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第34話 山田オッサン編【25】
「なぁ佐藤、知ってっか?」
「何をだよ?」
「うまい棒の納豆味って他のヤツより細ぇんだぜ!」
山田が缶ビール片手に力説したが、佐藤の反応はイマイチだった。
「ふーん」
「何その、どーでもよさげなツラ」
「どーでもいいし。てか納豆味なんかあんのか」
「ナニ言っちゃってんの!? 納豆味が一番ウメェんだからな!」
「知らねーし」
仕事帰り、佐藤のマンション。
ここ数日は何となく一緒に会社を出て帰り、何となくここに連れて来られてメシを食っていた。
食い物は買ってくる日もあれば、家にある材料で佐藤が適当なモノを作る日もある。
食って帰んねぇ? と山田が言っても、気乗りしねぇとしか返ってこない。
「てか佐藤お前、意外と料理できるよなぁ」
「それくらいやれねーとオンナ受けしねぇぞ山田」
そんな具合で、今日は佐藤のお手製回鍋肉が山田のハラに収まった。
山田はくだらないテレビ番組を眺めながらダイニングのソファで缶ビール、佐藤はキッチンで洗い物をしている。
最近ここに来ることが多いな、山田はボンヤリ思った。引っ越してから約1年の間、全然来てなかったのに。
洗い物を終えた佐藤が戻ってきて、ソファに伸びていた山田を畳んだ。
「イテェな、何だよ」
「場所取りすぎだろお前」
「オネーチャンみてぇにコンパクトじゃなくて悪かったな」
「オンナと座ったことねぇから違いがわかんねーよ」
山田は隣に座った佐藤を見た。
「座りもせずにやったのか? ずいぶんガッツキすぎじゃねぇ?」
「やってねぇよ」
「え、だってお前」
山田はいつだかの記憶を反芻した。
たしかコイツは、ここでやったオンナの誰より良くしてやる的なことを言って山田を襲ったような。
それを言うと佐藤は眉を顰め、テーブルのパッケージから1本抜いて咥えた。
「襲ってねぇし、オンナとはやってねぇ」
「襲ったし、オンナとやったって言ったし、それ俺の煙草だし」
「いいじゃねぇか、メシ作ってやっただろ?」
「そーだメシだってよ、お前。一緒に住んでたときは作れなかっただろ? 独り暮らしになった途端に女とイチャコラしながら手取り足取り3分クッキングで鍛えたんじゃねぇのかよ、この1年で?」
「作れなかったんじゃねぇ、作らなかったんだよ。てか女の部屋でなら作ってたぜ? 前から」
「お前は俺のシャツのアイロンもかけずにオンナにメシ作ってやがったのかよ」
「アイロンかける代わりに抱いてやってただろ」
「何その恩着せがましさ? 全然代わりになんねーし。カン違いもいい加減にしろよ?」
「メシ作ってもらっても片付けすらしねぇお前が女にモテるワケねぇんだから、欲求不満を解消してやんなきゃなんねぇだろうが。感謝されても文句言われる筋合いはねぇ」
「お前な、俺がモテねぇと思って油断してたら大間違いだぜ? 磁石だぜ? 俺は。衛星だって制御しちまうくらい超強力の。メシの片付けなんかしなくたって、ろうなくにゃん……老若、にゃんにょ、犬猫なんでも吸い寄せちゃうんだぜ? 俺の意思に関わらず。メシなんか作んなくたってメシのほうから寄ってくるんだからな?」
「頼むから磁力よりも意思を強く持ってくれ、山田」
山田の煙草をスパスパ吸いながら、佐藤が放り投げるように言った。
「それに女はマジでこの部屋に入れてねぇ。ヤキモチ妬いて泣くヤツがいるからな」
「あれこれ大変だな、お前も」
山田が同情すると、佐藤が煙の向こうで目を眇めた。
「なに他人事みてぇに言ってんだ?」
「他人事だし」
「妬いて泣くのはお前だろうが山田」
「はぁ? ナニ言っちゃってんの? 俺がいつ妬いたんだよ?」
「さっき自分で言ったじゃねぇか、俺がどの女よりナントカって言いながらここでお前とやったって」
「それがなんだよ」
「あんとき、女とやる用のソファでなんか嫌だって涙目でさんざん暴れて抵抗しやがったの、どこのどいつだよ」
「俺じゃねーし、ンなコト言ってねーし! てか意味わかんねーし、てか佐藤! じゃあお前はなんでンなくだらねぇウソついたんだよ!?」
「妬かせてぇからに決まってんだろ」
「──」
山田は唐突に黙り、手を伸ばして煙草を抜き、咥えながらソファの上で胡座を掻き、前のめりの姿勢で火を点けて煙を吐いた。
「で、うまい棒の納豆味がさぁ」
「なんでそっちに戻んだよ」
「大事なコトなんだぜ!」
「わかったわかった、そんなに言うなら気が済むまで話せ」
「コンポタ味と並べてみたら、明らかに真ん中の穴のサイズが違ってんだぜ? コンポタの穴が小せぇの! 納豆味のヤツ、細ぇ上に穴がデケェとかズルくねぇ!?」
「サオは細くてアナはデケェ、まんまお前じゃねぇかよ山田。よかったな、大好きなうまい棒納豆味と同じで」
「ナニ言ってんの? 俺のロケットランチャーを何だと思ってんのお前? てかデカくねーしアナ! 緩んでねーし!」
「わかったわかった、そんなに言うなら確認してやるよ」
で、ソファの上で念入りに確認された。
「んン……! あ、佐藤、待っ!」
「たしかに緩んでねぇな。安心しろ山田、すげぇ締まってっから」
「うるせ、って……ちょ、そんな奥ッ」
尻を掴まれてグイグイ押し入られ、山田が逃げようとする。が、野郎2人を載せたソファの上ではままならない。しかも。
「電気……ナンでっ、消さねーんだよ!?」
頭上の灯りは煌々と点いたまま、テレビ番組も垂れ流したまま。おかげで声は紛れるというものだがしかし、佐藤の目から逃れる術はない。
「そりゃ、お前のうまい棒納豆味を確認するためだろうが?」
もはや赤ずきんとおばあさんの会話だ。
「てか、俺は納豆、味じゃ、ねぇって、言ってん、だろ!?」
佐藤の動きに合わせて抗議する山田。
「わかってるよ、納豆じゃなくコンポタだって言いてぇんだろ? でもここにねぇから何とも言えねぇし。今度持ってこい、サイズ比較してやっから」
俺の口でな、と耳に唇を押し付けて佐藤が囁く。
「え、エロオヤジみてぇなこと言うんじゃねぇっ」
「お前がそうさせてんだよ、いつもの倍くらいエロくせぇツラしやがって」
「誰が!」
「正直に言えよ、お前としかやってねぇソファで抱かれんのが嬉しくてたまんねぇって」
「誰が!」
「じゃあ、なんでこんなにうまい棒を濡らしてんだよ?」
「誰が──ぁ……」
股間のうまい棒を擦られて、山田が声の切れ端を切なく震わせる。濡れたソレより更に滴らんばかりの色艶に塗れる、その表情。
誘われるままに濡れた目を覗き込んだ佐藤が、甘ったるい鳴き声を漏らす唇をひと舐めして笑った。
「ほら、コンポタみてぇに締めてろよ?」
言うが早いか両手で腰を掴んで激しく再開され、山田は悲鳴を上げて仰け反った。
意味を成す言葉は、もう吐けなくなった。
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