102 / 123

16

「薫、ローションある?」 「ああ」  薫の部屋は初めてだが、周りを見ている余裕も無い。広いベッドへ丁寧に降ろされ、居心地の悪さに和真は身体を震わせた。2人の会話が聞こえてくるが、思考が回らず内容までは理解できない。 「アッ……やっ」  唐突に、両方の脚を持ち上げられ、体を二つに折り曲げるように顔の両脇へ縫い止められた。臀部を2人にさらけ出すような格好に、羞恥を覚えた和真が両手で顔を隠そうとした途端、視界の中に薫の顔が逆さまに映り込んできた。 「慣らすだけだから、少し我慢……な」  優しい笑みを浮かべた薫が諭すように告げてくる。ほとんど同時にぬめりを帯びた液体が、後孔内へと注ぎ込まれた。 「くぅ……うぅ」  和真は小さく呻いてから、「ありがとう……ございます」と、身に染み着いた言葉を紡いぐ。そんな和真の反応に、僅かに眉根を寄せた薫だが、すぐに口元へ笑みを浮かべ、「口を開けて、舌をだせる?」と訊いてくる。  言われた通りに口を開いて必死に舌を突き出せば、近づいてきた彼の唇に深く唇を塞がれた。 「あっ、ふぅぅっ……ん」  後孔内へと指が挿し込まれ、グチュグチュと中をかき回される。 「和真の中、ヒクヒクしてる。気持ちいい?」 「んぅっ……ふうぅっ!」  前立腺を指先で押されて和真は再び絶頂を迎えた。もう達したくないと思うのに、体が言うことを聞いてくれない。 「上手にイケたな」  艶を纏った奈津の声。 「ぐぅっ……んっ!」  萎えかけたペニスを指で弾かれ、和真は背筋をのけぞらせた。 (……きもち……いい)  それから、しばらくの間、口腔内を薫の舌で蹂躙され、下肢を奈津に弄ばれる。絶え間なく愉悦を注がれ続け、ついには僅かに残されていた理性さえ、和真の中から消え去った。だから、和真は腰を拙く揺らし、無心に薫の舌を舐めしゃぶる。 「ふぅっ……あぅぅっ!」  少しして、ようやく唇が離れた刹那、射精をせずに極めた和真は激しく身体を痙攣させ、そのまま意識を絶とうとしたが、そうはさせてもらえなかった。 「まだだ」 「ひっ! アッ、アアッ――!」 「和真はここが好きだよな」  会淫を強く押された和真は悲鳴じみた嬌声をあげ、「すき、すき……です。もっと……ください」と、条件反射で教え込まれた言葉を返す。すると、掴まれていた脚が離され、急に体が自由になった。 「え? あ……あ」  突如として、全ての刺激が無くなったことに、戸惑い不安になった和真は、視線をうろうろと彷徨わせる。 (そう……だ)  そして、霞がかかった意識の中、2人に奉仕をしなければならない……という結論を導き出した。久々の行為だから、受け止めるだけで精一杯になっていたが、自分だけが気持ち()くなることは許されていない。 「ごめん……さい」  掠れた声で謝罪をしてから起きあがろうとするけれど、「動くな」の声が響いてあやすように額を撫でられた。 「和真はどうしてほしい?」 「……え?」  脚の間にいる奈津が、萎えたペニスをツッとなぞる。 「あ……」 「これが最後だ。余計なこと考えないで、思ったことを言ってごらん」  穏やかな声で話す薫と、薄く微笑む奈津の姿に、自分自身にも理解できない感情が溢れだしてきて、目の奥がツンと痛みを覚えた。 (そうだ。これで最後……だから。だから……)   「……優しく……されたい」  思った途端、願いが声に出てしまう。  どうせ忘れてしまうのだ。最後くらいは道具ではなく、愛されていると感じたい。 (……それが嘘でも……)  構わない……と、和真は思った。    

ともだちにシェアしよう!