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毒だ……と、和真は思った。こんな声音 を奈津が使う時、和真は常よりさらに酷い折檻を受けることになる。前回はいつだっただろう? 理由はあって無いようなもので、悪いことなどしていなくても、どんなに謝罪を繰り返しても、許されたことは一度もない。
「どうしようか。家まで保つかな」
「っ!」
強い力で背後から抱かれ、息をするのが困難になった。
「まさか、逃げようとしたわけじゃないよな」
耳朶をザラリと舐め上げられ、背筋がゾワリと冷たくなる。その声は、蕩 けるような甘みを帯びているのだが、和真にとっては地獄が始まる合図にしか思えなかった。
「和真、返事は?」
再び抱き上げられた和真は、唇だけに笑みを浮かべる端正な顔を瞳に映す。
先ほどからの短い時間、彼に何が起きたのかは分からない。けれど、尋ねることもできやしないから、恐怖に体を震わせながらも「はい」とどうにか言葉を紡ぎ、和真はそこで意識をプツリと手放した。
***
「あれ?」
腕の中、クタリと力の抜けた和真を見下ろして、奈津は僅かに首を傾 げると「しょうがないな」と低く呟く。
きっと、極度に高まった緊張と、体の疲労が重なったために意識が保 たなくなったのだろう。
随分と軽くなってしまった和真の体を抱いたまま、奈津は停めてある車まで歩き後部座席のドアを開く。
「和真、俺は許してないよ」
意識を絶って逃げることを、奈津は許していなかった。だから、すぐに叩き起こそうとしたが、ちょうどその時、他の車が駐車場へと入ってきたため、動きを止めて舌打ちをする。
「さて、どうしてやろうか」
物騒な言葉を呟きながらも、シートへ和真を寝かせた奈津は、急ぎ足で運転席へと乗り込んだ。
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