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「ん……うぅ」  艶を帯びた和真の呻きが、耳へと甘く滑り込む。おずおずと腕を動かした彼が、ピアスの飾られた胸の尖りへと指で触れ、そこを(もてあそ)び始めたから、驚いた奈津は動きを止めた。 「かわいい」  いつもは常に拘束し、勝手に動けば折檻をする。そして、それすら愉悦へと転換させ、欲に溺れ、最終的には堕ちる和真の(あわ)れな色香に欲情し、さらに彼を攻め立ててきた。 「う……ふぅ……ん」  しかし、今は目の前で自ら愉悦を貪る姿に、常には無いほど奈津は昂ぶる。このまま、自身の欲情に身を任せ、奥深くまでを一気に穿ってしまいたい……という衝動に強く駆られたが、それを必死に押さえ込み、奈津は素早く思考を巡らせた。  薫の言うとおり、今の奈津には和真を解放する気は無い。  記憶に干渉出来るのが、一度きりだと決まっているのには訳がある。二回以上干渉すると、気が()れてしまう確率がかなり高いのだ。事実、父親によって意図的に廃人にされた人物を、奈津は何度か見たことがあった。  ではなぜ、和真の懇願を受け入れたのか?  (うつわ)さえあれば問題ないと判断したからだ。    たとえ、気が触れてしまったとしても、彼でさえあればそれていい。そんなことを自然に思えてしまうくらい、和真を手放したくなかった。 (俺は狂ってる)  そんな事はもう知っている。  自棄(やけ)になって開き直ったわけではなく、一般的に普通と呼ばれる価値基準などを理解した上で、自分の性的嗜好はかなり隔たっていると分かっていた。だから、迷うことなど無いはずだった。 (けど……)  ここにきて、奈津はかなり迷っている。否、答えはそこに見えているが、本当にそれで合っているのかが分からなかった。   「薫……」 「難しく考えないで、そろそろ認めた方がいい」  奈津が声を発した瞬間、まるで思考を読んだかのようなタイミングで、薄い笑みを浮かべた薫が手を伸ばし、軽く顎へと触れてくる。 「奈津にとって、和真は道具?」 「またその質問……か」 「後悔したくないし、させたくもないからな」  この時、薫が仕掛けた大きな賭が、見事に成功したのだ……と、奈津は瞬時に理解をするが、悔しいなどとは思わなかった。  なにせ、心を満たす感情の名を、今、はっきりと自覚することができたのだから。 「そうだな。俺は、俺たちは……ずっと和真に夢中だ。道具なんかじゃない」 「ああ」  答えを声にしたことで、初めて感じる類の感情に奈津の心は包まれる。その思いを抑えることなく、近づいてきた薫の唇と自分のそれとを重ね合わせ、舌を絡ませあいながら、和真のアナルを激しく穿った。   「んぅっ! ふうぅっ!」  途端、薄い体が激しく跳ね、小振りなペニスの先端からは、透明な液がポタポタと垂れる。空で極めてしまったのだろう。中が激しく伸縮したため、思いもよらず奈津も一緒に達してしまった。   「ふぅっ……んぅ」  暫しして、薫のペニスが和真の口から引き抜かれる。その時、薄く開かれた唇の端から白濁が零れ、クッションへと垂れる様子が、艶めかしく視界の隅へと映りこんだ。 「気持ち悦かった?」  自身もペニスを引き抜きながら、放心している様子の和真へ声をかける。と、中を擦られて気持ちがいいのか? 体が小刻みに痙攣し、萎えた性器からチョロチョロと尿が漏れだした。    「や、あっ……あぁっ!」  助けを求めるように伸ばされた手のひらを、奈津と薫とでそっと掴み、「大丈夫、ここにいる」と、穏やかな口調で囁きかける。  すると、安堵したような笑みを浮かべ、「ありがとう」と掠れた声で言ったあと、瞼を閉じた和真の体から全ての力が抜け落ちた。  第六章 終わり

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