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「単刀直入に言おう。君のペットを見せてくれないか?」
まさか、呼び出された社長室で、そんな事を言われるとは微塵も思っていなかったから、奈津は酷く驚いた。だが、そんな素振 りは露も見せずに唇の端を少し上げ、
「どういう意味でしょうか? 家にペットは居ませんが」
と、冷静に返事をする。
「まあ、そう言うだろうと思ってたよ」
代替 わりした社長の加納 は四十代半ばというが、せいぜい三十代後半にしか見えない。背も高く、奈津や薫とあまり変わらない引き締まった立派な体躯は、ジムにも通い鍛えているからと女性から噂されていた。
「半年程前に、退職した佐藤係長を覚えているかい?」
「はい。上司でしたから……確か、ご両親の急な不幸で、実家の旅館を継ぐ事になったそうですね。引継書と退職関係の書類は送ってきていた筈ですが、それがなにか?」
かつての上司の話題に全く食いつかないのもおかしいから、奈津は怪訝 な表情を作り加納に質問を投げかける。
たぶん、相手は何かを掴んだ上で自分をここへ呼んだのだろうから、なるべくそれに乗らないようにしなければ……と、考えた。
「調べてみたら、彼は天涯孤独だった。親も兄弟も居ないし、親戚付き合いすらない。で、何故嘘を吐いてまで、辞めたのか気になった訳だが」
「プライバシーの侵害では?」
「君は賢いな。だが、これを見ても言えるかい?」
数枚の写真を渡され、奈津はそれに目を通す。その際、動揺して視線が動いたりしないよう、細心の注意を払った。
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