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第37話 山田オッサン編【27-2】#
「あぁイチさん、ゴメン!」
佐藤弟が額の前でパン!と両手を合わせた。
「ずっとイチさん一筋だったこの俺としたことが!」
「いやお前今までもカノジョ作ってたし別に一筋でも何でもねぇと思うけど、ゴメンはそこじゃねーだろ!?」
「じゃあ、どこなの?」
妹から冷静にツッコまれてよくよく考えると、たしかにどこだかわからなかった。
オレの妹に手を出しやがって?
しかしソイツの兄貴はオレに手を出してる。
ぽん、と肩に佐藤の手が乗った。
「まぁ、なんか予想外の展開ではあるけど、いいじゃねぇか山田。これでやっとソイツもお前を卒業できんだからよ」
「──」
「何その、これでイチさんは自分が独占できちゃうぜ的なツラ?」
「ンなツラしてねぇし」
「してるね! 言っとくけどイチさんのことはこれからも好きでいていいって言ってくれてっからね、シオちゃんが」
「シオちゃんだぁ? 何その馴れ馴れしさ」
「呼び捨てのほうがいい? イチさん」
「──」
「私たち2人ともお兄ちゃんのことをすごく好きだから、うまくやっていけると思うの」
「共通点おかしくねぇか」
「そう?」
「てか紫櫻、ひとつだけ確認しておくけどな!」
「はい」
「もしもだ、お前がソイツと結婚したとする」
「うん」
「そしたら佐藤紫櫻だぜ?」
「あら素敵、シンプルね」
「わかってんのか? サトウシオーだぜ、砂糖塩っ」
「お兄ちゃんは佐藤一太郎ね」
「ナンでそーなるんだよ!?」
「あらやだ、なに赤くなってんの?」
「なってねーし、意味わかんねーし!」
ダメだ。寝起きで頭が回ってないところに2発も突っ込まれたり妹の部屋から弟が出てきたり、挙げ句の果てに妹はワケのわからないことを言うし、連打を浴びて体勢を立て直せない。
そう敗北をみとめ、
「てか次郎っ」
この場はとりあえず、大人しくオトナたちのやり取りを眺めていた次郎に矛先を向けることにした。
「お前はスズキと仲よしだけどいいのかよ? ママの仲よしがこのオッサンで」
「オッサンてイチさん俺、ママより若いんだぜ?」
「そういやお前、年下だな」
「僕ね、スズキのつぎにサトケンもスキだよ」
「お前サトケンって呼ばれてんのか」
「お前はサトヒロだな佐藤」
「お前は普通にヒロシって呼べよ山田」
「呼ばねーし!」
「呼んだらいいじゃない、お兄ちゃん」
「だから呼ばねーし!」
「お兄ちゃんたち、ほんとに仲がいいわね。妬けるわ」
「意味わかんねーし、いま目の前で妹を野郎に取られてる真っ最中の兄貴に向かって言うことかソレ?」
「てか真っ最中といえば兄貴もイチさんもさぁ、いくら仲良しでも昼間っからちょっとアレじゃねぇ?」
「何だよ」
「次郎の情操教育にもよくねーし」
「はぁ?」
「床でやると下に響くから気をつけろよな」
「──」
「──」
何も聞かなかったフリをして弟妹と別れ、一番近いラーメン屋に向かった。
いつくたばってもおかしくないジジイがやってる、衛生面に不安を抱かせる小汚いラーメン屋だがしかし、味は間違いないからついつい来てしまう。だから客のほうも、いつくたばってもおかしくなかった。
「こないだ、お前の妹と話してるときに思ったんだけどよ」
肉そば大盛を啜りながら佐藤が言った。
「お前が女だったら今ごろ小島の子供を産まされてるよな、山田」
「はぁ? 何でイキナリそーなんの? つーか紫櫻と何のハナシしてんだオマエ」
佐藤の顔を見て、餃子を2個まとめてラー油たっぷりの酢醤油に浸す。
「てか産むなら当然、お前の子だろ?」
だって今までどんだけヤッてると思ってんだよ?
2つ隣の席に学生っぽい2人連れがいるから後半は内心だけでツッコみ、2個の餃子をいっぺんに口にツッコみ、モグモグしながら更にライスを掻っ込んでるとき、佐藤がこちらを凝視してるのに気づいた。
「何?」
「俺の子?」
「あ? だって、そりゃそーだろ?」
「産んでもらおうじゃねぇか」
「は?」
「帰ったら早速タネ付けすっからな、山田」
「え?」
何言ってんだコイツ、洗濯物干しは?
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