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第六章 愛ガ搦マル

 徐々に意識は覚醒するが、瞼を開くのが怖かった。  眠る前、薫が話した内容は覚えている。けれど、『全て、夢だったかもしれない』などとも思えてきた。  夢なんて事はありえない……と、心の中で唱えるけれど、どうしても勇気が持てずに和真は一つ寝返りをうつ。すると、思いもよらない温もりがそこにあったから、驚きのあまり身体が大きく震えてしまった。 「起きたのか?」  柔らかな声が鼓膜を揺らし、意を決した和真は薄く瞼を開く。と、長い腕に抱きしめられ、「よく眠れた?」と耳のすぐ側で囁かれた。 「はい」  夢も見ないで熟睡したのはどれくらいぶりだろう? そんなことを考えながら、無意識のうち、和真は薫の唇へとキスをする。 「まだ寝ぼけてる?」    口が離れたところでそう告げられ、和真は瞳を見開いた。  寝ぼけている訳ではない。これは……身体に染みついてしまっている習慣だ。  などと、言い返すことも出来ない和真は、見える範囲で視線をウロウロと彷徨(さまよ)わせた。そして、ここが以前住んでいた場所と異なる事を確認する。 「違う部屋で寝ようとしたんだけど、和真が掴んで離さなかったから」  諦めて、そのままベッドに入ったのだと言う薫は、よく見ると、昨日見た服のままだった。 「ごめんなさい」 「気にしなくていい」  すぐに謝罪の言葉を紡げば、間髪入れずに許される。昨日のやりとりで多少印象は変わったものの、和真にとって彼が支配者であることに変わりはない。だから、優しい言葉をかけてもらっても、信じていいのか分からなかった。 「シャワー浴びてくるけど、和真はどうする? もう少し寝てるか?」  問われて首を横へと振れば「じゃあ、風呂沸かすから、一緒に入る?」と言われたから、和真は「はい」と返事をする。すると、「冗談だ」と笑った薫が和真に(おお)(かぶ)さってきた。 「ここにいる間、嫌なことは断っていい」  深い色をした彼の瞳が、こちらを真っ直ぐに見下ろしてくる。困ったような笑みを浮かべるこの表情を、昨日から何度も目にしているが、見るたびに胸が詰まるような感覚に囚われた。 「嫌……じゃないです」  スルリと口から出た言葉に、薫が瞳を僅かに細める。 「かわいい顔して、俺の自制心を試してる?」  そんな風に言われても、今、自分がどんな表情をしているのかなんて分からない。だから、返事の代わりに和真は首を横へと振った。 (なんでだろう?)  自分の心の在りようが、自分自身にも分からない。考えようと試みるけれど、理由が思い浮かばなかった。

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