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(どうして?)  いつもなら、奈津が仕事から帰ってくるまで薫は自室に籠っている。  リビングに隣接している二つある部屋のうち、一つはベッドルームになっていて、残りの一部屋が薫の仕事部屋だというのは知っていた。  立ち入ってはいけない場所だと二人から言われているし、入ろうとも思わないけれど、彼が部屋へと入ってしまえば、体は愉悦に苛まれても精神的には楽になった。  それがなぜ、今日に限って薫が自分と一緒にいるのか分からない。過去に体調を崩した時にはたまに様子を見に来たけれど、こんなことは一度もなかった。 「ほら」  狼狽(うろた)えて動けないでいると、手首を掴まれ引っ張られる。脚に力をうまく込められず、立ち上がれない和真の体は倒れそうになったけれど、すぐさま薫に支えられ、結局抱き上げられてしまった。 「いい天気だ」  リモコンを使いカーテンを開けた薫の声音は、いつもどおり淡々としている。  大きな窓の向こう側は広いバルコニーになっており、木目の床に観葉植物とテーブルと椅子が置いてある。  この部屋に囚われてから初めて見たその風景に、時を忘れ、食い入るように和真は青い空を見上げた。 「そういえば、昼間には外出してなかったな。大きな声、出さないって約束できるか?」  薫に問われて和真は頷く。大きな声を出す気力などありはしないし、もう折檻は受けたくない。逃げようなんていう考えは頭の中から消えていた。 「なら、外に出てみようか」  告げた薫が再びリモコンを操作すると、大きな窓がスライドをして音もなく開いていく。暖かな外気に触れ、和真の体がピクリと震えた。

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