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リトライ!雨花生誕祭

僕たち、梓の丸の使用人一同にとって、とてつもなく大きな行事である、雨花様の生誕祭が、あとわずか一ヶ月という頃のことでした。一位様から、使用人会議を開くという通達が出たんです。 今回の議題は『雨花様の生誕祭を祝う会の出し物について』です。 少し前、すでに使用人たちには、雨花様の誕生会に、雨花様に喜んでいただくための出し物のプランを練るようにという『宿題』が出されていました。 「四位(しい)さーん!ちゃんと皆様を説得出来るようなプレゼンが出来るでしょうか」 会議室までの廊下を、不安そうに何度も僕を見上げながら、あげははぴったり隣にくっついて歩いて来ました。 いつもは使用人会議に呼ばれることが少ないあげはとぼたんも、今回は出席を許されていました。 あげはとぼたんが会議に呼ばれることが少ない理由を、はっきり一位様にお伺いしたことはなかったですが、僕は六位(むつみ)のせいだろうと思っています。 六位はすぐ下ネタに走るので、いつまでもあげはとぼたんを子供扱いしている一位様は、そんな会議に二人を出席させたくないのでしょう。 もう中学生なら、下ネタの一つや二つや三つ……むしろ下ネタだけの会議のほうが楽しいよね?って、思うんですけど……。 僕の中学時代はそうだったけどなぁ。今時の日本の中学生って、清らかなんですね。 僕とあげはは、誕生会の出し物の宿題をもらってから、どんな出し物がいいか、一緒に考えてきたんです。 今日は、僕たちが考えた出し物を認めていただくため、あげはと一緒にプレゼンしようと約束をしていました。 なぜって、あげはと僕は『雨花様のいちゃこらを見隊』というグループを結成しているからです。 もう一人、八位(やつみ)もメンバーなのですが、八位は九位(ここのい)様の監視下におかれているもので、あまり大っぴらに活動が出来ないんです。 九位様は『いちゃこらなんざ人前でするもんじゃねーんだよ!それより二人きりにして差し上げろ派』なんです。 いちゃこらは人前でするからいちゃこらで止まるんじゃないですか。ねぇ?二人きりでくっついてたら、すぐ本番突入しちゃいますよ。 え?しない? 「あげは、プロジェクターの使い方、大丈夫?」 「はいっ!猛特訓してきましたっ!」 プロジェクターの特訓って、何をしたんだか……。 想像も出来ませんが、あげはは何かを頑張ってきたようです。 あげはって、一生懸命で可愛いんだから。 「頑張ろうね」 「はいっ!雨花様のいちゃこら見たいですっ!」 「よーっし!見るぞーっ!」 「では、私四位と、あげはの共同プレゼンを始めさせていただきます」 くじ引きで決まったプレゼンの順番は、最後から三番目でした。最後に近いほど、印象に残ると考えていた僕にとっては、なかなかのくじ運です。 「まず、雨花様に喜んでいただくためには、若様にお喜びいただくことが大事ではないかと考え、私たちはそこに重点を置いた出し物をいくつか考えて参りました。まずは、こちらをご覧ください」 会議室の前方に貼られたスクリーンに『二人羽織』でそばを食べている動画を、あげはがタイミングよく映し出しました。 「おおおおおおお……」 良しっ!好感触だ! 二人羽織……それは、長く海外にいた僕でさえ知っている、有名な日本の伝統芸能! 「お二人に二人羽織でそばを食べていただくのか?」 「はい。しかし、お二人だけではありません。私たち側仕えもペアになって、若様雨花様ペアと対戦するのです」 「ほう……」 「雨花様はああ見えて、負けず嫌いでいらっしゃいます。勝負だなんてきっと、白熱してくださるに違いありません。そんな雨花様を後ろから操る若様も、雨花様とぴったり密着でお喜びになられるのでは……?」 「結局お前がそんなお二人を見たいだけだろうが」 案の定、九位様が茶々入れしてきました。 その時、五位(いつみ)がスッと手を挙げました。 「いつもは大変照れ屋の雨花様も、このような勝負となれば、気負いなく若様との絆を深めることが出来るのではないでしょうか?それは我らの願いでもあります」 Oh!でかした!五位! ムッツリの五位は、僕たちのように大っぴらに『雨花様のいちゃこらが見たい!』とは申しませんが、見たがっているのはバレバレです! 「……そうですね。いいかもしれません」 よーっし!一位様も仲間に取り込んだ! 一位様は基本『どのような事態でも見守る派』です。 僕たちの意見を大事にしてくれて、たくさんの意見をいつもうまーくまとめてくださいます。 一位様は普段、ご自分から『こうしたい!』なんて強制はなさいません。その分、一位様の『いいかもしれません』は、僕たち使用人にとって、相当の強制力が働くんです。 これは……二人羽織は決まったも同然だなと、ついほくそ笑んでしまいました。 二人羽織以外にも、いくつかのゲームを提案して、僕たちのプレゼンは終了しました。 そのあと、一位様より、お祝いを持っていらした方への対応の仕方や、周りのお屋敷への配慮等、当日の諸々の注意点の説明があり、持ち場ごとに分かれて話し合うことになりました。 三位、僕、五位、八位の中臈チームは、主に対外的接待が仕事として割り振られました。 当日、雨花様に直接プレゼントを渡したいと、曲輪まで出向いて来る方がたまにいるんです。候補様に直接会えるなんてことはないんですけどね。 お祝いに乗じて、候補様と直接言葉を交わしたいと思う人もいるようで……それを丁重にお断りするのが、僕たちの主な役目ってわけです。 去年はお祝いをいただいた皆様に、内祝いとして、赤飯と紅白饅頭をお渡しさせていただきました。 候補様が家臣に渡す内祝いは、基本『消え物』に決められているのだそうです。 ですが今年、雨花様の内祝いには、赤飯と饅頭の他に、箸が付けられることになっていました。 あの離れの和室を作る際、伐採した木で作った箸です。 消え物ではない内祝いは大変珍しいのですが、伐採した木で箸を作りたいというのは、雨花様たっての希望であり、お館様の強い推薦もあって実現したそうなんです。 こうして、雨花様の生誕祭の準備は着々と進み、当日を迎えたのですが……やんごとなき事態が発生致しまして、パーティーは中断を余儀なくされました。 中断された理由を聞いて、誰一人、何も言えませんでした。 僕たちは、いつもとは打って変わって、無駄口を一切きかずに、パーティーの片付けをしました。 ですがっ!! 晴れ様の処遇が決まり、若様のお渡りが再開され、八月の最終日に、なんと!雨花様の誕生会のやり直しをすることが決まったんです! それを言い出してくださったのは若様だと、使用人会議で一位様からその話を伺った時、みんなでハイタッチをしながら喜びました。 さすが、若様です! さて、それからは、雨花様には完全に内緒でことが進められました。絶対に雨花様に悟られないように、今回の飾り付けは、パーティー会場だけにしたくらいです。 このようなことがあると毎度思うのですが、一位様って本当に雨花様へのサプライズが好きなんだろうなぁ。 いや、僕たちもですけどね。 待ちに待った、八月最終日。 早朝から、今日行われる雨花様の誕生パーティーのための最終打ち合わせが開かれました。 「今日は雨花様を心からお祝いしましょう」 「おおおおおおっ!!」 一位様の掛け声に、みんなが力一杯返事をすると、九位様が慌てて『こら!』と、みんなを止めました。 「雨花様に聞こえてしまうだろうが!」 「あははっ」 ここまで隠してきたのに、ここでバレては台無しです。 でも……久しぶりに梓の丸に活気が戻って来た気がします。 さて……今日、司会を務める僕も、気合いを入れて、雨花様と若様を盛り上げますよー!     昨日まで合宿所にいらした雨花様は、若様のお渡りがあるということで、夕べこちらに戻っていらっしゃいました。 昼食になる前に若様が渡って来ると聞いた雨花様は『早いよー』と、言いながらも、どこか嬉しそうです。 若様のお渡りが早い理由を知っている僕たちは、何度も笑いをこらえながら、ささっと雨花様のお仕度を済ませました。 「若殿様のお渡りでございます」 駒様の先導でいらっしゃった若様を、雨花様はいつものように部屋で迎え入れました。 僕たちはこっそり隠れて、若様が雨花様のお部屋に入って行かれるご様子を見ておりました。 いつもはここで駒様に『()ね』とおっしゃる若様が、今日は雨花様に『参れ』とおっしゃって、雨花様の手を引いて部屋を出ていらっしゃいました。 雨花様の誕生パーティー開始の合図です。 「急げ!いらっしゃる!」 三位の合図で、みんなが一斉にパーティー会場に向かいました。 「雨花様、びっくりなさるでしょうね」 嬉しいのが隠しきれない様子のあげはが、鼻を膨らませながら、会場のドアノブを握りました。 雨花様がいらっしゃったのを見計らって、ドアを大きく開けるのは、あげはとぼたんの役目です。 「もちろん、びっくりなさるだろうね」 僕もきっと、鼻の穴が膨らんでるんだろうなぁ。 そう思いながら、僕は司会席に移動しました。 そうこうしているうちに、廊下から『ちょっ……皇!どこ行くんだよ!』という、雨花様の声が聞こえてきました。 その声が聞こえてすぐに、八位が吹き出して、九位様に頭を小突かれていました。それを見て僕も、聞こえないように吹き出しました。 周りを見ると、みんな笑いを堪えていました。 はぁ……楽しい! 雨花様……どんな顔で入っていらっしゃるんだろう? 「雨花様!おめでとうございまーすっ!」 クラッカーを一斉に鳴らして、雨花様をお迎えしました。 「うわっ……え?え?何?」 驚いた雨花様は、お隣で手を引く若様を見上げました。 かっ……可愛……うおっ……本当に雨花様って、お可愛らしいなぁ。っていうか、この頃ますます雨花様はお可愛らしくなられたような気がします。 「そなたの誕生日の仕切り直しだ」 「うわぁ……」 「パーティーのやり直しは、若様が言い出してくださったんですよ?」 一位様がそうおっしゃると、雨花様は若様に『ありがと』と、おっしゃって、真っ赤になってはにかみました。 かっ……可愛いっ! 雨花様って、たまにあんなお顔をなさるもんですから、何度でも喜ばせたくなりますよね。わかります!若様っ! それからすぐに料理が運ばれて、若様から雨花様に、ケーキがプレゼントされました。 結局、誕生日当日のケーキは、溶けてしまっていて、菓子職人でも復元は出来なかったようです。 しかもあの日、昼過ぎから何も召し上がらなかった雨花様は、誕生日当日、ケーキを口になさっていらっしゃいませんでした。 雨花様は、若様からケーキの箱を受け取って開けると『うわぁ!』と声を上げられました。 今年のプレートには、何が書いてあるのでしょうか? ワクワクしながら、雨花様がケーキを取り出すのを見ておりますと、中から花がたくさん乗ったケーキが出てきました。 「食べられる花だそうだ」 「すごい!……ありがとう、皇」 「今年は、プレートはついてないんですか?」 あげはが何の戸惑いもなくそう聞くと、雨花様はにっこり笑って『プレートは先に貰ったんだ』と、おっしゃいました。 雨花様が『ね?』と、若様を見上げますと『ああ』と、若様がおっしゃって、雨花様の頭を撫でられました。 ……エロっ! あっ!つい……。 若様は少し前まで、炭酸飲料のコマーシャルにでも出られそうな爽やかイケメンでいらしたんですが……いつからこんなにフェロモン系イケメンになられたんでしょう。 ケーキを切り分けて、みんなのお祝いの挨拶やら、いただいた電報なんかを紹介したあと、食事をいただきながら、僕たち使用人は、順番に出し物をさせていただきました。 全員の余興を見ていただいた頃には、食事もたいがい済んでいましたので、お待ちかねのゲーム大会を開催することに致しました。 僕とあげはがプレゼンしたゲームが採用されたんです! 「では、これから発表するペアで、いくつかのゲームをしていただきます。負けたら罰ゲームが待ってますので、若様、雨花様、頑張ってくださいね!」 ゲームのペアを発表して、簡単にこれからの説明をすると、若様から『罰ゲームだけでは士気が上がらぬであろう。全体を通じて優勝したペアには余から褒美を取らせる』というご提案をいただいたため、完全にみんなの目が、勝つ!というものに変わりました。 さすが、若様! 鎧鏡家からの褒美だなんて、それが何であれ家宝ですからね? 「オレたちペアが勝っても、皇が褒美を出すの?」 雨花様がそうおっしゃると、若様は『そうだな』と、考えるような素振りをなさいました。 「そなたには余がくれてやる。余への褒美は、そなたが寄越せ」 そう言って、ニヤリとなさった若様のエロカッコ良さ! 『そなたが寄越せ』ではなく『そなたを寄越せ』じゃないんですかぁ!?若様っ!ああっ!録画!誰か録画! お二人を負かせて、罰ゲームをしていただくのが目的だったのに、お二人が勝って、褒美を贈りあうお姿を見てみたくなります。 なんて悩ましい問題なんですか! 「四位、早く始めないか」 僕が悶絶しているところ、三位がそう声を掛けてきました。 「あ……」 そうでした。 「では!最初のゲーム、"二人羽織deかき氷"です!」 「え?何ですか?それ?」 「二人羽織りで、かき氷を早く食べきったチームの勝ちというゲームです。どちらがどちらの役目か決めてくださいね」 「えー……皇、どっちがいい?」 「二人羽織りとは、何だ?」 雨花様が若様に二人羽織りを説明すると『余が後ろのほうが良かろう』ということになったようで、若様は雨花様の後ろに座ると、羽織をガバッと掛けました。 「味付けは、お好きなものを伺います。雨花様は何がよろしいですか?」 ずらりと並んだシロップを見て、雨花様は、いちごかき氷の練乳掛けをチョイスなさいました。甘い物がお好きな雨花様らしいチョイスです。 僕も八位と一緒に、ゲームに参加することになっていたので、みんなが並んだ最後に、雨花様のお隣に並びました。 「では、スタート!」 ゲームが始まってすぐ『ちょっ……や!もっと!あっ!』と、おっしゃりながら、口の周りを練乳まみれにする雨花様を、僕は隣でガン見してしまいました。 ……。 ……。 もうこれ僕……ゲームどころじゃないです! 「ちょっ……やめっ!ちょっ!皇っ!」 雨花様の後ろにいらっしゃる若様が、何やらもぞもぞと動いていらっしゃいます。 え?何を?と思っておりますと、正座をしていらした若様が、あぐらをかく体勢に座り直して、ひょいっと雨花様を持ち上げ、膝の上にお乗せになりました。 「ぶはっ!」 「え?四位さん?どうしたんですか?何、吹き出してんですか?」 八位は心配そうというよりも、何してんだよ的な雰囲気をにじませて、そう聞いてきたんですが、これは吹き出すでしょう?! ゲームをしているみんなは、家宝に目がくらんでいるのか、必死にかき氷を食べていますが……いいの?ねえ、あげは!ほら!見て!あげはっ!ああ……録画!誰か録画しておいてっ! そのあと、八位に無理矢理かき氷を口に突っ込まれ、何とか僕たちも若様雨花様ペアに勝利しました。 人に物を食べさせることなど、そうそうなさらないだろう若様と雨花様ペアが最下位で、罰ゲームを受けることが決定しました。 ……やったよ、あげは! 「はい。では罰ゲームでーす!この罰ゲーム箱の中から、一枚紙を引いていただき、その指示に従っていただきます」 罰ゲームの内容が書いてある紙が入っている箱を、若様と雨花様に差し出しました。 「そなたが選ぶがいい」 「何が出ても、怒らないでよ?」 「そなたが選んだ罰なら、素直に受けよう」 ああっ!ホント誰か!録画っ!やっぱり、若様と雨花様を記録する許可を、何としてでも取っておくべきだった! 鎧鏡家の方々並びに、奥方候補様の撮影は、基本、禁じられております。……基本、ですが。 生誕祭なんていうおおっぴらなイベントで撮影する場合は、絶対に許可をとらないと、撮影してはいけないでしょうが、今回のこの誕生パーティーは、決定されたのがついこの前ということもあり、撮影許可をいただく時間がなかったんです。 ああああっ、僕の心の目よっ!お二人のお姿を焼き付けておくれー! 「はい。じゃあ、コレで」 雨花様が引いた紙を開きますと『ポッチー』と書いてありました。 出たっ!最初から出ましたよ!ポッチーゲーム! ……とか言って、この罰ゲーム箱の中の半分以上がポッチーゲームであることは、僕とあげはと八位しか知りますまい! 「四位さん、悪い顔してますよ?」 はっ!つい……。 僕の顔を見上げているあげはに『例のアレ、持って来てくれる?』と言って、雨花様が引いた罰ゲームの紙を見せました。 それを見た途端、あげはは子犬のように、小道具入れに走っていきました。 「はい。罰ゲームは、ポッチーでーす!」 「えっ?!」 まだ何の説明もしていないうちから、雨花様がビックリなさいました。 ふふ……おわかりになられましたか?ああ!録画っ! そこに、再び子犬のごとく走って戻ってきたあげはが、お二人にポッチーを1本渡しました。 「このポッチーの端と端を咥えて食べ進める罰ゲームです。しっかり食べきってくださいね?」 「うっ……」 真っ赤になる雨花様を尻目に、若様は『これが罰ゲームなのか?そなたがチョコレートの部分のほうが良かろう』などと、呑気にポッチーを咥えて、雨花様の前に立たれました。 「皇、食べて来ないでよ!」 そう言って雨花様もポッチーを咥えて、食べ始めました。 心なしか、会場が静かになった気がします! 若様は、雨花様に指示された通り、全く動きません。お二人の唇が重なるぅぅぅぅ!というところで、雨花様が動きを止めると、若様がガッ!と、雨花様の後頭部をお掴みになり、ポッチーを食べ始めました。 「んん~っ!!」 ポッチーが完全に見えなくなるまで、若様は、ポッチーを食べ進めてくださいました。お二人の唇が、完全に重なっていらっしゅったんですー!うおおっ! 若様は、僕たちの期待の上をいっていらっしゃった!若様ぁっ! 僕がお二人に見とれていると『一位様!離してください!』という、必死なあげはの声が聞こえてきました。 え?どうした? ふと隣を見ると、一位様にがっちり目を隠されているあげはが、何とかお二人のお姿を見ようと、もがいていました。 「……」 いや、あげは。今のは確実に15禁だったから。うん。お二人の絡みは15歳になってからだね。 「皇のバカっ!バカっ!もう!信じらんないっ!」 顔を真っ赤にしながら、口を押えた雨花様が、若様を責め立てました。 「端と端を咥えて食べきれと、四位が申したであろう。決まりは守らねばならぬ」 「どういう解釈してんだよっ!バカっ!」 「馬鹿馬鹿申すでない」 「もう!もし今度罰ゲームをする時は、オレの指示に従え!」 そう言われた若様は、雨花様の頭をポンッと撫でました。 「今日はそなたの誕生祝いだ。そなたの申すままに致す」 「うっ……」 雨花様はさらに顔を赤くして、黙ってしまわれました。 頭を撫でただけで、雨花様を鎮まらせてしまう若様!さすがですっ! 次に、唇と手を見ただけで、自分のペアを当てるというゲームをしました。このゲームのために作ってもらった大きな一枚板には、口と片手を出すための穴が開いており、ゲームに参加していない使用人も含めた10人が、板から口と手だけを出しています。その10人の中から、自分のペアを当てるというゲームです。 若様雨花様ペアは、若様が、10人の中に紛れていらっしゃる雨花様を当てることになりました。 最初の選択でペアを当てられたのは、若様と、三位と、あげはの三人だけです。 っていうか、この10人の中から、口と手だけで当てられるとか……。あげはは、手が小さい人間を選べばいいので、ぼたんを当てて当然ですが……若様と三位については、リアルに付き合ってるからでしょうか?すごいなぁ。 最終的に、最後まで当てられなかった九位様と六位ペアが罰ゲームをすることになったのですが、総合優勝をかけて、決勝戦が行われることになりました。 これ、いくら何でもあげはの一人勝ちだろ?と思っていたのですが、何度やっても、若様と三位も、最初の選択で必ず当ててきます。 すごいな、三位。 こっそり三位に、どうして二位さんがわかるのか聞いたら、二位さんの手には、ついこの前火傷した跡があるとのことでした。 そんな目印があったとは……。 若様にも若様だけにわかる、雨花様の見分け方があるのかもしれませんね。 最終的に、三人は何度やっても最初の選択で当ててくるので、引き分けにしました。 罰ゲームをすることになった九位様と六位は、罰ゲーム箱の中から、ポッチーを引き当てました。まぁ、この箱の中、半分以上がポッチーですからね。当然といえば当然かもしれませんが……。 ものすごく嫌がる九位様と、ヘラヘラしている六位がポッチーの両端を咥えると、雨花様が楽しそうに身を乗り出していらっしゃいました。 二人がポッチーを食べ進めて、唇がついたかつかないかで離れると、雨花様は『うわぁ』と、顔を赤らめて『人のポッチーゲームってすごいですね』と、ものすごく嬉しそうでした。 いえ、雨花様。雨花様と若様のポッチーゲームのほうが、てんですごかったですよ? 次に行った『尻文字ゲーム』は、お題の字をお尻で書いて、たくさん答えたチームの勝ちというゲームです。 これは、若様から強制的に、雨花様が尻文字を書くほうに指名されていらっしゃいました。 いざゲームが始まると、一生懸命尻文字を書く雨花様に、若様は『わからぬ』を連発して、何度も尻文字を書かせています。 一緒に見ている僕には、雨花様がわかりづらい尻文字を書いているようには思えません。……ってことは、わざと?!雨花様に何度も尻文字を書かせたいがための計算ですか?そうなんですか?若様!さすがですっ! 結局、そんな状態でしたので、若様と雨花様ペアが負けてしまいました。 「はい、雨花様、罰ゲーム箱です」 嬉々としてあげはが雨花様に罰ゲーム箱を差し出しました。 「ううう……んと……はい!これ!」 一枚の紙を引いた雨花様は『まさかまたポッチーじゃないよね?』と、心配そうにこちらを見ています。 ……その可能性は高いです!雨花様! 紙を開くと『あめ口移し』と書いてありました。 おお!これは! 「罰ゲームは飴の口移しでーす!」 「ええええええっ?!」 飴の籠を運んできたあげはが『お好きな飴をどうぞ』と、雨花様に差し出しました。 「ううっ……えええええっ……」 渋る雨花様に『早う致せ』と、ハッカ飴を一つつまんだ若様が、唇に飴を挟んで、雨花様の腕を掴みました。 うおおおおお! 「ちょっ!待った!お前からは駄目!オレからするから!飴ちょうだい」 雨花様は、若様が唇で挟んでいた飴を奪うように取ると、自分の唇に挟みました。 えええええっ?! 「うわぁ!間接キッスです!」 僕の隣にいたあげはが、感激したようにそう言うと、雨花様が『ぶはっ』と、飴を吹き出しました。 「うわぁ!ごめんなさい!洗ってきます!」 雨花様は床に吹き出した飴を拾って、洗面所に洗いに行かれました。 雨花様って、ホント、ああいうところがお可愛らしいんですよねー。 若様もそんな雨花様を、笑顔を浮かべて優しく見守っていらっしゃいました。 「じゃ……じゃあ、今度こそ、絶対動かないでよっ!」 戻っていらした雨花様は、若様をご自分の前に正座させて、飴を口に咥えました。 どうやら上から、若様の口に飴を落とそうという作戦のようです。 さっきの『雨花様飴強奪事件』で、僕は満足していましたので、これでもいっかと思っておりましたら、若様が『それでは口移しとは言わぬではないか』と、またもや雨花様の後頭部を掴んで、雨花様の口から飴を奪われました。 「んんーっ!!」 ……ルールに厳しい若様、ぐっじょぶ! あ。ちなみに、さっきの飴の口移しも、一位様の妨害にあって、あげはは見ることが叶いませんでした。 うん。仕方ないよね。お二人の絡みは15歳になってから。 そのあと行った風船運びゲームでは、ペアで風船を挟んで運ぶというのに、若様が雨花様まで一緒に抱え上げてしまって失格になりました。 僕的にはすっごく美味しい展開でしたが、失格です、若様。 罰ゲームは、今日履いているパンツの色を答えると書いてある紙を、雨花様が引かれました。 「え?これ罰ゲームなんですか?オレ、白ですけど」 その答えを聞いて、何故か十位(とおみ)さんが吹き出しました。 一位様が十位さんに『どうしました?』と聞いていらっしゃいましたが『いえ、何でも』と、十位さんはニッコリしました。 なんだったんでしょう? 僕はそれより、若様の『余は履いておらぬ』発言のほうに、度胆を抜かれました。着物の若様は、パンツなんて履いていらっしゃらないんですね?!ってことは、あまり派手に動かれると、若様の若様がポロリなんてことに……。 ツイスターゲームもやるつもりでいたのですが、若様のそのお言葉で急遽中止にしました。 次に行ったのは、箱の中身当てゲームです。二人で箱の中に手を入れて、何が入っているのか当てるゲームなのですが、このゲームでは若様が、雨花様の手ばかり握っていて当てられなかったため、お二人が罰ゲームをすることになりました。 罰ゲームは、ペア相手が膨らませた食べられるシャボン玉を食べ合うというものでした。 「え?これも、どこが罰ゲームなんですか?」 そうおっしゃいながら、雨花様は若様が膨らませた食べられるシャボン玉をパクリと口に入れられました。 「あれ?美味しいですよ?え?もしかして、本当は食べられないとかじゃないですよね?」 「いえ、食べられます」 「全然罰ゲームじゃなくないですか?」 「雨花様、私でしたら絶対やりたくないですよ?その罰ゲーム」 六位が嫌そうな顔で九位様を見ながら、雨花様にそう言いました。 「え?そうですか?結構美味しいですよ?」 「いえ、味ではなく……九位様が膨らませたシャボン玉を食べるってことは、九位様の息を食べるってことですよ?絶っ対、嫌です!」 「お前ね、何気に傷付くだろうが!」 九位様がものすごくイヤな顔で、六位を見ました。 確かに……。さすがに僕もこの罰ゲームは抵抗あるなぁ。 「うわっ、そういうことですか?ええ……じゃあオレ、なるべく小さく膨らませるから」 雨花様は本当に小さいシャボン玉を作られたのですが、若様は『そなたの息を食うことのどこが罰ゲームなのだ』とおっしゃって、躊躇なく、雨花様の膨らませたシャボン玉を召し上がりました。 雨花様は真っ赤になって『バカじゃないの!』とおっしゃっていましたが……これですよ!僕が見たかったのはこういう……雨花様が無駄に照れる系の罰ゲームですよ!はぁ……幸せです!ああ、録画ぁぁ! 次に行われた『二人三脚ピンポン玉おたま運び』は、その名の通り、二人三脚をしながら、おたまに乗せたピンポン玉をゴールまで運ぶゲームです。 これは、身長差が20センチはある若様と雨花様の圧倒的不利で、またまたお二人が罰ゲームを受けることになりました。 「皇とじゃ、何をやっても勝てる気がしないよ、もう!」 ブツブツ言いながら、雨花様が罰ゲーム箱から引いた紙には『相手のいいところを一つ、相手に耳打ちしたあと発表する』と、書いてありました。 「えっ?!」 雨花様はそれを聞いて、また顔を真っ赤になさいました。 これ、八位が書いたヤツかな?うんうん。いつも若様にツンツンなさっていらっしゃる雨花様が、若様のいいところをおっしゃるなんて……たまらなく待ち遠しいですっ! 「では、余から言うてやる」 若様は、雨花様の肩を掴んで、何やら耳打ちなさいました。 「えっ?!」 それを聞いて雨花様は、信じられないという顔をしました。 「あ?そなた、好きであろう?」 「は?」 「あ?そなたの悦いところであろう?そなた、好きではないか、ち……」 「どわああっ!バカ!」 え?雨花様の好きなところ?え? 「え?ちょっと待って!そういう意味じゃないだろうが!え?嘘?オレが間違ってんの?罰ゲームだし……え?そういう意味?」 雨花様は頭を抱えてしまわれました。 え?何?相手のいいところを言うだけなんですが、そういう意味ってどういう意味? 僕が首を傾げていると、六位が笑いを堪えながら『おそらく若様は、雨花様が気持ち良くなるところをおっしゃったんでしょうね』と、僕に耳打ちしました。 え?気持ちいいところ?それって……『そなた、ここがよいのであろう?』的、アダルトいいところ? 「ぶはっ!」 鼻血ーっ! 雨花様の気持ちがいいところを語る若様……。さっき若様『ち』って言いかけてましたよね?『ち』ほにゃららが、雨花様の気持ちいいところってことですか?『ち』ってどこ?ちんちん?いや、若様がちんちんとかおっしゃるはずない!じゃあどこ?どこおおおっ! これは……このまま雨花様の口から、若様の気持ちよいところも聞かせていただいたほうがいいんだろうか?せっかく素敵な勘違いをなさっていらっしゃるのだから、わざわざ訂正を入れる必要もな……はっ!いやいや、この会場には、あげはとぼたんもいる!相手の気持ちがいい場所を言い合うお二人だなんて、刺激が強すぎます! 「四位さん、四位さん。罰ゲーム終わりましたよ?」 「へっ?!」 隣であげはが、小さい声で僕を呼んでいました。 え?!罰ゲームが終わった?嘘っ?!僕が悶絶している間に、お二人の罰ゲームは、どのような終結を迎えたんですか?! 「四位、続きを」 三位にそうせっつかれて、僕は渋々次のゲームを始めることにしました。 うう……雨花様がなんとおっしゃったのか、あとで八位に教えてもらおう。 次のゲームは、ゲーム大会最後の人間黒ひげゲームです。飛び出すのが、ひげのはえた人形ではなく人間という、大掛かりなものです。 予算が掛かり過ぎると、梓の丸の金庫番である三位に文句を言われながらも、どうしても必要だからと作ってもらったんですが……今思うに、雨花様の誕生日を、ただ何かビックリするようなもので盛り上げたかったってだけで、どうしても必要ってわけでもなかったんですけどね。 黒ひげ役はぼたんで決まっていました。 いいのかなぁ?と、未だに心配なんですけど……誰を飛ばしたらいいでしょうかと一位様に相談した際、一位様が『ぼたんですね』と、間髪入れずおっしゃったので、ぼたんにお願いしたんです。 しっかしぼたん、大丈夫かなぁ? 一位様は『むしろ、ぼたん以外は危険です』とおっしゃってたんですが……。 まぁ小姓の二人は、雨花様をお側でお守りするというのが本来の役目らしいので、他の中学生より小粒なあの二人も、実際は強いのかもしれません。 まぁ未だかつて、そんな二人の姿を見た事はないですけど。 大きな黒い樽に、大きな剣を突き刺して、ぼたんを飛ばしたペアが負けというゲームです。 大掛かりなゲームで、さぞ盛り上がるだろうと思っていたのですが、ハラハラドキドキする間もなく、一番最初に剣を突き刺したあげはが、あっさりぼたんを飛ばしてしまいました。 「うわぁ!ぼたん、すごい飛んだー!」 まだまだ体の軽そうなぼたんは、天井スレスレまで飛んでいきました。 無駄に天井の高いホールで良かった……。 当初の予定通り、あげはぼたんペアは、小さいので罰ゲームはなしだとみんなに伝えますと、若様が『元服を過ぎれば大人とみなければならぬ』とおっしゃいました。 う……若様のおっしゃることに、逆らうことは出来ません。 若様を止めてくださると思った雨花様は『大丈夫大丈夫。罰ゲームっぽくないから』と、にっこりなさっています。 いや、雨花様にとっては罰ゲームではなかったかもしれませんが、僕たちからしたら、どれもこれも完全なる罰ゲームですって! 駄目だ!雨花様以外に若様の決定を覆せる者は、ここには一人もおりません。 ……ごめん、あげは。 僕は、申し訳ない気持ちで、罰ゲーム箱をあげはに差し出しました。箱の中身を知っているあげはの手は、心なしか震えているようでした。 「これに決めましたっ!」 あげはが気合いを入れて引いた紙には『ポッチー』と書いてありました。 「……」 ポッチーゲームは、今まで奇跡的に二度しか出ていません。うん。確実にポッチーが出るだろうって思ってた。ごめん、あげは。 もしかしなくても、あげはにとってこれが初チュウになるかも、だよね? うっ……僕が代わってあげたいけど……僕が代わったら、僕が八位とポッチーゲーム……? 「……」 ごめん!あげは!頑張って! 心の中であげはに土下座をしていると、一位様が『あげはとぼたんにその罰ゲームは早過ぎます。二人を預かる身として、私がその罰を受けましょう。良いですか?十位』と、おっしゃいました。 一位様あああっ! 一位様がそうおっしゃると、すぐにたくさんの一位様ファンから、盛大なブーイングがあがりました。一位様が十位さんとキスするかもしれないことが、我慢ならないようです。 どうしよう……と思っておりますと、若様がさっと手を挙げて、ブーイングを制しました。 「家臣の罰は、余が受ける」 そうおっしゃって、あげはからポッチーを受け取った若様は、雨花様の腕を掴んで、ポッチーを口に咥えました。 「え?ちょっ……ちょおおおっ!」 結局、若様と雨花様がポッチーゲームをしてくださいました! カッコイイですうっ!若様っ! ゲーム大会は滞りなく終了し、夜の8時近くに若様が『みな、ついて参れ』とおっしゃって、雨花様の手を引かれました。 司会の僕にも知らされていない若様の行動に、みんなで首を傾げながら、若様と雨花様の後ろをぞろぞろついて参りますと、屋敷の最上階に着きました。 何があるんだろう?そう思っておりますと、すぐ近くから『ヒューッ!』という、何かが高速で登っていくような音が聞こえました。 「見よ」 僕のすぐ前にいらした若様が、手を繋いでいらっしゃる雨花様にそうおっしゃって、外を指差しました。 その瞬間、目の前に赤い大輪の花火が開きました。 「うわあっ……」 赤く開いた花火は紫に色を変え、腹に響くほどの大きな爆発音をさせて、散っていきました。 「そなた、花火も喜んでおったであろう?」 「え?皇が上げてくれたの?この花火」 「ああ。だが、あれ一発で終わりではない」 それから、どれだけの花火が上がったでしょう?もう立派な花火大会ですよ!うわあ……。 最後の花火が打ち上がる前、若様は『次が最後であろう。よう見ておけ』と、雨花様の髪をなでました。 「うん!」 最後の一発と言えば、大きな花火でしょうか?そう思っておりますと、何発か一斉に打ち上げられた花火は、白く光って大きく開き、青い光を放ちながら垂れ落ちていきました。 青い花火?!珍しい! 「なんか……雨、みたいだ」 青い光が散っていくのを見ながら、雨花様がそうおっしゃいました。 確かに、夜空をスクリーンにして、雨が降るアニメでも観ているようです。 「あれは、”雨花”という名の花火だ。余が作らせた」 作らせた?花火を?雨花様のため、ですよね?うわああああ。若様あっ! 「えっ……」 雨花様は驚いた顔で若様を見上げたまま、固まっていらっしゃいました。 「よう生まれて参った。……感謝致す、雨花」 若様は、サラリと雨花様の髪を撫でて耳にかけると、ふっとキスなさいました。 「……バカ。ありがとう」 雨花様は小さい声でそうおっしゃると、そのまま顔を隠してしまわれましたので、その表情は見せていただけませんでしたが……。 もう僕……もう、そんなお二人を見て、何か、泣きそうです!お二人には罰ゲームとかいらなかったですね、ううっ、感動! 「四位さん、四位さん」 僕が感動に打ち震えていると、隣であげはが僕の袖を引きました。 ふとあげはを見ると、あげはも今にも泣きそうな顔をしていました。 「あげは?どうしたの?」 「ボク……ようやくお二人のチュウ、見れましたあっ!」 「おおっ!」 確かに今のキスシーンは、全年齢対象です!もー、僕も泣きたくなるくらい、すっごく感動的で、すっごく綺麗でした! 一位様をちらりと見ますと、目が合って、にっこりしてくださいました。 うっわ!もー、何がすごいって、一位様がとにかく本当にすごいですっ!一位様ってなんかの能力者なんですか? こうして、雨花様の生誕祭のやり直しは、感動のうちに終えました。 若様は明日から学校だというのに、そのまま雨花様と和室に入ってしまわれまして……早朝、本丸に戻って行かれました。 はあー……今年の誕生会も、本当に素敵でした。 去年の誕生会よりも、お二人の距離が近いのを感じましたし。はあー……胸がホクホクします。 来年の誕生会は、もっとお二人の距離が近いといいのに……。 すでに来年の雨花様の誕生日を待ち遠しく思いながら、僕は雨花様のお支度をしに、足取りも軽く、和室に向かったのでした。 はあー……幸せ! Fin.

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