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第24話 山田オッサン編【20】
田中のヨメの予定日も刻一刻と近づいてきたということで、今週末は佐藤兄宅で野郎だらけのパジャマパーティ開催と相成った。
もちろんパジャマなんか着ないし、もともと野郎だらけ率が高いヤツらだ。が、何の目的も意義もなく、ダラダラと非生産的で無為な時間を過ごせるチャンスはあと僅かしかない。少なくとも1人にとっては。
「あー、田中っちのパンツ、ミッキー?」
ソファにだらりと座ってテレビを観ていた田中に、床の佐藤弟が言った。
「は? あ、コレ?」
スウェットのウエストから覗くボクサーブリーフのゴムにミッキーマウスのシルエットが並んでいる。
「自分で選んだんじゃねぇよ」
「あぁヨメさんのチョイスか」
佐藤兄がニヤニヤ笑い、まぁなと投げやりに田中が言い、鈴木が缶ビールを開けてひとくち飲んだ。
「でも前が開いてないヤツだから、なんか便所がめんどくせぇっつーか」
「あーわかる」
佐藤弟が頷き、
「そりゃお前、ミッキーのパンツに穴が開いてるワケねぇだろ」
山田が煙草に火を点け、
「あぁ夢の国ですもんね」
鈴木が同意した。
「夢の国はパンツが前開きじゃいけねぇのかよ?」
「バッカ佐藤お前、コウノトリが赤ちゃんを運んでくる世界だぜ? ンなトコに穴なんか開いてていいワケねぇだろーが?」
「パンツの穴からガキ作るかよ?」
「そーだよイチさん、田中っちなんか前開いてないパンツで子作りしたじゃん」
「いや、そういう処女懐胎みてぇなノリじゃねぇし」
「てかチマチマ穴から出して子作りするヤツがいるか? 気合い入れて脱いで精出すに決まってんだろ」
「精出すって二重の意味っすね、この場合」
「うまいこと言ったと思ってやがんのか? 鈴木」
「いいから子作りから離れてくんねぇか」
「りょーかい田中っち。イチさんはどんなパンツ穿いてんの?」
「還暦パンツ」
煙を吐いた山田を全員が見た。
そばにいた鈴木が手を伸ばして山田のステテコのウエストを捲ると、ゴムにさりげなくカルバンクラインのロゴをあしらった真っ赤なローライズがお目見えした。
「たしかに還暦っすね」
「やべぇ! コーフンしてきた!」
佐藤弟が床からガバッと起き上がった。
「牛か、お前は」
冷えきった眼差しで弟を見た兄貴が、その目をそのまま山田に向ける。
「てか山田ソレ、テメェで買ったのかよ?」
「はぁ?」
「お前の自前にしちゃお高くねぇか」
「ナニ言っちゃってんの? 3枚千円だぜ?」
「靴下じゃねぇんだからよ。どこのパパに買ってもらったんだよ、あァ?」
「お前の知らねぇパパだって言えば満足かよ? それともお前が知ってるパパのほうがいいかよ?」
「その、妻の見慣れない下着発見で夫が嫉妬に狂って夫婦喧嘩勃発みたいな会話はやめてもらえませんかね、みんながいる前で」
「鈴木お前もナニ言っちゃってんの?」
「そーだよ鈴リン、兄貴とイチさんが夫婦喧嘩とかやめてくんねぇ!」
鈴木が缶ビールを傾けかけた手を止め、驚いたツラで弟を見た。
「え、いまさら? いつもしてるよね?」
「テキトーこいてんな鈴木、してねぇし」
「夫婦喧嘩してない日なんかあるんすか? 佐藤さん。あるってんなら佐藤さんのパンツも見せてくださいよ」
「やべぇ、鈴木がワケわかんねぇこと言い出したぞ」
田中が呟き、佐藤が言った。
「見てぇなら見せてやるけど、その前にお前のパンツを見せてみやがれ鈴木」
「俺はOバックっすけど、いいんすか? ホントに見るんスか?」
「マジ!? Oバック本物見たことねぇ!」
佐藤弟は大喜びだ。
「鈴木お前、Oバックがどんな必要あんの?」
田中が訊いた。
「まぁ山田さんみたいな必要はないっすけど。ねぇ佐藤さん」
「俺に何をどう賛同してほしいんだ鈴木」
「てか、お前ら!」
山田がビール混じりの唾を飛ばして喚いた。指に挟んだ煙草から灰がポトリと落ちる。
「今日は田中のマタニティブルーパーティなんだから、田中に穿かせてやれよOバック!」
「いや穿きたくねぇし」
「田中が産むのか?」
「田中っち、マタニティブルーなんだね」
「俺がいま穿いてるヤツでいっすか? 田中さん」
男たちのパンツパーティの夜は更けていく。
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