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 *** 『嫉妬か?』  『そうかも』 『どっちに?』  和真を医師へと見せた後、奈津は薫と話をした。  躾のため、わざと理不尽な怒りかたをしたのだが、それを加味しても、いつもとは違う自分の様子に薫は気づいていたようだ。 『和真に……かな』  自分が仕事で不在の間、和真が薫を誘惑したという理由。それが一番しっくりとくるが、それだけでは無い事を奈津も自覚している。 『あと、薫にだけ和真がなついたように見えたのも不愉快だった。薫だって逆の立場ならそう思うだろ?』 『確かに。けど、ペットのケアは飼い主の努めだ。今回のことは俺にも奈津にも責任がある。相談しないでケアした事は謝るから、機嫌を直してくれないか?』  ソファーに座る奈津の隣に座った薫が、耳朶(みみたぶ)へと舌を這わせて囁いた。 『いいよ。その代わり……同じだけの時間、俺にも和真をちょうだい』  薫の頭を掴んだ奈津はその唇を深く塞ぎ、愛しい従兄弟(いとこ)としばしの間、舌をねっとりと絡ませあう。 『ダメとは言えない……か』 『だろ?』  キスのあと、困ったように眉尻を下げる薫に対し、悪戯っぽく奈津は微笑み……それから、和真を飼う前はいつもそうしていたように、オーラルで愉悦を(むさぼ)りあった。  けれど、和真がいないと物足りない。薫もきっと同じ感情を抱いているはずだ。  過去に二人で飼ったペットと和真はまったく違っている。  それは――。 「やっぱり食べるの難しい?」  数時間前のやりとりを思い出しながら、目の前で粥を食べる和真へと声を掛ければ、ピクリと肩を震わせた彼は、いったん手を止め「ごめんなさい」と消え入りそうな声で答えた。  彼を車で連れてきたのは都内にある料亭で、個室の外は都心部とは思えないような、広く美しい日本庭園になっている。

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