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「っ、あっ……ああっ! いたいっ、ゆるしてっ、ごめんなさ……」  何が彼の逆鱗に触れたか分からない。いつもの事だ。一切の抵抗をせず命令に従っても、結局彼らは理由をつけて和真を酷くいたぶった。   始まるであろう折檻に怯え和真は体を強ばらせるが、次の瞬間……どういう訳か奈津の手のひらが股間と手首から離される。 「……間違えた」 「あ……あ」 「震えてるな。怖かった?」  抱き締められ、あやすかのように頬や額へとキスをされるが、うまく応えることができず、彼が何を間違えたのかを尋ねることもできなかった。  いつもは和真がどんなに泣いても愉しそうに攻め立てるのに、本当に今日は奇妙なことばかりが起こる。  それが心底怖かった。  それから、外されたシャツのボタンを器用な手つきで留め直し、和真の体を抱き上げた奈津は、「そろそろ時間だ。帰るよ」と告げてくる。   頷くしかない和真だったが、このまま抱かれた状態で外に出るのはかなり恥ずかしいから、控えめに「自分で歩けます」と訴えた。 「この状態で歩くのは無理だ。涙も止まらないみたいだし、体も収まってないだろ」  確かに奈津の言うとおり、涙腺が壊れたみたいに和真の涙は止まらない。それに、熱を持ってしまった性器は痛いくらいに張りつめていた。あと少し、刺激があれば達することができるのに、触れることは許されていない。 「恥ずかしいなら俺の肩に顔をつけてればいい。まあ、たぶん誰にも会わないだろうけど」  確かに、この料亭は一部屋一部屋が離れのように独立した造りになっていた。部屋を出たら駐車場までは庭園の中を歩いていくが、まだ夜にはなっていないから他人と会う可能性はかなり低いと言えるだろう。  そんなことを考えながら、どうせ逆らう術もないのに無駄なことだという感情が和真の心を満たしていった。

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