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「奈津……そろそろ止めないと、和真が気を失う」
もう片方の手を伸ばし、奈津の髪の毛をそっと撫でてから薫が告げれば、小さく頷き返した彼はようやく唇を解放する。
「……っあぁ」
刹那、名残惜 しそうに喘いだ和真がゆっくりこちらを振り返り、縋るような視線を向たから、あやすようにその頬へとキスをした。
それから、薫は奈津の頭を引き寄せ、唇同士を重ね合わせる。
(ああ、やっぱり……)
触れた瞬間、体の芯を甘美な愉悦が這い上がるのを実感し、自分は奈津を愛しているのだと薫は再び確信した。
1ヶ月ぶりの触れ合いに、心が満ちていくのが分かる。暫 し時を忘れ、互いの気持ちを確かめるように舌と舌とを絡ませていると、視界の隅にこちらを見上げる和真の姿が映り込んだ。
(こういうこと……か)
すぐに視線を逸らしてしまった和真の本音が今なら分かる。以前は全く気づかなかったが、悲しげに揺れる濡れた瞳が全てを物語っていた。
長いキスを終えたあと、薫は和真の上半身から全ての衣類を脱がせていく。
ソファーへと座る奈津の膝に、こちらに背中を向けた格好で乗せられている和真だが、薫が服を脱がせる間、こちらをチラリと振り向いただけで抵抗はしなかった。ただ、奈津の顔も見たくないのか? 下を向いたまま震えている。
「これ……自分でやったのか?」
露 になった上半身を目にした奈津が、少し驚いたように尋ねてきた。
「ああ、たぶん」と返事をしてから、みみず腫れになった箇所へと薫はそっと指先を這わせる。
「うぅっ」
すると、恥ずかしいのか? 和真は体を隠そうとしたが、手首を緩く掴んで動きを制限した。
覗き込んで確認すれば、彼が自 ら首に付けていた引 っ掻 き傷と同じ物が、二の腕や、胸の辺りから腹部にかけてつけられている。
「和真が自分でやったんだろうな。無意識だろう」
実際、薫が傷に気がついたのは、さっき洋服をたくし上げた時だった。ずっと一緒に過ごしていたのに、気づけなかった自分自身が不甲斐ない。
「そういえば、さっき耳栓してたけど、和真は全然聞こえてない?」
「これはかなり性能がいい。音は多少聞こえるかもしれないが、話の内容は聞こえない筈だ」
言いながら、和真の耳へと顔を寄せ、軽く息を吹きかけてやれば、「ひっ」と小さな悲鳴をあげながら体をビクリと震わせた。
「かーわい。で、和真はどうしてこんなことを?」
傷の一つを指でなぞり、奈津が質問をぶつけてくる。2人の会話が聞こえていない和真が不安にならないよう、薫は背後から手を回し、二本の指を彼の唇へと挿し入れた。
「うっ……ふうぅ」
過去に教え込んだとおり、すぐさま舌を絡めた和真が、チュクチュクと薫の指を舐めしゃぶる。こうして意識を逸 らしてやれば、多少は不安が減るはずだ。
「和真は、愛されたいらしい」
今朝がた聞いた和真の言葉をそのまま奈津へと伝えれば、「本当にそう言ったの? 和真が?」と、不思議そうな表情をした彼が尋ね返してきた。
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