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「……俺のだ」    無意識のうちに零れた言葉。それが、誰を指した発言なのかは本人にさえ分からない。  宙に吊り下げられたまま、後孔を深く穿たれ悶える和真の姿は、哀れだけれど妖艶だ。そして、彼を犯す薫の顔には、欲情している雄の色気が滲んでいた。  和真は、自分と薫を繋ぐ目的で手中に墜とした駒なのに、いつの間に……薫の心を奪ったというのだろう?  『和真の記憶は消せないんだ。早めに解放した方がいい』  何度か薫にそう言われたが、いつ手放しても同じ事だと思っていた。全てを覚えていたところで、どうせ和真に訴えを起こすことなどできない。 『このままじゃ和真は壊れる。解放しないなら、せめて精神的なケアは増やしたほうがいい』  弱っていく和真の姿に、多少の焦りは感じていた。だからこそ、薫からの提案に従い、先日和真を外へと連れていったのだ。  駒とはいえ、替えのきかない存在であり、長い期間調教してきた彼に対する情愛もある。それまでだって、事後にはきちんとケアをしてきたつもりでいた。 「和真は、()(まま)だ」  体は愉悦を貪るくせに、目を離せば逃げようとする。きっと、二人が彼を甘やかし過ぎたせいだろう。 「だってそうだろ。だからこんなに悦んでる」  とりとめもなく思考を巡らせ、画面に映る和真の痴態を眺めていた奈津だが、そんな時間もそう長くは続かなかった。  インターフォンが来客を告げたのだ。  今は日曜の昼下がり。人が来る予定は入っていない。(いささか)か不審に思いながらもディスプレイを確認すれば、そこへ映しだされていたのは、ここ1ヶ月探させていた恋人の姿だった。  ***  遡ること一週間前、和真は外の世界にいた。  気晴らしに、ドライブをしようと薫が誘ってくれたからだ。 「大丈夫? 酔ってない?」  車の窓から見える景色を食い入るように見つめていると、運転席から薫が声をかけてくる。  慌てて体を薫へと向け、「平気です」と返事をすれば、「ならいい」と答えた彼がフワリと髪を撫でてきた。自然にそれを受け入れながらも、心が鈍い痛みを覚える。 (ホント、久しぶりだ)  車に乗るのも、旅行みたいな事をするのも、久々のことだった。思い返せば、上京してから和真は旅行をしたことがない。  気づかぬ間に季節は夏の終わりを迎え、別荘地であるこの高原には、時折涼しい風が吹いている。生い茂る木々はまだ色づいていないけれど、じきに綺麗な紅葉(こうよう)が見れることだろう。東京から二時間程度のドライブだったが、神経が昂っているせいなのか? 疲れは感じていなかった。  この三週間、和真は規則正しい生活を送ってきた。  最初は食事も喉を通らなかったけれど、徐々に量は増えており、体調もかなり良くなっている。その(かん)、薫はたまに仕事で自室へ籠もっていたが、それ以外は和真と同じ空間にいてくれた。  一人になるのが怖い理由は、自分自身にも分からない。けれど、一人になると不安ばかりが押し寄せてきてしまう。
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