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「あっ、ふぅっ…かゆ…痒い!」  後孔に塗り込められたローションに、媚薬成分が含まれているとも知らないで、襲った痒みに翻弄されて腰を浮かせる佐藤の姿は、もはや男を誘っているようにしか見えやしないけれど、本人はそれに気づけない。  もともと、自分のミスが招いてしまった結果だが、こんなことになってしまうとは数時間前までは考えてもいなかった。  佐藤は今日、信じられないような失敗を仕事で犯した。大切な取引先から預かったデータを紛失してしまったのだ。  今になって考えてみれば、速やかに謝罪をし、再度データを送って貰えば済んだ話だったのだが、信頼を失いかねない事態に佐藤は動揺した。  一年以上の時間をかけ、ようやく契約へと漕ぎつけたのだ。本来ならば反りの合わない部長に報告せねばならない事案だったが、このとき佐藤は焦るあまり、明らかに判断を誤った。  データのバックアップがあると香川が囁きかけてきた時、佐藤は陥れられたことに一瞬にして気がついた。  失くしたことすら言っていないのに、持っているなどと告げてくるなんて、コイツは馬鹿かと内心思った。それでも、今晩飲みに付き合ってくれたらデータは返すという条件に、佐藤は自身の保身と面子を優先してしまったのだ。  香川は入社二年目ながら仕事面ではかなり優秀な人物で、背が高く顔立ちも整っており、社内でも目立つ存在だった。  その真面目な仕事ぶりは上司である佐藤も高く評価していたのだが、個人としては人当たりもいいこの部下のことがなぜかとても苦手だった。  言葉ではうまく言えないけれど、目が合うだけで背筋が寒くなるような緊張感に包まれた。  もちろん、仕事に私情を挟むつもりはなかったから、常に普通を心がけて接していたが、もしかしたら自分は彼の本質を本能的に感じ取っていたのかもしれない。

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