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リスキー・ゲーム~かにちゃん100円の重みを知る~
先日、サクラと一緒に、オンラインゲームをした。
なにげに強いサクラに、超絶難しいクエストに連れて行ってもらったんだけど、そこでオレはあり得ない失敗をして、結果オレたちはクエストに敗れた。
サクラはそのせいで、ゲーム内課金をすることになり、オレはサクラから、課金した100円分の償いをしろと詰め寄られた。
「サクラって……あの有名なアパレルメーカーの御曹司さんですよね?たかが100円じゃないか!」
オレがサクラにそう言うと、サクラはふんっと鼻を鳴らした。
「100円の価値がわからない奴が、"カニ"名乗ってんじゃないよ!今日からお前はえびちゃんだ!」
「ええええっ?!それは勘弁してくださいっ!」
ノリでそう言って手を合わせて頭を下げると、サクラは『反省してる?』と聞いてきた。
「してます!」
「だったら反省文書いて」
「は?」
「題名は”がいばつについて”ね」
「……」
それ、反省文じゃなくね?
何で100円のために、オレががいくんとばっつんカップルについて何か書かなきゃいけないわけ?サクラがあの二人を大層お気に入りなのはわかってるけども!
いやもう、100円払うし。
いや、100円どうのの話じゃないのもわかってるけど、んなもん書かせられるくらいなら、えびちゃんで全然いいし。
むしろ蟹江なのにえびちゃんって、オシャレじゃね?みたいな。
んなもん書く時間があったら、受験勉強させて!サクラさん!みたいな。
「ふうん。……嫌ならもう二度と、ハニバニのチケット譲ってあげない」
「何ーっ?!」
オレの推してるアイドル『満月知世 』が所属するアイドルグループ『Honey Bunny』のメンバーに、サクラんちは衣装提供をしている。
その関係でサクラは、なかなかチケットが取れないハニバニのコンサートに行きたい放題なんだ。
何かってーとサクラは『もうハニバニのコンサートには行きたくないんだね』と、決め台詞を吐いて、オレを従わせてくる。
いや、オレだってね?何とかツテを頼れば、チケットが取れないわけじゃないんだよ。
でも、サクラんちからまわってくるのは、ほんまもんのプラチナチケットなんだ。
しかもタダ。
ハニバニのコンサートと、がいばつについてとかいう、わけわかんないざっくり作文を書くことを天秤にかけたら……そりゃあ、断然ハニバニのコンサートのほうが重いに決まってる。
いずれ、ちせみ……あ、オレの推しメン、ちせのことね?ちせみは、オレの嫁になるわけだし?男同士の恋愛事情なんざ、オレ的にはどうでもいいわ、受験勉強時間が削れるわで、100円ごときで……とも思ったけど……何を犠牲にしても、嫁(仮)のコンサートには行かねばなるまい!
くっそ。オレもいずれうちを継いだら、ぜってーアパレル系事業も展開させて、可愛いアイドルに衣装提供してやるよ!
いや、オレがうちを継いだ頃には、すでにオレの隣にちせみはいるだろうけどな?万が一、息子が生まれた時のためのアパレル事業展開だよー!まだ見ぬ息子よ!お前には父ちゃんと同じ苦労はかけさせないからな!
「書きます」
「えー?今、何て言ったの?」
「書かせていただきますっ!」
「さすがえびちゃん!」
この野郎!
「……サクラは今日から"ヤスオ"な」
「やだーっ!」
「本名だろうが!」
『恵桜』と書いて『ヤスオ』と読む……とか。サクラんちの親、案外ドキュ……。
この顔で『ヤスオ』はないわなぁ。
「冗談だよ、かにちゃん。じゃあ、一週間以内に書いてきて。がいばつの論理的検証について……だよ?」
「そっちは冗談じゃないわけ?しかも、題名長くなってんだろうが!」
「冗談じゃないよ。まぁぶっちゃけさー。僕じゃない人から、あの二人ってどう見えてるのかっていうのが、聞きたいだけなんだよね。僕的には、絶対がいくんはばっつんが好きだと思うし、ばっつんはあからさまにがいくんが好きじゃん?なのに、付き合ってるのかって聞けば、うーん?とか言うでしょ?付き合ってるっていうよね?ああいうの!僕だけの勝手な思い込みなの?ねぇ?だから、他の人の意見も聞いてみたいんだよ」
「そんなもん、反省文にしなくても、今ここで論理的に検証してやるよ」
「いや!文章にして!あとでじっくり僕的にも考察したいから!」
「……その情熱を、田頭くんにも向けてあげて。サクラくん」
「向けてるよ!」
「はぁ……どうしてそこまでするかね?」
「好きだから!がいくんとばっつんカップルが好きだからだよ。それ以外に何の理由があるっていうわけ?」
「さいですかー」
サクラの腐れっぷりは、ある意味拍手喝采ものだ。
そんなこんなでオレは、100円のために、受験勉強の時間を削って、がいくんとばっつんは付き合っているか……とかいうテーマの作文っつうか論文?的反省文を書かされることになった。
がいくんとばっつんの二人について論理的に検証しろって言ったって、オレからしたら、んなもんどうでもいいわい!
検証も何もあの二人、絶対付き合ってるだろ?二年の二学期までは、がいくんはふっきーと付き合ってるんじゃないかと思ってたけど……三学期で、ばっつんと付き合ってるのは間違いないと思ったで?
腐男子とはかけ離れているこのオレがそう思うんだから、相当だぞ?
付き合ってると思った決定的出来事があったのは、修学旅行でふっきーが、みんなより一足先に帰った日の夜だよ。
夕飯を食べ終わったあと、部屋移動するから掃除をするっていうばっつん以外が、リビングに残ってたんだ。
ばっつんが入れてくれたコーヒーを飲みながら、ぼーっと映画とか見てたんだよなぁ、確か。
そん時急にサクラが『ばっつんって、近くに来るとすぐわかるよね?何かいい匂いしてて』とか言い出した。
確かにその時、ばっつんはすでに部屋にこもってたのに、リビングには、コーヒーとばっつんの香りがしてたんだよ。
ばっつんはいつもいい匂いがしてるんだ。
爽やかミント系とかじゃなくて、なんつのかなぁ?柑橘系?何か若干甘い感じの……。
みんなが『ああ……』なんて納得すると、サクラは『ばっつんってガリガリの割に、何かほにゃほにゃしてるイメージじゃない?』とか、誰に対して聞いているのかわからない問いかけをした。
ほにゃほにゃねぇ。まぁ確かにばっつんは、細いけど、何か柔らかそうなイメージはある。顔に、男らしいシャープさがないからかな?ばっつんは、良くも悪くも顔の骨格からして、女顔っていうの?
そんなことを考えながらふんふん頷いていると、一人掛けのソファに座って、無駄に長い足を組んでいたがいくんが『ああ、柴牧は確かに柔らかい』とか、言い出したんだ。
「えっ?!」
マジでビックリしたんですけど。
つい身を乗り出して、がいくんをガン見すると、サクラがすかさず『やっぱりばっつんってなんかほにゃほにゃしてるよね』とか、ニッコリした。
サクラがばっつんに抱きついているところはよく見かける。だから、サクラはばっつんがほにゃほにゃしてるのも知ってるだろう。
でも、がいくんがばっつんに触っているところなんて、そうそう見た事……ない、よなぁ?
じゃあ何で知ってるわけ?がいくんは何でばっつんが柔らかいって知ってるわけ?やっぱりがいくんとばっつんは、付き合ってるのか?!
なんて思っていると、さらにサクラが『そういえばばっつんって、どこもかしこもツルツルしてそうなイメージもあるよね』なんて言い出した。
それは確かにある。
ばっつんは、腕もすねもツルツルだ。体育の着替えの時なんか、さーっと着替えるから、ばっつんのワキとか見た事ないけど、あれでワキ毛ボウボウだったら、明日からオレ、ばっつんのこと『兄さん』って呼ぶわ。
いや、むしろ『アニキ』だわ。カタカナな?漢字じゃなくて、カタカナな感じで『アニキ』って呼ぶわ。
そんなことを考えながら一人で吹き出しそうになっていると、がいくんが『確かに体毛は薄いな』とか、返事をした。
「どぅっ……」
ちょっ……ちょいちょいちょい!がいくん!
ばっつんの体毛薄いって……どこからツッコめば?
何でがいくんがばっつんの体毛が薄いって知ってるんだよ?やっぱりがいくんとばっつんは付き合ってるのか?しかも、相当深い仲?
いやいや、体毛だった。がいくんは体毛って言いましたよ?うん。体毛だから。すね毛も腕毛も体毛だから。うん。オレも知ってる。オレも、ばっつんがすね毛も腕毛も薄いの知ってる。うん。そうだった。そうだった。オレも知ってた。あ、しかもがいくんは、ばっつんと席が隣同士だった時もあるしな?体育の着替えの時とか、ワキがチラリと見えたこともあったかもしれないし?
……まさかあのばっつんが、このがいくんと……そんな深い仲とか、もう全っ然想像出来ん!
一人アワアワしていると、サクラが身を乗り出して、がいくんに『えっ?!薄いってことは少しでも生えてるの?』とか、また見当違いな質問をしやがった。
いやいや、だから、そこじゃないから!
っつか、サクラ……どこの毛の話をしてるんだ?お前は!
そう思っているとがいくんが『一応生えているという程度だな』と、顎を触りながら、何かを思い出している風にそんなことを言い出した。
がいくーーーん!
っつか、だからあんたら、体毛って、どこの毛の話をしてるわけ?二人が話してる体毛って、同じ場所を指しているんですかー?!
……なぁ、それってすね毛だよな?いや、百歩譲って、ワキ毛でもいいけどな?って、いいけどって、何の許可だよ?……オレの脳内処理可能範囲がそこまでなんだよーっ!
「うわぁ……やっぱりばっつんは、陰毛もうっすらツルツルなんだね!」
うわぁ……言っちゃったよ、この人。陰毛って言っちゃいましたよ?がいくんは陰毛なんて一言も言ってないからな?”体毛”について、話してんだからな?
そこに、ばっつんが戻って来た。
「あ!ばっつん!ばっつんって、あそこツルツルなんだって?」
「はいぃ?」
サクラぁっ!お前はまた、ややこしい言い方を!
「がいくんが言ってたよ?ばっつんはあそこツルツルだって」
言ってない!言ってないから!
「なっ!なっに、何言ってんだよっ!バカ!バカ!」
いやいやいや、ばっつん。慌て過ぎで、顔赤らめ過ぎ。第一、あそこってどこだと思ってんだよ?サクラはどことは言ってないぞ?
「でもさー、あそこツルツルって、恥ずかしい時もあるよね?温泉とかさー。人前で脱いだ時、生えてないと恥ずかしくない?」
「え?はえてる?え?何の話?毛の話?」
ばっつんは『ほえ?』みたいな顔をした。
いやいやいや……もう、ホントちょっと待って!毛の話じゃなかったら”あそこツルツル”で顔真っ赤って、ばっつんはどこがツルツルだと思って照れてたわけ?いやもう、陰毛どうとかとかぶっ飛ぶだろうが!
その時、がいくんが足を組み直しながら、二人の話に割り込んだ。
「恥ずかしがることにはならない」
「え?何で?」
サクラががいくんにそう聞くと、がいくんはソファにどっかり背中をつけて腕を組んだ。
「柴牧には、人前で肌を晒さないように言ってある」
それを聞いて、がいくん以外、ばっつんも含めたみんなが、ぽかーんって顔になった。
そのあとすぐ、がいくんはお風呂に入りに行っちゃって、ばっつんも、がいくんの発言には何にも触れず、掃除の続きをするとか言って、そそくさリビングを出て行っちゃって、残ったのは、今にも鼻血を吹きそうなサクラと、我関せず的にテレビを観ている田頭と、オレだけで……。
「ね、ねぇ?今のどういうこと?ただの過保護ってこと?」
サクラが田頭にそんなことを聞いている間に、オレは『オレも掃除するわ』と、リビングを出た。
あれ以上あそこにいたら、サクラのがいばつ妄想を聞き続けることになるのは目に見えていたからだ。
もう体毛が陰毛でも、ばっつんのどこがツルツルでも、それをがいくんが知ってても、そんなもんはどうでもいい。
温泉に入った時、ツルツルだと恥ずかしいよね?の答えが、人前で肌を晒すなと言ってある……ってさぁ。
「……」
もう、色々おかしいだろうがぁ!
温泉入る時、人前でちんちん晒すのは普通だよ?がいくん!いや、友人ならむしろ『晒せや!』って言ってやれ!田頭と一緒に温泉に行ったとして、田頭が無駄にタオルでちんちん隠してたら、オレなら、んなタオル、奪い取ってやるわ!
「はぁ……」
しかもがいくんのあの話っぷりからするに、がいくんに肌を晒すなって言われたばっつんが、素直に言うことを聞くと思ってるって感じだったよな?
ってことは……。
もう総合的に考えてあの二人……そういうことなんだろうな。雰囲気からして、おかしいし。まぁ、薄々感づいてはいたけどさ。
そんなことを思い出しながら、オレは、がいくんとばっつんが付き合っているかどうか、論理的に検証した『反省文』を書いた。
『がいばつの論理的検証について』
三年A組 蟹江典盛
僕はオンラインゲームにおいて重大な過ちをおかし、藤咲くんに無駄な課金をさせたことについて心から反省しています。反省の証として、藤咲くんが大好きながいばつについて、二人が本当に付き合っているかどうか、僕が体験した事実に基づき、論理的検証をしていきたいと思います。
まず、ばっつんががいくんを好きなことはあからさまなので、それについての検証は省き、それを前提として話を進めていきたいと思います。
次に、がいくんがばっつんを好きかということについて、検証していきます。
ここのところ、週に一度程度、ばっつんはがいくんと一緒にお昼ご飯を食べることがあります。嫌いな人と一緒にお昼ご飯を食べることはないと思われるので、その点からしても、がいくんはばっつんが好きか嫌いかで言ったら、確実に好きであろうということが言えるでしょう。
さて次に、お互い好き同士であるこの二人が、一体どこまでの付き合いなのかの検証をしてみたいと思います。僕自身の常識から判断するに、相当深い仲であると結論付けて良いかと思います。
結論付けの根拠として、藤咲くんも同席していた修学旅行最終夜の話を上げることにします。
1.がいくんは、みんなが知らないばっつんのあれこれを知っているかのような発言をした。→主に体毛(陰毛含む)の濃さ、体の柔らかさ等。
2.がいくんは、ばっつんの裸を人前に晒させないと発言した。→普通友人に対してそのような感情がわくことは少ないと思われる。
3.がいくんは、ばっつんが、上記2.の発言を黙って受け入れるだろうと確信しているふしが見て取れた。→実際その発言を聞いていたばっつんは何の反論もしていない。
以上の点を総合的に判断して、がいくんとばっつんの関係は、友人関係と言うには無理がある。体毛の濃さ等を知っているというだけで断定は出来ないが、その後の発言、雰囲気等から、この二人の間には、性交もしくはそれと同様の行為があるのではないかと判断していいかと思います。
がいくんは相当独占欲が強く、ばっつんは何やかや言う割にそれを受け入れている、オレ様とツンデレワンコ系カップルなのではないかという結論に達しました。
これで付き合ってないとか、ありえねーよ。アホくさ。
以上。
「さすがだよ!かにちゃん!」
オレの論文?を読んだサクラは、目を輝かせた。
「やっぱり二人は付き合ってるよね?」
「そうじゃないなら、付き合ってるの定義から教えてくれって話だろ」
ま、実際はどうかわかんないけどな?本人たちに聞いたわけじゃないからさ。でもこれは、ある意味サクラを喜ばせるための”反省文”だ。とりあえず盛り上げとかんと!ちせみのためなら、あることないこと言ってやるよー!
まぁあの二人の場合は、あることないことっていうか……実際、相当深い仲だと思うけどな?一緒にいる時の距離感、とかさ。そういうの何となくわかるじゃん?
「だよねー?」
満足そうな顔をしたサクラが『ほい』と、オレに封筒を渡してきた。
「ん?」
「ハニバニが出演するテレビ収録の観覧券」
「サクラすわんっ!!」
ありがたく頂戴すると、サクラはニッコリ笑って『また一緒に超絶クエスト行こうね!』と、言ってきた。
「……行かねー」
「えーっ?!」
「受験勉強すんだよ。田頭と遊んでやれや」
「えー……早くみんな、受験終わんないかなー」
いや、サクラ。悪いが、受験が終わっても、お前とはもう一緒にゲームはしないでおくわ。
オレは、初めからリスキーだとわかっているゲームに手は出さない主義なんだ。
「受験終わったらさー、みんなで卒業旅行に行こうねー!」
「うっ……あ、うん。そうだな」
っつか、みんなって誰?
男カップルの中に混じって旅行とか、マジで辛いんすけど。
はぁ……ちせみーーーーーー!早く嫁にこねーかなー。
Fin.
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