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目覚めると、広いベッドに寝かされており、和真を挟んだ左右両側で2人が寝息を立てていた。
いつもと同じ状況に、安堵を覚えた和真は小さく息を吐く……が、次の瞬間、意識を失う前の出来事を思いだし、ふわふわとしていた心は固まり、顔から血の気が一気に引いた。
「あ……あ」
(くる……し……)
急に呼吸が困難になり、視界が涙の膜で滲む。助けを求めて手を動かすと、すぐに異変に気づいた薫が起きあがり、和真の上半身を起こして背中をトントンと軽く叩いた。
「和真、息を吐け」
(息……を?)
「……っ」
薫の声は聞こえているが、どうすればいいか分からない。はくはくと口を開閉させ、必死に呼吸をしようと藻掻 けば、その唇へとそっと指先を這わせた奈津が、「和真、俺の名前を呼んで」と、蕩けるような甘い声音で命じてきた。
「……ツ」
「聞こえないよ」
「ナ……ツ」
「上手。もういっかい呼んで」
特に疑問も抱かずに、和真は無心に名前を呼ぶ。「俺の名前も」と薫に言われ、何度も2人の名前を呼ぶうち、不思議なことに徐々に呼吸は楽になる。
和真は気づいていないけれど、人間は苦しい時、吸うことばかりに集中して、吐き出すことを忘れてしまう。2人は名前を呼ばせることで、和真に呼吸を促したのだ。
「おはよう、和真。少しは楽になった?」
「あ……はい」
「なら良かった」
穏やかな笑みを浮かべる2人の整った顔を瞳に映し、和真の思考はやや落ち着きを取り戻す。
以前なら、どんなに和真が苦しもうが、過酷な仕打ちを強いてきたのに、今は和真を労るような言動をする奈津と薫に、戸惑いは覚えるけれども怖いなどとは思わなかった。
「大丈夫だ。和真はなにも間違えてない」
(……そうなの……か?)
大きな手のひらに背中を撫でられ、体の強ばりが溶けていく。少しの間そうしていると、だいぶ呼吸が落ち着いてきた。
「大丈夫そう?」
奈津からの問いに頷けば、和真の手首を持ち上げた彼は、甲の部分へとキスを落とし、薫と視線で会話をしてから、「和真、俺たちとのセーフワードを決めようか」と告げてきた。
「……え?」
奈津が発した言葉の意味が分からない。助けを求めて薫を見ると、苦笑した彼は「それじゃあ分からないだろ」と言いながら、奈津の頬を手のひらで撫でた。
「愛してるから、俺たちの好きにしていいっ……て、言ったの覚えてる?」
「あ……」
目の前で、綺麗に上がる薫の口角。刹那、頬へと熱が集中するのが自分自身でもよく分かった。
「顔、真っ赤。可愛い」
顎を掴まれ奈津の方へと向かされる。思わず視線を逸らそうとすれば、「恥ずかしい?」と尋ねてくるから、素直に和真は頷いた。
「血でも何でも……和真が俺たちを受け入れてくれるなら、理由なんかどうでもいい」
耳元で、柔らかく響く奈津の声。
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