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最終章 愛ニ溺レル

 ぼんやりとした輪郭が、徐々に形を整えていく。  ややあって、見えてきたのは膝を抱えてソファーへと座る自分の姿。 (……夢?)  高校に入ったくらいだろうか? まだあどけなさの残る姿に胸が切ない痛みを覚える。場所は、叔父(おじ)と名乗った奈央に引き取られ、一人暮らしをしていた部屋だ。奈央は、和真の様子を見るために、時折部屋を訪れたけれど、ただひたすらに優しかった記憶しかない。  たぶん、和真のことを父の代わりにするつもりなど、無かったのではないだろうか? (正解なんて、分からないけど)  当時、学校から帰宅をすると、テレビも点けずにソファーでぼんやりしているか、勉強をするかのどちらかだった。一人暮らしをしていたのにも関わらず、友人を家に呼んだ事もない。 (そうだ、俺は……)  家族を全て失ったことで、心に大きな穴が空いていた。そして、それを他人に知られたくなくて、虚勢をはって生きていた。  友人の家に遊びに行けば、そこには必ず家族がいる。そして、彼らは皆一様に、(あわ)れみの目で和真を見た。もちろん、悪気があっての事ではないと当時の和真にも分かっていた。全てが自分を思いやっての善意であり、それを素直に受け入れられない自分のほうが悪いのだ……と。  当前のように愛されている友人達に、落ち度が無いことは分かっていたし、そんな優しい人達を、ほんの(わず)かでも(ねた)ましいなどと感じてしまう自分が心底嫌だった。    結果、和真は少しずつ、周りと距離を置くようになり ――。 (泣いてる)  夢の中、若い自分は膝を抱え、静かに涙を流している。  他人(ひと)に迷惑をかける事もなく、一人淡々と過ごしてきたと記憶していたが、映像を見れば辛い時もあったことが思い出された。 (違う、忘れてたんじなない。俺は……忘れたかったんだ)  自分のことを『みじめ』だなんて思いたくない。ただ家族がいないだけで、環境には恵まれている……と、自分自身に言い聞かせ、和真は日々を過ごしていた。  自尊心が邪魔をして、寂しいと言えなかったのだ。 『アイツ、人当たりはいいけど、自分からは話してこないよな。何考えてるか分からなくて、たまにちょっと怖い』    表面上は仲良くしていても、そんな陰口を言われているのは知っていた。恋をしたこともあったけれど、相手との距離を縮める方法が分からなかった。自分はどこかがおかしいのかもしれないと……思春期の頃は悩みもしたが、そのうちに、自分の感情を深く考えずにいることが、一番の解決法だという答えを導きだした。  今思えば、無意識のうち、孤独に慣れようとしていたのだ。それは見事に成功し、社会人になってからは、仕事関係以外の交流を一切しなくなっていた。  そうやって、長い間守り続けた自尊心も、数年後には彼らによって粉々になるまで打ち砕かれ、自分の知らない最奥までもを暴かれてしまうのだけれど――【最終章 愛ニ溺レル】  

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