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先日、父親の奈央 が都内で男を囲っていると、言われた時には驚いた。
どうやって調べたのかは分からない。けれど、『だから、俺らを都内に来させたくなかったんだ』と話す声には、どういうわけか? 明らかな喜色が滲んでいた。
状況に全くそぐわぬその声色 と表情に、背筋がゾワリと粟立ったのを覚えている。
『で、どうする? 乗り込んで確認する……とか?』
『それだと警戒されるだろ。それに、セキュリティーも結構厳しい。とりあえず、今、父さんが中にいるのは分かってるんだ。出てくるまで、あそこで見てよう』
そう言いながら、奈津が指で示したのは、マンションの向かい側に建つ洒落 た外観のカフェだった。繁華街から離れているため、混みあっている様子もない。
『何時間かかかるか分からないじゃん。泊まるかもしれないし』
促されるまま、奈津に続いてカフェへと入り、上着を脱いで窓際の席へ腰を下ろす。ウエイターに注文をしてから、薫が疑問をぶつければ、『泊まったことはないみたいだ』と答えた奈津は、スマートフォンを操作して、一枚の写真をこちらへ見せた。
『これ……』
『似てるだろ』
そこに映し出されていたのは、これといった特徴もない制服姿の青年だが、奈津の言うとおり、その容姿には見覚えがある。
『ああ、似てる。優真に』
この青年自体には、全くもって見覚えが無かった。しかし、良く似ている人物ならば知っている。優真という人物とも面識は無かったが、画面に映る彼の姿は何度か目にしたことがあった。
『これは優真の息子。和真っていう名前で、高校生らしい。父さんは、優真の代わりにこいつを使ってるのかな』
『どうだろう。それは無いと思いたいけど……』
曖昧に答えた薫は、運ばれてきたホットチョコレートを一口啜 る。と、蕩 けるような優しい甘さが口の中に広がった。外はかなり寒かったから、温かさが身体に沁 みる。
『調べて、確認して、それからどうするつもり?』
『決めてない。けど、なんかムカつくから見に来た。嫌なら帰っていいよ、一人で確認するし』
『嫌なわけ無いだろ』
疑問を尋ねはしたけれど、決して嫌なわけではなかった。せっかくのクリスマスなのに、探偵ごっこに興じているのはどうなんだろう? と思いはするが、奈津の関心があることならば、仕方がない。
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