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「たぶん、和真の父親……優真の映像を観たのが、きっかけなんだと思う」
奈津と薫は、己が嗜虐的 な性質だと自覚している。それは、先天的なものなのだろうが、成長過程で受けた刺激で呼び覚まされたのではないか? と、薫自身は分析していた。
「優真は、本家の蔵に監禁され、数年間……奈央の欲情の捌 け口にされてた。俺と奈津が観たのは、その時の映像だ」
映像の中、優真はあらゆる手段を用いて辱 しめを受けていた。天井から吊り下げられ、鞭を打たれても恍惚としている様子や、手足の自由を奪われたまま、首輪を嵌められ、庭を散歩する様子など……そのすべての行為が、二人にとって刺激の強過ぎるものだった。
「正直、観ている間は我を忘れた。奈津も俺も、当時は優真に夢中だったと思う。だが、映像を観てたことは、少しして奈津の父親にバレた。叱られると思ってたけど、そうはならなかった。その代わり……」
呼びだされた応接室で、奈津の父親は奈津に向かって言ったのだ。「お前には、能力を使わせない」と。
「そこで、長く続いてきた香川の秘密を知った。力の存在は知ってたけど、分家にそんな役割があるとは知らかった。あの時は、奈津が他の誰かに、あんなことをするなんて……俺には耐えられそうにないって思ってた」
そこまで話をしたところで、黙って話を聞いていた和真が指の先へと触れてくる。「どうした?」と尋ねれば、少しの間逡巡 したあと、「辛そう……だから」などと言うから、薫は思わず笑ってしまった。
「今、辛いのは和真だろ」
痩せた手にそっと指を絡ませ、「過去の事だから俺は平気だ」と、瞳を見つめて語りかける。そして、感傷的になってしまったと心の中で反省をしながら、恥ずかしいのか? 僅かに染まった和真の頬へと、ただ触れるだけのキスを落とした。
***
奈津と薫は生まれた時から一緒だった。
そして、薫は記憶の干渉を受けない。それは、幼少の頃、奈央が記憶へ干渉したからだと言われていた。
どんな干渉を受けたのかは、教えて貰えていないけれど、今となってはどうでもいい。力に左右されないからこそ、奈津を支えることができると思っていた。
『おかしいと思わない?』
二人で奈央に呼ばれた後、戻った部屋で奈津から言われ、薫は暫 し返答に困った。
『どうして俺も一緒に呼ばれたのか……って事?』
『違う。そうじゃなくて、父さんは好き勝手にやってるのに、どうして俺には禁止って言うのかだよ』
どうやら、奈津が不満に思っていたのは、薫が同席したことではなく、父親から力を使わせないと言われた事のようだ。それにしても、返答に困る質問ばかりだと思った薫は、『奈津は力を使いたいの?』と、ストレートに尋ねてみた。
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