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  (ここ、どこ?)  見覚えの無いその部屋に、強い既視感(きしかん)を覚えた理由は、過去に一人暮らしをしていた部屋にとても似ていたから。自分が意識を絶った場所とは明らかに違う光景に、事情が分からぬ和真はかなり戸惑った。 「うぅ……」  とりあえず、起きあがろうと動いてみるが、うまく身体に力が入らず、ベッドの下へと落ちてしまう。衝撃に、身体を丸めて震えていると、ドアが開く音が聞こえて足音が近づいてきた。 「大丈夫か? 」 「あ……」 「痛くない?」  薫の腕に抱き上げられ、和真は小さく頷き返す。 「そうか」  短く答えた彼は和真をソファーへ横たえ、「少し待ってろ」と言い残してから、足早に部屋を出ていった。 (どこなんだろう)  膝を抱えて身体を丸め、反対側の壁に設置された大きなテレビを瞳に映す。真っ黒な画面には、寝衣を着た自分の姿が反射しており、あまりに貧相なその有様に情けない気持ちになった。  あえてそこから視線を逸らし、ぼんやりと壁を眺めていると、再びドアの開く音がして、薫が歩み寄ってくる。 「起きあがれるか?」  持っていた皿をテーブルへ置き、和真の背中を支えた薫は、体が倒れてしまわないように、クッションを腰とソファーの隙間へ差しいれた。 「ありがとうございます。大丈夫です」  喉が酷く痛むけれど、必死に声を絞りだす。労るような薫の様子に、和真は恐怖を感じていた。   「怯えてるな。震えてる。まあ仕方ないか」  隣に座った薫が皿へと手を伸ばし、「口を開けろ」と命じてくる。逆らうなんて選択肢など今の和真の中には無い。声に従い薄く唇を開いて待てば、少しして、一口大にカットされている桃がピトリとあてがわれた。 「桃、食えるだろ」  薫の声に頷いて、フォークに刺さった桃を口内へ受け入れる。久しぶりに口にした桃はやわらかく、とろけるような食感で、その瑞々しさで、喉の痛みがいくらか柔らいだような気がした。 「……甘い」  感想が、思わず声に出てしまう。すると、クスリと笑う声が聞こえ、大きな掌が頭を撫でた。 「なら良かった」  促されるまま二度、三度と運ばれる桃を食べていると、先日葡萄を和真に与えた奈津の姿が思い出される。 (きっと、嘘だ)  ここにはいないと薫は言ったが、奈津は近くにいるはずだ。きっとまた、和真が緊張を緩めた瞬間、姿を見せるに違いない。 「そんなに怯えるな。この前とは違う。奈津はここを知らないし、当分教えるつもりもない」  その結論に至った途端、震えがさらに大きくなったのを、目の前にいる薫は見逃さなかった。テーブルへと皿を置き、和真の身体を抱き寄せる。 「すぐには信じられないだろうけど、俺は奈津からおまえを(さら)った」 「……え?」  にわかには信じられない言葉に、和真が瞳を見開けば、目の前にある端正な顔は、いつもの物とは明らかに違う、憂いを帯びた笑みを浮かべた。

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