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「薫、ローションある?」
「ああ」
薫の部屋は初めてだが、周りを見ている余裕も無い。広いベッドへ丁寧に降ろされ、居心地の悪さに和真は身体を震わせた。2人の会話が聞こえてくるが、思考が回らず内容までは理解できない。
「アッ……やっ」
唐突に、両方の脚を持ち上げられ、体を二つに折り曲げるように顔の両脇へ縫い止められた。臀部を2人にさらけ出すような格好に、羞恥を覚えた和真が両手で顔を隠そうとした途端、視界の中に薫の顔が逆さまに映り込んできた。
「慣らすだけだから、少し我慢……な」
優しい笑みを浮かべた薫が諭すように告げてくる。ほとんど同時にぬめりを帯びた液体が、後孔内へと注ぎ込まれた。
「くぅ……うぅ」
和真は小さく呻いてから、「ありがとう……ございます」と、身に染み着いた言葉を紡いぐ。そんな和真の反応に、僅かに眉根を寄せた薫だが、すぐに口元へ笑みを浮かべ、「口を開けて、舌をだせる?」と訊いてくる。
言われた通りに口を開いて必死に舌を突き出せば、近づいてきた彼の唇に深く唇を塞がれた。
「あっ、ふぅぅっ……ん」
後孔内へと指が挿し込まれ、グチュグチュと中をかき回される。
「和真の中、ヒクヒクしてる。気持ちいい?」
「んぅっ……ふうぅっ!」
前立腺を指先で押されて和真は再び絶頂を迎えた。もう達したくないと思うのに、体が言うことを聞いてくれない。
「上手にイケたな」
艶を纏った奈津の声。
「ぐぅっ……んっ!」
萎えかけたペニスを指で弾かれ、和真は背筋をのけぞらせた。
(……きもち……いい)
それから、しばらくの間、口腔内を薫の舌で蹂躙され、下肢を奈津に弄ばれる。絶え間なく愉悦を注がれ続け、ついには僅かに残されていた理性さえ、和真の中から消え去った。だから、和真は腰を拙く揺らし、無心に薫の舌を舐めしゃぶる。
「ふぅっ……あぅぅっ!」
少しして、ようやく唇が離れた刹那、射精をせずに極めた和真は激しく身体を痙攣させ、そのまま意識を絶とうとしたが、そうはさせてもらえなかった。
「まだだ」
「ひっ! アッ、アアッ――!」
「和真はここが好きだよな」
会淫を強く押された和真は悲鳴じみた嬌声をあげ、「すき、すき……です。もっと……ください」と、条件反射で教え込まれた言葉を返す。すると、掴まれていた脚が離され、急に体が自由になった。
「え? あ……あ」
突如として、全ての刺激が無くなったことに、戸惑い不安になった和真は、視線をうろうろと彷徨わせる。
(そう……だ)
そして、霞がかかった意識の中、2人に奉仕をしなければならない……という結論を導き出した。久々の行為だから、受け止めるだけで精一杯になっていたが、自分だけが気持ち悦 くなることは許されていない。
「ごめん……さい」
掠れた声で謝罪をしてから起きあがろうとするけれど、「動くな」の声が響いてあやすように額を撫でられた。
「和真はどうしてほしい?」
「……え?」
脚の間にいる奈津が、萎えたペニスをツッとなぞる。
「あ……」
「これが最後だ。余計なこと考えないで、思ったことを言ってごらん」
穏やかな声で話す薫と、薄く微笑む奈津の姿に、自分自身にも理解できない感情が溢れだしてきて、目の奥がツンと痛みを覚えた。
(そうだ。これで最後……だから。だから……)
「……優しく……されたい」
思った途端、願いが声に出てしまう。
どうせ忘れてしまうのだ。最後くらいは道具ではなく、愛されていると感じたい。
(……それが嘘でも……)
構わない……と、和真は思った。
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