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 彼らの住んでいるマンションの壁と天井は白の漆喰(しっくい)だが、今いる場所の壁は木目(もくめ)で高い天井に立派な丸太の(はり)が通っているのが見える。 「いい夢見てた?」  そう(たず)ねてきた薫の顔が歪んだように見えた刹那、「もう待たなくていいだろ?」と、苛立ったような奈津の声が響いてきた。 「あ……」 「そうだな。これだけ眠ったんだ、和真はもう元気だよな?」  こんな時、否定の言葉を紡げないことは分かっている。小さく頷き返した時、「いい子だ」と優しく額を撫でられたのが、奇妙だったこの一日の終わりを告げる合図だった。 「薫、こっちに寄越(よこ)せ」  いつの間にか近くに来ていた奈津の顔を見た途端、和真は自分の体からサッと血の気が引いていくのを感じる。 「ああ。よく我慢したな」 「薫が止めるからだろ」 「和真はこれまでのペットとは違う」 「分かってる」  薫とキスを交わした奈津が、やや強引に和真の体を担ぎ上げ、そのまま室内を歩きだしたから恐怖と不安はさらに増した。  なぜなら、こんな時いつも行動を共にするはずなのに、薫はソファーに座っていたから。  縋るような視線を向けた自覚はまったく無かったが、笑みを浮かべひらひらと手を振る薫の姿を瞳に映し、和真の心は絶望感に包まれた。  それは今日一日、短い時間を二人それぞれと過ごした中で、薫との時間がとても穏やかだったからに他ならない。 「殺すなよ」 「分かってるって」  物騒な言葉を紡ぐ薫に対し、苛立ちを隠そうともせず答える奈津の声音に怯え、和真の体は意思に反してガタガタと大きく震え始めた。    *** 「どうしたの? こんなに震えて」  温めの湯を張っておいたバスタブの中へと和真を入れ、虚ろな瞳でこちらを見上げる彼に微笑みを向けてから、奈津は自身を抑えることなく頭を掴んで湯の中へと押し込んだ。 「――!」  ぶくぶくと気泡が水面に上がり、ばたつく手足が弾く飛沫が服にかかるが、まったく気にはならなかった。腹の底から欲情の波がとどまることなく溢れてくる。

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