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「好きにして……いい」
それが彼らの望みなら、受け入れたいという感情が心の内からわいてくる。
(俺は……おかしいのかもしれない)
夢現 な思考の中、どこか遠くで警鐘が鳴り響いていた。彼らの冷酷な面や危 さは、この身を以て知っている。
(けど、だけど……)
こんな風に思う自分は、壊れているに違いない。けれど、理性が剥がれかけた今、論理的には説明ができない本音の部分が零れてしまう。
「俺も……奈津と薫、愛してる……から」
「……え?」
2人の口から同時に放たれた疑問符と、始めて目にした驚いたような表情に、彼らも人間だったのだ……と、和真はぼんやり考えた。
「あ……」
それから、自分の発した言葉の意味を頭の中で反芻 し、和真は小さな声をあげる。
途端、虚ろだった意識ははっきりと覚醒し、動揺した和真の体は意志に反して震えはじめた。
(俺は……今、なん……て?)
訪れたのはしばしの沈黙。
アクションシーンに入ったのか? なおも洋画を再生しているテレビからは、銃声音がやけに大きく響いていた。
「……やっと、言った」
そして……聞こえてきたのは僅かに掠れた奈津の声。彼は艶美な笑みを口元へ浮かべ、和真の頬へと手のひらで触れる。
「それは本心?」
耳元で囁く薫の問いに、和真は小さく頷き返す。と、シャツの裾から忍び込んだ指が胸の尖りへと直に触れてきた。
「……んぅ」
「震えてる。怖い?」
「怖くない……わからない」
どうして震えてしまうのか? 和真自身にも分からない。けれど、この感情が恐怖ではないという事だけは、はっきりと分かっていた。
「ずっと、一人だった。寂しいって思っちゃいけないと思ってたし……一人でも平気だった。だけど……」
2人によって囚われてから、生きていくために必要なことの全てを管理されるうち、和真の中に芽生えた感情を言葉にするのは難しい。
依存。
マインドコントロール。
ストックホルム症候群。
そんな、一般的な知識としてある情報を、必死に自身と結びつけようとしたけれど、しっくりとはこなかった。
「俺は……」
逃げ出したいと思っても、どこかで彼らを求めていた。いつからか? 徹底的に支配されることにある種の悦びを感じていた。恐怖の対象であると同時に、2人がいないと不安になった。
「……愛されたいって……」
だからこそ、ただの道具であることに、耐えきれなくなったのだ。
「俺は……おかしい」
「いいよ、和真。今はもう……何も考えなくていい」
とりとめもなく、ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ和真の目尻を奈津が拭い、「泣くな」と囁きかけてくる。
「これは……血のせい? けど、それでも、俺は……奈津と薫を……」
『愛してる』と言いたかったのに、声を出すことができなかった。急に呼吸が苦しくなり、視界が大きく歪みばじめて体がヒクヒクと痙攣する。
「まずいな。焦点が定まってない」
「あっ……あっ……」
「どうする? いったん――」
2人の声は聞こえるけれど、内容はまるで理解できない。浅い呼吸を繰り返しながら、必死に言葉を紡ごうとするが、開いた口からは意味を為さない乾いた音しか出てこなかった。
「こんなに泣いて、かわいそうに」
背後から強く抱き締められ、動きが制限された刹那、奈津の手のひらが額へと触れる。そして、「ごめん」の声が聞こえたあと、まるで電源が切れたみたいに和真の意識はプツリと途切れた。
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