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六位は見せた

どうも。鎧鏡家薬司寮(やくしりょう)所属奥方様候補雨花様専属梓の丸中臈三次(ちゅうろうさんじ)側仕え第六位……梓の六位(むつみ)です。 私は雨花様の専属側仕えであり、薬司寮という、鎧鏡一門に代々受け継がれてきた薬の調合をする集団の一員でもあります。 自分では、どっちかというと薬司寮のほうが本業だと思ってるんですけどね。 薬司は、普通の薬の調合なんかの他に、秘薬と呼ばれるものの調合や開発なんかもするんです。 私はその秘薬開発のほうが性に合ってるというか、好きなんですけどね。 これ、確実に店頭では手に入らない代物ですよ。 薬事法違反とか大丈夫なのかねと思ったこともありましたけど……まぁこの鎧鏡家に、そんないちゃもん付けられる人が、日本にいるわけないですしね。 鎧鏡家の家臣で、特に重要なポストに就く者は、小さい頃にサクヤヒメ様のご宣託が下され、青紙と呼ばれる青い封筒を貰って鎧鏡家に招集されたという人が多いようで……私も七歳になる年だったか、薬司寮の『薬司予備軍』として召集され、そこから鎧鏡家に住み込んでいるんです。 私が鎧鏡家に来た時、若様はまだ一歳でした。 いやぁ、可愛かったですよ?そりゃあもうホント天使でしたよ。 そんな若様が、鎧鏡家秘伝の潤滑剤なんぞをお使いになる年になったとは……感慨深いですよ、ホント。 若様は、初夜に使う痛み止めをご使用になっただろうあと、秘薬と呼ばれるような物を一切ご所望ではなかったので、たまには使ってみたらいいのにと、密かに思ってはいたんですよね。 私は薬司ですし?出来ればそっちで認めてもらいたいですからね。 そんなわけで、若様が修学旅行にお出かけの際、一位様にお伝えしたんです。 『万が一、旅先で若様が雨花様をご所望の際、お困りになることもあるかもしれませんので、念のための準備はしておいたほうがいいんじゃないんですか?』と……。 一位様は雨花様を、それは大事に思っていらっしゃいますので、私の言葉に大きく頷いて『頼みます』とおっしゃったんです。 ホント可愛いんですよ、一位様。すっごい美人だし。 私は、人肌に温まるとゼリー状になり、挿入を滑らかにする薬に、若干の催淫効果のある薬剤を混ぜ、コンドームと一緒に巾着袋に入れて一位様に渡しました。 効用について一位様には、催淫剤を混ぜたことは黙っていたんですけどね、他はしっかり、使い方なんかもレクチャーしたんですよ? これを指ですくって、尻の穴に塗り込めると、たちまちドロドロの粘液になって、陰茎の挿入がスムーズになりますので、肛門やら腸壁に、過度な負担をかけずに済みます……ってね。 一位様はその薬について、私のような説明を、雨花様にはしづらかったんでしょうね。 雨花様にお渡しする時『緊急時にお開け下さい』なんておっしゃって。 ふふっ。ホント一位様は可愛い方なんだよなぁ。 あれで雨花様に伝わるのかね?と思っていたのですが、薬司寮の薬物については、若様が全てをご存知です。 若様が見れば、何に使うものかはすぐにわかるだろうと思って、私も黙ってたんですよ。 私が代わりに、雨花様にご説明差し上げても良かったんですけどね。 何と言っても雨花様は、ものすごい照れ屋な方ですから、そんな物だとわかったら、持って行ってもくれないかもしれませんしね。 結局、若様と雨花様が修学旅行から帰国後、一位様が私のところに、あの薬の容器が空になっていると、喜んで報告しにいらっしゃったんで、私から雨花様に詳しくご説明差し上げなくて結果オーライってやつでした。 しっかしあの薬は、ほんの少しで相当ドロッドロになる代物なんですけどね。ほぼ空って……。 雨花様の体を思って、必要以上にお使いになったのか、回数をこなされたのか……。 鎧鏡家の当主になる方は、小さなうちから、精力のつく食べ物を日々召し上がっていらっしゃいます。 実際どうかはわかりませんが、きっと相当、精力は強いと思いますよ?あんな涼しい顔をなさった若様でもね。 まぁとにかく、お気に召していただいたようで何よりですよ。これで私の本当の仕事っぷりも、若様におわかりいただけたでしょう。 何ならまた入れておきましょうか?と、一位様に伝えたところ、二つ返事でそうしてくださいとのことでしたので、容器にたっぷり補充しておきました。 一位様って、案外積極的かもしれないなぁ。 そのあと、残念ながら補充した薬を使用した形跡はないようなんですけどね。 ご使用いただけないのは、どうやら雨花様が、チェストの引き出しの奥に、薬をしまいこんでいるかららしいので、今度若様にそっと、置き場所をバラしておこうと思っています。 私の大好きな、秘薬開発の仕事のほうを、もっとさせていただきたいですからね。 「薬司」 「あれ?若様」 ある日のことでした。 夕方の薄暗い空気に紛れて、若様がこっそり私に声を掛けていらっしゃいました。 この梓の丸に配属になる前、私は若様専属の薬司だったこともあり、若様は今でも私を『薬司』と呼ぶことが多いんです。 これでも、薬司寮の若手ナンバーワンなんですよ?私。次期薬司寮長確実とか言われてるんですから。 そんな私を、側仕えとして置いておきたいくらいの人、ってこと……なんでしょうかね?雨花様は。 最初は見た目が気に入ってお選びになったんでしょうが、雨花様の魅力は外見だけじゃないですからね。私にもわかったくらいです。若様にはさぞや……。 「どうだ?」 若様のこの主語のない話し方は、いつまで経っても変わらない気がします。その分私たちは、察しが良くなっていくんでしょうね。 「雨花様ですか?もう大丈夫そうですよ?」 「……そうか」 感情を表に出さない若様が、こんなあからさまにホッとした顔をなさるのを、本丸にいた頃は見た事がなかったんですけどね。 雨花様は今日、少し頭が痛いとおっしゃって、午後の授業を早退なさっていらっしゃいました。 生徒会が忙しいらしいですからね。お疲れになられたのでしょう。頭痛薬を飲んで寝て起きたあとには、シロの散歩に行かれてましたし、もう大丈夫でしょう。 「梓の丸はどうだ?」 「そうですね。……ここは、本丸とも薬司寮とも、違う時間が流れているようですよ」 「そうか」 ここで働く人たちはみんな、雨花様に感化されたように、どことなくおっとりとしていて上品に感じます。 戦場のような忙しさになることもある本丸や、妙な緊張感が漂う薬司寮とは、全く違う空気が流れているようで……たまに妙な罪悪感に包まれることがあるくらいです。 「あ、そうだ、若様」 「ん?」 「お急ぎの場合、雨花様のベッド脇にあるチェストの、一番上の引き出しの奥を見てみてください」 「あ?」 こっそりいらしたということは、これから雨花様のところに忍んで行かれるのだろう。 若様があの秘薬をご使用になれば、また一位様が私を頼っていらっしゃるに違いない。 そんな時の一位様は、本当に可愛いですからね。 「貝が入っております」 少し目を見開く若様など、そうそう見られるものではないでしょうね。 人間の成長など、本当に早いものですよ。 そう遠くない未来、小さな命が再び鎧鏡家にいらっしゃるでしょう。 その時にはまた私も……心を入れ替えて、小さな若君のために、健全な薬でも調合しましょうかね。 「今なら誰にも見られませんよ?」 私の言葉に鼻で笑った若様は、雨花様の部屋の窓から、ひらりと中に入っていかれました。 ……戸締りはしっかりしておくように言っておかないといけないでしょうね。 って、それは私の仕事ではないですが……雨花様は本当に何ていうか……放っておけない方なんですよ。こんな私から見ていてもね。 「頑張ってくださいよ、若様」 さて。次の薬に使えそうな薬草を、三の丸から拝借しにでも行きましょうかね。 開きっぱなしだった雨花様の部屋の窓が閉められたのを確認して、その場をあとにしました。 いつの間にやら私も、側仕えの仕事が板についてきたようです。 出来ることならあのお二人の間に、新しい命がやってくればいい……。 本丸にいた頃は、こんな風に誰かの幸せを願うことなど、なかったような気がします。 私も丸くなったって言うんでしょうかね。いや、まだまだ、丸くなる年でもないつもりなんですが……。 「三の丸の下働きに、可愛い子が入ったって聞いたしな」 若様にご使用いただきたい秘薬は、まずは私自身で試してみないといけないってのが、私の信条です。それにはまず、相手がいないと……。 歩き始めた私の視界の端に、雨花様の部屋の電気が消えたのが見えました。 「お早い」 私は三の丸に向けて、歩き出しました。 どうぞ幾久しく……お二人の時間が同じく流れていきますように……そんな私らしくもないことを願いながら……。 Fin.

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