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「んぅ……ぐぅっ!」  絶頂感は波のように襲うのに、射精ができない苦しみで、和真の目から涙が(こぼ)れる。 「イけないか。この前、口でやった時には出せたのに」  不思議そうに呟く声も、意味を持った言葉としては頭に入ってこなかった。 (いきたい……のに……)  塞がれた口が苦しくて、徐々に意識が遠のいていく。激しく奥を穿たれたい。もはや、それだけしか考えられなくなっていた。  今、声を出せたとしたら薫に懇願しただろう。そして正気へと戻った時、激しく自己嫌悪するのだ。  望んでいないと言いながら、たやすく溺れる自分自身のあさましさに――。  ***    結局、和真が意識を飛ばしたせいで、射精へは導けなかった。  きっと、心と体のバランスが、大きく崩れているのだろう。つい先ほど、与えた桃を『甘い』と言った辺りから、和真の体は僅かな変化を示していたが、自覚していないようだった。 (とりあえず、様子を見るしかない……か)  そんなことを考えながら、薫は意識を絶った和真の身体を抱き上げ、再びベッドへ運んでやる。  それから、蒸したタオルを取りに行き、和真の下肢から下着を脱がせて汚れてしまった性器を拭った。 「んっ」  眉間に僅かな皺を寄せ、和真は身じろぎをするけれど、起きる気配はまるでない。太股(ふともも)や足首などに色濃く残る縄の痕へと指で触れ、労るようになぞりながら、彼と初めて出会った日へと、薫は遠く思いを馳せた。  それは薫が13歳、中学校1年生の冬のこと。  小学校6年生まで、薫と奈津は信州にある地方都市で暮らしていたが、中学は二人揃って都内の私立へと進学した。  家長である奈津の父親は、地元の公立中学でいいと言っていたのだが、難関私立中学への合格を果たし二人は、親族を味方に付けて説得し、最終的には許してもらえた。    条件として、  二人で暮らすこと。  目付兼家政婦を一人付けること。  成績は一桁以内を守ること。  成績が下がれば即座に、地元信州の中学へ転校させると言われたが、結果としてそんな未来は訪れなかった。    和真とはじめて会ったのは、上京してから半年以上が過ぎた頃。  その日は朝から曇天で、今にも雪が降ってきそうな寒い日だった。クリスマスムード一色(いっしょく)の街に木枯らしが吹き(すさ)び、街路樹は揺れ、薫が立つ石畳にも枯れ葉が低く舞っていた。 『このマンション』  時刻は夜の7時過ぎ。  隣に立つ奈津が放った言葉に首を(かし)げれば、『この前言っただろ。父親が若い男を囲ってるって』と答えた彼は、端正な顔に笑みを浮かべる。

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