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 視線の先、加賀と一緒にいる青年へと奈津が声をかけている。  呼び止められ、振り向いた彼の(ひたい)へと……奈津が手のひらで触れたのが見え、和真は僅かに首を(かし)げた。 (何をしてるんだ?)  驚いたような表情をした加賀と奈津とが話しているが、離れているため内容までは聞き取れない。そして、奈津の手のひらが離れた途端、青年の体が崩れ落ちた。 「あっ」  驚きのあまり思わず小さな声が出る。彼らの間で何が起こっているのかが、和真には全く分からなかった。  まるで、糸の切れたあやつり人形みたいに崩れ落ちた細身の体が、地面に叩きつけられてしまうと思って和真は焦ったが、そうなる前に加賀が手を伸ばして抱き上げたのが見えたから、安堵(あんど)に小さな息を吐く。そして――。 (逃げないと)  なぜか唐突(とうとつ)にそう思った。  苦笑を浮かべた加賀がこちらへと視線を向け、奈津に何かを告げている。それに返事をしている奈津は、こちらに背中を向けていた。  だけど、(まと)う雰囲気が変わったことは空気から伝わってくる。 (怖い)  これまでも、散々怖い思いをしてきた。その経験が、今の奈津はさっきまでとは違っていると告げてくる。  こんなことは前にもあった。 (今のうちに……はやく)  震える足へと力を込め、和真がどうにか立ちあがれたのは、恐怖に駆られた衝動的な行動だった。しかし、一歩も踏み出す事ができずに(たくま)しい腕へと囚われる。 「待ちきれなかった?」  明らかに、声もさっきとは違っていた。他人が聞いてもきっと変化に気づくことは無いだろう。怒気と呼ぶのは正解ではない。これは――

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