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第48話 山田オッサン編【31-5】

 悪かった、と口を挟む隙もなく、山田はマジギレの形相で佐藤に指を突きつけた。 「俺はな! 他のヤツとやるときは感じてもこんなモンだろうって平気なのに、お前にされて感じると、は……恥ずかしいんだよっ、わかるかよ!?」 「──」 「でもしてぇとか思うワケ! 恥ずかしくなんのわかってんのに、したくなんの! お前だけな! わかったかバカ佐藤っ」 「山田お前、自分で何言ってっかわかってんのか?」 「──あ?」  わかってなかったらしい。  山田は口を開けてしばらく見返してきたかと思うと、急に狼狽えたように目を逸らした。そっぽを向いた横顔がみるみる赤く染まっていく。 「お前さっき、してぇとか思わねぇって言わなかったか?」 「……あんま思わねぇっつったんじゃん」 「じゃあその、少しは存在する貴重なケースが俺かよ?」 「だったら何だよ!」  ヤケクソで吐き出す山田の顎を掴んで上を向かせ、佐藤はそのフテ腐れたツラに頬を寄せた。 「俺が今、何考えてるかわかるか?」 「わかんねぇ」 「ウソ言うなよ」  Tシャツの裾から手のひらを忍ばせると、山田がひとつ震えて目を細めた。たったそれだけの挙動でひと息に溢れだす艶めかしさ。 「俺はな山田、今日ばっかりはやめとこうと思ってたんだよ。こんな日はするべきじゃねぇってな?」 「──」 「せっかくの気遣いを無駄にしやがって……止めてぇなら今のうちだぞ」  耳に唇を押しつけて宣告し、首筋を辿ってノドに歯を立てる。溜息を吐いた山田が、佐藤の項に指を這わせた。 「こんな日って何だよ? お前が今さら気遣いとか……」  言いかけて一旦閉じた目蓋を、ゆっくりと開く。再び現れた目は、さっきのキレっぷりからは想像もつかないような色を帯びていた。 「ナニ気持ち悪ィこと言ってんの?」  呟きとともに重なってきた唇。つい先日初めて喰らったばかりの、山田からのキス。  ねっとりと吸いつき、佐藤の唇を舐め、隙間から忍んで舌に触れ、角度を変えて誘い込む。お返しにしゃぶり尽くすようなキスで応えると、山田がイキそうに喘いだ。  背中に回った腕がもどかしげに佐藤を抱き寄せ、脚を開いて腹を擦り付ける。 「早く──」  切羽詰まった声を上げて、山田が佐藤の股間を掴んだ。  布地の上から硬いモノを掴み、まるで自分がそうされたかのようなツラで悩ましげに眉間を寄せて、佐藤……と呼ぶ。 「いっぺんしか言わねぇから、よく聞いてやがれ」  何を、と問う前に山田は掴んだソレを手のひらで撫で上げて掠れた声で懇願した。 「舐めてぇ……頼むから」  頼まれなくたって、佐藤に異論のあるはずはなかった。      まだド平日で朝から仕事だというのに、やってしまった。  山田の舌技で危うくイキそうになり、引きずり上げて腹に座らせた1発目。  開き直った山田は見たこともない大胆さで性急に佐藤を受け入れ、とんでもなくエロいツラで腰を振った末、最後は下から突かれて泣きながら達した。  脱力して佐藤の上に崩れてきた山田と身体を入れ替え、今度はじっくり全身を舐め尽くした2回戦。  額から鼻筋、唇。軽く舌を交わしてから耳、首筋、鎖骨を這って肩先、肘。指も1本ずつ口に含んだ。  いっぺんゴールしたことで我に返ったのか、打って変わって普段どおりに戻っていた山田は、くすぐったいだの何だのとやたら文句を垂れた。さっき舐めてぇとねだったいじらしさは、どこへやら。  が、無視して左右の乳首、腹、腰骨の内側から股間へ。何だかんだ言いつつも熱を持ちはじめていた山田のムスコを丹念にしゃぶり、さっきまで佐藤が入っていた穴も懇切丁寧に舌で辿った。  山田は佐藤の髪を掴み、喘ぎを震わせて抗議し、押し上げられた脚を痙攣させた。  このままアナを舐められながらイクんじゃないかってくらい全身が震えだした頃、ようやく解放して内腿から膝裏へ。足首を掴んでアキレス腱を歯でなぞり、また指をひとつひとつ咥えて舐め上げる。ここでも文句の嵐だ。  ンなモン舐めんなヘンタイ、オマワリ呼ぶぞ! と喚くから土踏まずに噛みついて舐め回してやったら必死の抵抗に遭った。  足の裏は山田の弱点のひとつで、まるで性感を刺激されてるかのような反応を見せるから面白い。  表側をコンプリートし、俯せになれよと言うと、裏もやんのかよ? と山田は不平を漏らしたが結局は言いなりになった。  こうなったら気が済むまでやりやがれヘンタイ、と両手を頬の下に敷いた俎上の鯉の骨ばった背中。  隆椎の突起を噛むと、山田は緩く身じろいだ。翼でも隠していそうな肩甲骨の造形に手のひらを這わせ、内側の窪みから脇腹へと唇を滑らせて甘噛みする。  細い腰を掴んで膝を立たせ、小さな尻から再び奥の穴に喰らいつくと、山田がビクリと震えてまた文句を垂れた。  逃げようとする腰を引き戻して脚の間に手を入れ、すっかり勃起したモノを掴む。そうしておいて改めて尻アナを舐め上げた途端、山田はしがみついた枕に額を埋めてゾクゾクするほど色っぽい溜息を吐いた。 「やめ……ソコ、もぉ…佐藤っ」 「このまま入れるか? それとも前にするか?」 「──前ッ…」 「いいのかよ? 後ろからされんの好きだろ?」 「前がいいっつってんだろ……!?」  佐藤的にはちょっと残念だったが仕方ない。  別に後ろからやると征服欲が云々って話じゃなく、山田が悶える動きに合わせて骨ばった背中の陰影が移ろうのを眺めるのが好きだった。  女のような柔らかさは決してない身体。むしろ、あらゆる無駄を削ぎ落として余計な筋肉も付けず、一切の飾り気もない山田の痩身。ソイツがひどく美しいと気づいたのはいつだっただろうか。

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