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 *** 『……愛されたい』  喘ぐように和真が言ったのを、薫は聞き逃さなかった。それは今朝の出来事だが、錯乱状態だった和真に、気持ちを吐露(とろ)してしまった自覚は無いだろう。  だから、奈津と薫には知られたくないその感情ごと、自らの記憶を消して欲しいと望んでいる。  一週間前、日帰り旅行へ行った後、『一人になってやり直したい』と言われた薫は了承した。ここまで和真を追いつめたのは、他でもない自分と奈津だ。償う気持ちはあったから、彼の意思を尊重しようと考えていた。  とりあえず、体の調子が良くなってから、一人暮らしの準備をしようと説得し、和真もそれに同意をしたが、彼の体調は良くなるどころか日に日に衰弱していった。薫の前では食事をするが、隠れて嘔吐(おうと)していることも知っていた。だから、早めに手を打つべきだと考えたのだ。 『俺はここを出ようと思う。ただ、和真の体が心配だから、回復するまでは毎日、定期的に様子を見に来るつもりだ』  そう薫が切り出したのは、和真の体を(おもんばか)ってのことだった。自分の存在が彼の心に負担をかけているのであれば、出来る限り会う機会を減らそうと考えたのだ。  それを伝えたのは、今日の朝食を終えたあと。  リビングのソファーに和真を座らせ、斜め向かいに設置してある(つい)のソファーへと腰を下ろし、できる限り穏やかな口調で話をはじめた。しかし、途中から和真は震えだし、どういう訳か? 涙をボロボロと流しはじめた。 『どうした?』  思いも寄らない反応に、驚いた薫が見ている前で、和真は自ら細い首へと爪をたて、引っ掻きながら意味の分からぬ言葉を紡いだ。  何を言ったのか? 声が小さくてはじめは(ほとん)ど聞こえなかったが、自傷行為を止める目的で彼の体を拘束するうち、掠れてしまった涙声が何を言っているのかを……最終的には理解した。 「ふ……んうぅ」  ふいに、和真の声が鼓膜を揺らし、現実へと引き戻される。  奈津とのキスを受け止め続ける彼を背後から抱きしめて、洋服の裾をたくしあげてから、胸の尖りを飾るピアスを薫は指で軽く弾いた。 「んうぅっ」  ぐぐもった呻きが耳に心地よく滑り込む。 「これ、外さなかったんだ」  所有の証であるピアスなど、とっくに外していると思っていただけに、薫の心は喜びに近い感情で満たされた。  きっと、和真越しに視線が絡んだ奈津だって、同じ感情を抱いたはずだ。 「和真、これから耳を塞ぐけど、本当に嫌だったら自分で外していい。聞こえないほうが気持ち悦いから」 「ん……うぅ」  胸の尖りを弄びながら、耳朶(みみたぶ)へ舌を這わせて囁き、返事のできない彼の耳へと耳栓を深く差し込んでいく。  薫の言葉を和真がきちんと理解したかは分からない。けれど、器具を装着している間も抵抗はされなかった。

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