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「へえ」  興味無さそうに答えた薫は再び視線を画面へと向ける。何を理由に折檻されるか分からないから、何事も無く済んだことに和真は心底安堵した。    思えば、最後に叔父の奈央(なお)と会ったのは、大学2年生の冬、二十歳(はたち)の誕生日だったと記憶している。  誕生日にはいつもケーキを買ってきてくれていたのだが、この日は成人祝いだからと有名ホテルのレストランで食事をした。  しかし、記念日だったのにも関わらず、その日の記憶は酷く曖昧だ。  それまでの誕生日はわりと詳細に覚えているのに、どういう訳か彼と一緒に自宅マンションへ帰ってからが和真には思い出せなかった。    あの日は初めてアルコールを口にしたから、酔ったせいで忘れているだけだろう。と、思考をいったん切った和真はテレビの画面をぼんやりと眺める。  それはどうやら洋画のようだが見たことのない映画だった。だが、映画をほとんど観ない和真でも見たことのある俳優がいるかから、きっと有名な作品なのだろう。  最初は聞こえていたはずの音声が聞こえないことに、もしかしたら薫が自分を気遣ったのではないか? という考えが浮かんでくるが、確かめることはできないから黙って字幕を目で追っていると「つまらないだろ? 外を見ようか」と耳元でささやく声がした。 「這わなくていい。立てるか?」  先に立った薫がこちらへと手を差し伸べて告げてくる。  これまで、週末以外昼間の時間は常に一人で過ごしていた。それも、拘束をされて卑猥な道具で苛まれるのが常だったから、初めてのことに和真は戸惑う。  目の前にある薫の手のひらを掴んでいいのかも分からないから、なんとか一人で立とうとするけれど、膝がガタガタと震えてしまって思うように動けなかった。

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