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第47話 山田オッサン編【31-4】

「えーっと小島は、回数はちょっとわかんねぇなぁ」 「言いたかねぇけど山田お前、ヤツともずっと続いてるもんな?」 「寝た数で言うなら、全然お前には及ばねぇよ? まぁ、お前が道端でつまみ食いしたネーチャンたちと同じくらいじゃねぇかなぁ」 「俺が女と遊ぶたびに小島と寝たって言いてぇのかよ」 「そーいうワケじゃねーけどさぁ、だとしても目くじら立てんのやめてくんねぇ? お前が女に優しくすんのと俺が小島に優しくされんの、どー違うんだよ?」 「優しくされてぇなら言えよ」 「俺がしてほしいワケじゃなくてもするんだもん小島が。しょーがねぇじゃん。アイツ一番最初は縛ってさんざんイジメやがったクセによー、なんか知んねぇけどだんだんお姫様みてぇな扱いになっていきやがって」 「縛った?」  ツッコむと山田は少し黙り、 「いや、言ってねぇよ?」 「言ったよな? 縛ってイジメたって。しかもさんざん?」 「記憶にございませんね」 「そういや俺が大阪に行ってた間も、さんざん仲良くやってたんだよな? 小島とは」 「記憶にございませんが、佐藤くんが大阪で親しいジョシと仲睦まじくやってたのは知ってましてよ? あたくし」 「おネェでごまかそうったってそうはいかねーぞ。だからって小島んちに転がり込むこたねぇだろうが? お前がやってたのは半同棲じゃねぇか、一緒にすんな」 「別にお前が大阪に行ってた間中じゃねぇし、俺が行きたくて行ったワケじゃなくて連れてかれたんだし、お前はオンナと仲良くしてたんだから目クソ鼻クソじゃねーか」 「──」  萎えるどころか、今すぐ犯してやりたくなった。 「……今日のところはこれ以上ツッコまずにいてやるけどな山田、それについちゃ今度じっくり聞かせてもらうからな」 「って言われてもよー、記憶の欠片は日々零れ落ちてくんだぜ? 何しろ俺の抽斗には穴が空いてっからな」 「じゃあ抽斗が底抜けにならねぇうちに、お前のアナを全部埋めてやろうか」 「じゃあ続きは次回のお楽しみってコトで」 「全然楽しくねぇし」 「じゃあ訊くなよ、そもそも」 「念のために確認すっけど、まさか鈴木とはねぇよな」 「はぁ? ねぇよ。怖ェこと言うな」  どう怖いのかはツッコまないことにした。 「もう他にはいねぇな?」 「たまに道端とかエレベータの中で知らねーやつに迫られたりクチビル奪われたりってのは含めなくていいんだよな?」 「冗談で言ってんのか?」 「冗談ってことにしといてもいいぜ?」  そうしたいのは山々だったが、おそらく冗談じゃないから気が気じゃない。 「頼むから、もっと警戒心ってヤツを持ってくれ山田」 「ナニ言ってんの? 俺はいつでもピリッとしてんぜ?」 「その緊張感のないツラでか」 「こんなにいつでも緊張が漲ってるツラが他にあったら剥がして持ってこい、俺の前に」 「てか冗談じゃねぇにしてもソレ全部野郎の話だよな? 女は出てこねぇのか、お前の遍歴には」 「出てこねぇこともねーけど、ここしばらくはご無沙汰かなぁ」 「あったらあったで気に入らねぇけど心配になってきたぜ。大丈夫かそれで」 「何が?」 「お前、入れたくなることってねぇのか」 「え、佐藤お前、入れさせてくれんの?」  一瞬、想像しかけて鳥肌が立った。 「断る」 「だったらそういう心配すんのやめてくんねぇ? まぁ基本的にねぇけどさぁ。なんかあんま、してぇって思うことがねぇんだよなセックスとか」  何か難解な言語を耳にしたような気がして、佐藤は返す言葉を見失った。  してぇって思わねぇ? 寝るたびにあんだけのエロさを垂れ流しておいて? 「てか、してもしなくても、どっちでもいいっつーか。でも女とするってなるとさぁ、自分からいかなきゃなんないじゃん? それがメンドクセェからあんまりしねぇ結果になってんのかもなぁ」 「……で、相手が野郎だったらマグロになってりゃ済むってか?」 「そういう理由で野郎と寝るわけでもねぇけどさぁ、してぇならすりゃいいじゃん? ってなるだけで」  その投げやりな節操のなさは、経産省との過去が生んだ負の遺産なんだろうか。頭の隅に追いやった胸クソ悪さがじわりと滲み出てくる。  それにしても、男と寝るのは抵抗するのが面倒くさいんだろうと察してはいたが、そこまでモチベーションが低いとは思ってなかった。  ──つまり俺とのセックスも、成り行きで付き合ってるだけってことか?  たしかに一度たりとも山田から誘われたことはないし、言葉どころか態度で示されたこともない。そりゃ山田だって男だから、やりたくなったところで自分から抱いてくれなんて言い出しづらいだろうし。  それは別に自分だけじゃなく、他の野郎でも同様なんだろうけど……  そんな佐藤の懊悩を、のんきな山田の声が撃ち砕いた。 「あ、心配いらねーよ? ちゃんと自分から、されてぇってキモチになるコトもあんだから」 「──」  一瞬後には、佐藤は跳ね起きて山田を仰向けに押さえつけていた。 「誰に!」 「はぁ?」 「はぁじゃねぇよ、されてぇってのは女にじゃねぇよな? 言ってみろ、どこの野郎に抱いてくれなんて言ってんだ!?」 「あァ? えぇ? 抱いてくれとか言わねぇし……てか佐藤お前、わかんねぇのおかしくねーっ!?」  突然逆ギレした山田のツラを、佐藤は真上からまじまじ眺めた。 「あ、俺?」 「はぁ? ナニ言ってんのお前? じゃねぇとハナシおかしいよな!? やりたくなんのがオマエ以外だったら、他のヤツとはもうやんねぇとか言わなくねーか? 言わねーよな!」 「まぁ、たしかにな」

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