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「それは……もう、俺は記憶をどうにかされてるってこと……ですか?」  ようやく話が少し見えてきた和真が控えめに尋ねれば、「そうだ」と返事をした薫が、そっと額に触れてくる。 「奈津に消されたんじゃない。奈津の父親……香川奈央に消されてる。和真が高校生の時だ」 「奈央って……」 「そう、和真が知ってるその人が、奈津の父親だ」  一瞬の間を置いて、言葉の意味を(とら)えた瞬間、和真の心臓は早鐘のように鼓動を速め、激しい眩暈にみまわれた。 「そんな……嘘だ」  否定の言葉を紡ぐけれども、それはかなり弱々しい。 「奈央は、戸籍上では和真の伯父(おじ)になってるけど、血縁は薄い。佐藤は母親の姓だろう?」  問われた和真は小さく頷く。  いくつかある分家筋に佐伯(さえき)という家があり、その次男が優真だったと続けた薫は、いったんそこで言葉を止めた。 「顔色が悪い。休んだほうがいいな。今、薬を持ってくるから、少し待ってろ」 「……あ」  心配そうな表情を見せ、立ち上がろうと動いた薫の腕を思わず掴んでしまう。 「どうした?」 「大丈夫です。話の続きを……」  最後まで話を聞かなければ、休む気になんてとてもなれない。きっと、薬を飲んでもちゃんとは眠れないだろう。 「……分かった」  そんな和真の気持ちを薫も()み取ってくれたようだった。再びベッドへ座り直して和真の髪を撫でながら、「話すけど、辛かったら()めてくれ」と告げてくる。  まだ全てを咀嚼(そしゃく)しきれてないけれど、覚悟を決め、和真は「はい」と声に出して返事をした。  *** 「当主は……力が最初に現れてからの数年間、力を使用するたび、かなり暴力的になる。長い歴史の中で、例外はほとんど無いらしい。暴力だけならまだいいが……性的興奮も同時に高まる。だから、いくつかある分家筋から、それを受け止める役目を選んで当主へと宛がってきた」  こちらを見上げる和真の瞳が潤んでいるように見え、胸が鈍い痛みを覚える。けれど、始めたからには最後まで話す義務がある……と、薫も心を決めていた。 「受け止める役目は、男と決まってる。女だと間違えて妊娠させる可能性があるし、男の方が頑丈だから。何年か相手をさせて、最後は記憶操作をしてから解放する。それから、然るべき相手と結婚して、子を作るのが跡継ぎの役目だ」  現に、優真との関係を解消したあと、奈央は女性と結婚している。 「当主の力は年齢と共に衰える。五十にもなれば完全に無くなるし、還暦を迎える前に、ほとんどの当主が命を落としてきた。それだけ……精神的にも体力的にも負担がかかるってことだろう」  香川家の跡継ぎが力を使えるようになる年齢は、十三歳から十七歳と言われており、奈津に関しては十五歳の時だった。 「その……受け止める役目っていうのが、俺ってこと……ですか?」  震える声で質問をされ、薫は一瞬答えに迷う。 「和真の場合……過程はこれまでとだいぶ違ってる。年齢的におかしいだろ? だが、結果的にはそうなった」  奈津の年齢から考えると、暴力的な衝動はすでに落ち着いている頃なのに、現状は違っていた。

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