫌ナナメだぜ? 佐藤」  佐藤兄の向こうで笑った田中を、本田がキッと睨んだ。 「え、何あの、敵を見るようなツラ?」 「鈴木に訊け田中」 「は? 何があったんだよ鈴木?」 「事故っすよ田中さん」 「事故って何が」 「係長たち! 山田さんはもらっていきますからね!」 「本田お前な」  グイグイ押されて愉快な仲間たちから引き剥がされていく山田。 「俺はまだ食後の一服が……」 「安全が確保されてる場所で吸ってください!」 「は? 安全……」  引きずるように連れ去られる山田を、残されたメンバーは呆気にとられて見送った。 「鈴木、どう始末つけんだよ? この展開」 「てか、安全が確保されてるって何だよ?」 「ねー、アイツ何様のつもり?」  3人の視線を一身に集めた鈴木は、清々しいツラで晴れ渡った青空を振り仰ぎ、大きく深呼吸した。 「あぁ、ヒトを駒のように動かすって楽しいなぁ」 「とんでもねぇコトしでかさねぇうちに誰かとめてやれコイツを」

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