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 *** 「ん……うぅ」  唐突に、意識を現在(いま)へと戻される。理由は和真が呻いたからで、足元に(ひざまず)かせた彼へとシャワーを浴びせていたのをすっかり失念してしまっていた。 「ああ、ごめん。苦しかった?」  いったんシャワーの湯を止めてから手早く衣服を脱ぎ去った奈津は、ふらつく和真の背中を支え、ぐっしょりと濡れた髪をかきあげて下から顔を覗き込む。 「目が真っ赤だ」  泣きすぎたせいで腫れた目元へとキスをしてから抱き上げると、泡で満たされたバスタブへ入り背後から彼を抱きしめた。 「今日は……和真が心配だったから、早く仕事を切り上げた」 「……あ、ありがとうございます」  胸の尖りを飾るピアスを弄びながら囁くと、肌がほんのりと赤く色づき、強ばっている和真の体がヒクリと震えるのが分かる。 「嬉しい?」 「はい、んぅ…嬉しい……です」  リングピアスを強めに引いて耳たぶへ軽く歯を立てれば、小刻みに体を震わせながら、奈津の求める返事を紡いだ。  それが本心ではないことは、奈津にも薫にも分かっている。  しかし、意志をねじ曲げられ、絶望的な状況の中で愉悦に溺れる彼の姿は息をのむほどに妖艶で……もしかしたら、飼われているのは自分たちの方ではないか? と、思うことも時々あった。  そんな風に見えてしまうことが、彼にとっての悲劇なのかもしれないが……。 「どうしてほしい?」 「ちくびで……イきたいです」 「いい子。だけど、体調が良くなるまでは我慢な」  そう耳元で囁けば、ほんの僅かな変化だけれど、ホッとしたように肩から力が抜けたのを奈津は見逃さない。  きっと無自覚なのだろうが、彼を手に入れて一年ほどが経過したにも関わらず、完全に堕ちていないところが嗜虐心を余計に煽った。

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