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 リビングへ入り革張りのカウチソファーへ和真を下ろしてやれば、すぐに床へと降りようとしたから「動くな」と言って制止した。  クロークからバスローブを取り出し怯えた様子の和真に着せる。と、困惑したかのようにこちらを見上げる(うる)んだ黒い瞳に嗜虐心がそそられた。 「和真、なんて言うんだっけ?」  衝動を抑え顎へと触れて囁けば、「ありがとうございます」と返事はするが、その顔色は蒼白だ。部屋の空調は適温に設定してあるのだけれど、カタカタと体を震わせていた。 「寒い?」  隣に座って(たず)ねると、首を何度か横へと振るから、薫は和真の体を持ち上げ自分の膝の上へと下ろす。 「今日は一日一緒にいてあげる」  向かい合わせになった状態で笑みを浮かべてそう告げれば、和真の瞳に絶望の色が浮かんだが、すぐに口角を必死に上げて「嬉しいです」と返事をした。 (ホント、よく躾られてる)  ここに来て最初の頃は抵抗しては仕置きをするの繰り返しだった。それをここまで躾たのは他でもない自分と奈津だ。  最近は和真も素直で従順になってきたのに、内に押し込めた反抗心が体に出てしまったのだろうか? (方法を変えないといけないかもしれない)  そんなことを考えながら、やつれてしまった顔を見ていると、薫の胸に言いようの無い苦い感情がわきだした。  ***  和真の生い立ちは多少変ってはいたものの、同じ境遇の人の中では恵まれていたと思っている。  一人っ子だった和真だが、幼いころに両親を事故で亡くしており、母方の祖父に引き取られたが、優しかった祖父との暮らしも中学の頃に終わりを告げた。  末期がんだと分かった時には手遅れで、治療もできない状態だったのだ。

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