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 *** 「なにをしたんだ?」 「眠らせただけ。記憶に介入した訳じゃない。でも……やばいな。もっと()かせたくなる」  さんざん啼かせたその後で、溢れほどの愛情を注ぎ、(とろ)けるくらいに甘やかしたい。  額から手を離した奈津は、萎えてしまった和真の性器を軽く掴んで上下に扱く。すると、眉間に皺を寄せた和真は小さく呻き、逃れようとしているのか? 細い体を薫の方へと僅かに捩った。  さらなる愉悦を与えようとして陰嚢へ指を這わせれば、「起きてから……な」と言った薫にやんわりと手首を掴まれる。そこでようやく我へとかえり、「そうだね」と答えた奈津は、自制することの難しさを実感しながら苦笑した。   「やっと、俺たちを愛してるって言った」 「そうだな」 「……嬉しい」  今の気持ちを言葉にしてから、奈津は僅かに首を(かたむ)ける。こんな感情を抱いたのは、薫と気持ちが通じ合った時以来だ。  薫を愛する気持ちは少しも薄れていないから、もしかすると……愛情というのは増えていくものかもしれない。 「ああ、俺もだ」  答えた薫の穏やかな笑みを瞳に映し、奈津は口角を微かに上げる。気づいているかは知らないけれど、ここ最近、彼の表情はどこか(かげ)りを帯びていた。しかし、今浮かべている表情からは、それが綺麗に消え去っている。 「迷いは消えた?」  そう尋ねれば、「やっぱり奈津には隠せないか」と答えたから、予想は確信に姿を変えた。 「和真が選んだんだ。もう迷う必要は無いだろ」  更に言葉を付け加えると、「だな」と頷いて微笑んだ彼は、和真の体を横抱きにしてから立ち上がる。 「ベッドに寝かせる?」 「ああ。当分起きないだろうし」 「了解、こっちを片付けたら俺も行く」  ワイングラスを指さしながら、「先に寝るなよ」と伝えれば、「分かってる」と答えた薫は和真を抱いたまま寝室へ向かう。その後ろ姿を見送ったあと、グラスに残ったワインを飲み干し、奈津は天井をぼんやりと見上げた。 (やっと……だ)  ようやく全てを手に入れた。薫の中にある不安も、和真の告白でだいぶ薄れているはずだ。  薫については『和真は奈津の所有物だ』と、ことある事に言っていた。それが彼の心の枷になっているのは分かっていたが、奈津が言葉を尽くしたところで納得しないのも知っていた。 (大丈夫だ。今度こそ、うまくいく)  自分の心の在りようが、変化したのがよく分かる。  和真を無理やり繋いだ時にはこんな感情を知らなかった。恐怖によって支配することに強い愉悦を感じていたし、酷くするほどに色香を放つ哀れな姿は、奈津の心を魅了した。  けれど……ここ最近は、(おび)えながらも必死に体を(ゆだ)ねようとする和真の健気さに昂揚(こうよう)する。  もちろん、そう簡単に自分の中にある嗜虐性が消えないことは分かっているし、それは薫も同じだろう。 「慎重に、少しずつ……か。難しいな」  ひとり呟いた奈津はゆっくりと立ち上がり、グラスとボトルを片付けてから、ベッドルームへ移動した。

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