28 / 42
卒業旅行が決まるまで
久しぶりに登校した学校は、そっちこっち卒業を祝う飾りつけがされていた。
まだ進路が決定していない奴もいるだろうけど、嫌でもあと一週間後には、この神猛学院の卒業式が行われる。
今日から一週間、卒業式の練習と三年生を送る会……三送会なんぞをこなせば、俺たちはしばし自由の身だ。
「かにちゃん!久しぶり!」
昇降口で、ばっつんがこっちに手を振っている。
「お!はよ」
「かにちゃん、大学の入学式、何着てく?」
「スーツじゃねーの?」
「やっぱりそっか」
ついこの前、ばっつんも俺も、東都大に合格した。
学部が違うから、そうそう会うことはなくなるかもしれないけど、同じキャンパスに通うわけだから、どこかで会う確率は、神猛の大学部に通う田頭やサクラなんかより、断然高いだろう。
「それより、卒業式のほうが悩むわ、俺は。ばっつん、何着てくんの?」
「ん……なんだろう?オレが決めることじゃないから」
「は?」
「あ、いや!……まだ決めてない!かにちゃんはどんな感じ?去年、先輩たち派手だったよね」
「そうなんだよ。アレ見ちゃってるから、まじ迷うわ」
そんなことを話しながら教室に向かうと『待ってましたぁ!』と、教室の前で、サクラが両手をいっぱいに広げていた。
「サクラ、おはよ」
「久しぶり」
「そんな挨拶どうでもいいから、生徒会室にゴー!」
「はぁ?」
俺とばっつんは、サクラに手を引っ張られて、教室に入ることなく生徒会室に連れていかれた。
「卒業式の練習、どうすんだよ」
「今さら何をどうサボったところで、東都の入学が取り消されるようなことはないから安心しなよ、かにちゃん」
「いや、練習出ねーと、式当日の流れもわかんねーだろーっつうの」
「大丈夫大丈夫。練習日はまだ何日もあるんだから。今日くらい出なくたって、問題ナッシン」
サクラがそう言って、お茶とお菓子を持ってきた。
「お前、もうてんで昔に生徒会引退してるっつうのに、普通に使ってんの?生徒会室」
「え?むしろ何で使っちゃいけないの?」
「……後輩に嫌がられない程度にな」
そんな話をしている横でばっつんが『これ美味しいね』なんて、すでにお菓子を食べていた。
……ばっつんは、相変わらずだなぁ。
「で?何なんだよ?……っつか、田頭は?」
「公康は生徒代表挨拶とかあるし、卒業式で何だかんだ幾つも表彰されるっていうから、いないとみんなの練習に支障をきたしそうじゃん?だから置いてきた」
さすが田頭。何の表彰も受けない俺らは、いてもいなくても関係ないっていうね。
「で?何の用事?」
ばっつんがお菓子を飲み込んで、そう聞いた。
「卒業旅行、行くじゃん?どこにしようかなって」
「は?」
卒業旅行、行くじゃん……って、行くのはもう決定事項なのか?俺、今初めて聞きましたけど?そのプラン。
「へぇ、卒業旅行行くの?田頭と?」
安心したわぁ。どうやらばっつんも初耳だったらしい。
「僕と公康と、ばっつんとがいくんで……だよ」
「はい!俺、メンバーに入ってないぃ!んじゃ、俺は今から体育館に急ぐ!」
「冗談だってぇ。かにちゃんは外せないってぇ」
サクラはそう言いながら、奥のほうから何やらたくさんの本?を抱えてきた。
「生徒会の四人で行こうかなぁなんて思ってたんだけど、それだと僕と公康だけがラブラブで、二人がかわいそうなことになっちゃうじゃん?だから、修学旅行組で一緒にどうかなって」
修学旅行組って……田頭、サクラ、ばっつん、がいくん……と、俺とふっきー?
田頭とサクラは付き合っている。ハッキリはしていないけど、ばっつんとがいくんも多分……付き合ってる。残るは、俺とふっきーの二人……。
「ちょっと待て。俺とふっきー、くっつけようとかしないよね?お前ら」
サクラは爆笑して『それいいね』と、膝を叩いた。
「いいわけあるか!そんなことなら、俺はぜってー行かねーからな!」
「ないない、ないって。ふっきーにだって選ぶ権利があるんだよ?いくらなんでもかにちゃんとなんてさぁ……ねぇ?」
「俺にも、選ばせろや!」
俺には、ちせみという心の嫁がいるんだから!
「言っておくけど、僕はカップリングにはうるさいんだよ!誰でもいいからカップリングさせたがるみたいな無節操じゃないから。かにちゃんもふっきーも、何かの拍子にちんちん擦り合わせることになったとしても、お互いピクリとも勃たない異性愛者でしょ?」
ちんちん擦り合わせることになるような何かの拍子って、どんな何かだよ?!
俺は、完全体のちせみクラスタだ!ふっきーどころか、ちせみ以外にはピクリとも反応しない!……はず!
「二人がくっつきたいって言っても、邪魔するから安心してよ。だから六人で一緒に旅行に行こうよ」
くっつきたいって言ったなら、応援してやって。
……いやいや!ぜってー言わねーけどな!
「で、ニュース見た?公康の周り、ここんとこ騒がしいから、海外は無理そうなんだよね」
そうそう、それそれ!
何代か前の総理大臣だった田頭のひいおじいさんが、ちょっと前に天寿を全うして葬式があったんだ。その葬式に出席してた田頭三兄弟の画像が、今、絶賛バズり中だ。
田頭は三男だけど、多分……政界関係を全て継ぐんだと思う。
田頭んちのひいじーちゃんは、もともと大きな庄屋さんで、何かの商売で大成功した後、金融業界に参入して、金融業界のドンと呼ばれるまでにのし上がった人だ。
一等地にビルを何軒も持っていて、田頭なんか働かなくたって、一生家賃収入だけで遊んで暮らしていけるらしい。そんな潤沢な金やら人脈やらで、田頭のひいじーちゃんは政界に進出したと聞いている。
ひいじーちゃんがやってた金融系のいくつかの会社は今、田頭の叔父さんが継いでいて、叔父さんのあとは、田頭三兄弟の長男、幸喜 さんが継ぐ予定らしい。
順当にいくと、政界関係は次男の充宗 さんに……って話になるんだろうけど、充宗さんは政治家になる気はないらしい。
田頭三兄弟は、母親違いじゃねーのか?ってくらい見た目は違うけど、三人三様で見栄えがいいんだわ、これが。
その中でも、一番身長が高くて、声がデカくて、肝っ玉の据わっているだろう三男の田頭が、一番華やかな部分を引き継ぐことになったんだろうよ、多分。
今、田頭のお父さんは、官房長官の地位にある。おじいさんもひいおじいさんも総理経験者だ。このままいけば、田頭のお父さんも総理大臣確実だろう。
そんな政界のサラブレッドである田頭が、急に世間に名前を知られることになったのは、今から大々的に顔を売って、人気を上げておこうって作戦なんじゃねーのかなって、俺は思ってる。
田頭三兄弟に人気が出れば、少なからず地元に金も入るだろうし?いずれ政界に入るなら、地盤固めは早くから始めたほうが有利だ。
誰の戦略だか知らねーけど、身内の葬式まで名前上げのためにうまいこと使うよなぁ。田頭三兄弟は、今や間違いなく"時の人"だ。
どこに行くにも取材人が殺到してる。
まだ高校生の田頭は、それでも自粛されてるほうかもしれない。それがかえって、知りたい欲にかられるのか……一番表に出てこない田頭は、フリーの記者だの個人サイトの運営やってますだの、そんなところからも行動チェックをされているらしい。個人的に活動してる奴らって、過激なのもいるからなぁ。
この前、面白半分で”田頭公康”で検索かけたら、田頭の全裸写真が出てきて、まじウケた。あ、もちろん合成だったけど。ま、一応友達として、そんなけしからんサイトはぶっ潰しておいたけどな。
「逆に、海外のほうがおかしな奴らがついてこないんじゃねーの?」
「僕もそう思ったけど、海外行っちゃうと警備が手薄になるんだって。卒業旅行に行くなら日本にしてくれって、公康が。ってことで、ここ!」
サクラは、地図をバンっと広げた。
「うちの別荘に行かない?」
サクラが指さしたそこは、太平洋側の海の上で……。
「海の中?」
「よく見て!」
地図を指すサクラの爪先をよーく見ると、地図上に小さい黒い点が見える。
「印刷の汚れ?」
「島だよ、島!うちの会社が所有してる小さい島」
「ちっさ!」
「他に行きたいとこある?……ないね?じゃ、決まり!」
「えええ?!」
「ってことで……本題ね」
「本題、これから?」
「そう。もういい加減、生徒会室を出ないといけないから、個人的な荷物、持って帰ってくれる?」
「いやいや、俺らもう、いい加減前に生徒会室に個人的な荷物なんか置いてないし」
「え?そうなの?あ、でも、あれは?データは?生徒会用のデータベースに、何か無駄なもん入れてない?」
無駄なデータ、こんなとこに入れてんの、サクラくらいだろ?
ばっつんも俺も、んなもんないと話すと、サクラは『じゃあ、全部消していっか』と、言ったあと、『あ!』と、何かを思い立ったように、スッと立ち上がった。
「ばっつん!がいくんのこと呼んできて!」
サクラはそう言うと『すっごい大事な用事だから!』と、付け加えた。
ばっつんは、『え、でも卒業式の練習始まってるよね』と、言ったが早いか、サクラが『生徒会の用事で抜けさせるって言えば全然イケるから』と、早く行けというように顎を動かした。
ばっつんは『えええ』とか言いながら、それでも渋々生徒会室を出て行った。
「がいくん呼ぶとか、何?」
「この先の生徒会の存続に関わるかもしれない話」
「はぁ?」
「かにちゃんは、あっちの部屋でプロジェクターの準備して」
「は?」
「い、い、か、ら、は、や、く!」
俺はわけもわからないまま、隣の接待ルームで、プロジェクターの準備を始めた。
ばっつんが『すごい恥ずかしかったんだけど!』と、ブースカ言いながらがいくんを連れて戻って来ると、サクラはばっつんの文句なんぞ完全無視で、がいくんをプロジェクターのスクリーンが見やすいソファに座らせた。
「何?プロジェクターとか出しちゃって」
ばっつんがそう聞くとサクラは、『生徒会のサーバに保存してある僕たちの代の生徒会データを、全部綺麗に消去してから後輩に引き継ぐって話をしてたら思い出したんだよ。タニマチへのプレゼントとして、がいくんにあげるって言ったばっつんの画像コレクションが、ここのサーバに保存してあるってこと!』と、人差し指を立てた。
「ん?」
何のこと?
サクラに『謝恩会で、がいくんにパスワードあげたじゃん!』と、言われて思い出した。
がいくんは、俺たちの代の生徒会に、一番貢いでくれたタニマチだ。しかも歴代最高額の……。そんながいくんにお礼と称して、サクラがばっつんの映像コレクションを閲覧出来るっていうパスワードをあげていたっけ。それのことか!
「……それが?」
「がいくん、ばっつんの画像コレクション、全部ダウンロードした?もうここに保存したデータは消しちゃうから、ダウンロードするなら今しかないよ?ま、僕も個人的に保存してはあるけど、ここに保存してあるようには綺麗に整頓されてないから、もし全部ダウンロードしてないなら今のうちに……と思って」
サクラがそう言いながら、プロジェクターを操作し始めると、ばっつんが『そんな用事で、あんな静まり返ってる卒業式練習から、皇を連れ出して来いとか言ったわけ?!練習終わってからで良かったじゃん!』と、キャンキャン文句を言い出した。
……確かにな。俺もそれはそう思う。そこはサクラがおかしいけど、サクラはそういうやつだから。
サクラは全く知らん顔で『善は急げだよ』とか言っている。
……これは果たして善なのか?
当のがいくんは『全てダウンロードした、と思うが……』と、頭をひねっている。
「あれはさ、僕たちの代に、素晴らしい生徒会活動をさせてくれたタニマチであるがいくんへのプレゼントなわけ。残さずもらってもらいたいじゃん?ってことで、とりあえず漏れがないか確認して」
サクラが『はじまりはじまりぃ』と言うと、部屋は薄暗くなって、プロジェクターがスクリーンに画像を映し始めた。
ばっつんが『別に見落としてるものがあったって全然いいじゃん!』と文句を言うと、サクラが『しーっ!』と、ばっつんの目の前で人差し指を立てて『静かにさせて』と、がいくんに向けて、ばっつんをトンっと押した。
ばっつんがその拍子で、がいくんの膝の上に乗っかると、がいくんは、膝に乗ったばっつんのお腹を、後ろからギュッと拘束した。
『ぎゃああ』とか言うばっつんに、サクラが『これ以上騒げば、ばっつんも知らない、僕が修学旅行で撮ったマル秘画像もここで披露することになるけどいいの?』と、凄んだ。
ばっつんは、そこで急に静かになった。
ばっつん……修学旅行で、ここで上映出来ないようなマル秘画像的なことをした覚えがあるんだな?
サクラには絶対、弱みは見せちゃ駄目なんだって。こんなどうでもいい時に、脅されるネタにされるんだから。
こうして、静まり返った生徒会接待室で、ばっつん画像の上映会が始まった。
ばっつんの普通の写真が、延々と映し出されていく。ばっつん一人で写っていたり、がいくんと一緒に写っていたり。明らかに合成写真だろ?ってものもあったけど、ばっつんファンには垂涎ものの画像コレクションだろう。
少しの間があったあと、今度は動画が始まった。
サクラが『動画も見た?』と、がいくんに聞くと『ああ』と、返事をしながらも、映されたばっつんに釘付けという感じで……。
このがいくんがねぇ。
一年の時は、完全な成績順じゃなかったから別クラスだったけど、がいくんはとにかく目立ってたし、存在は知ってた。しかも鎧鏡家って言ったら、謎の多い旧家ってイメージで……。でも鎧鏡家を調べてみたところで、どんな特徴のある家なのか、ネット上で全く名前が上がってこない。
会社の取締役とかで、鎧鏡王羽……何て読むのかわからなかった……って名前はいくつか見たけど、あれが、がいくんのお父さん……だと思うんだよな、多分。
これだけ綺麗に情報を隠せるってのは、相当な金と権力を持っている証だ。俺ら一般人からしたら、その存在すら知ることが出来ないって意味では、もはやがいくんの家族は天界人だよ、天界人。
そんなおうちのご子息様と付き合ってるだろうばっつんも、一体何者なんだか……。
ばっつんちについても、ちょろっと調べたことがあるけど、俺がわかったのは、すごく古くからある紡績会社の社長の息子……ってくらいだった。確かに会社の業績は好調で、色々と手広くやってるみたいだけど……。
ばっつんも一般的には、歴史のある根っからの金持ちの息子……なんだと思うけど、だとしても、相手は天界人のがいくんだぞ?
このばっつんのことだから、もしかすると、がいくんちのこと、知らないのかも……。
っていうか、俺もがいくんちのこと、ほとんどわかってねーけどな。
歴史のある家に、後継ぎ問題は付きものだ。がいくんとばっつん……二人が付き合ってて、おうち的にはいいのかね?それ言ったら、田頭とサクラも同じだろうけど。
いつか別れる日が来るのがわかっていての付き合いなのか……。ま、こいつらなら、必要とあれば、戸籍の性別変えるくらいのことはやりそうだけどな。何なら、田頭あたりが本格的に法律変えるかもしんねーし。
「あ、これは……」
動画がどんどん流れていく中で、がいくんが急にそう声を上げた。
がいくんの膝の上で大人しくしているばっつんは、その声に驚いたようにがいくんのほうに振り向いた。
「え?これ、まだ見てない?うそ!僕のばっつん動画コレクションの中で最高傑作なのに!」
サクラはそう言うと、動画を一旦止めて、『結構長編だから心してみてね』と、動画を再生した。
スクリーンに『ばっつん!ドッキリ!大作戦!』と、ドーン!と大きな文字が飛び出してきた。
なんだ、この昭和臭!
「なにこれ?!」
ばっつんも知らなかったらしい。
そのあと『この動画は、神猛学院高等部三年所属、普段ツンとして見える柴牧青葉……通称ばっつんの、可愛い驚き顔を撮影しようと奮闘した、藤咲恵桜 の血と汗と涙と努力と根性の記録である』という字幕が、スターウォーズのオープニングに流れる説明文みたいな感じで流れてきた。……くだらねぇ。
ブハッと吹き出すと『しぃ!』と、サクラに注意された。
そのオープニングムービーが終わると、場面が変わった。
サクラがデカデカと映し出されて『これからばっつんを驚かせます!普段ツンとしてるばっつんの驚き顔、見たいよね?』と言って、走り去っていった。
……ばっつん動画に、今のサクラ、必要なくね?
切り替わった画面には、またサクラが映って『これから、僕が担当している生物部の力を借りて、ばっつんをびっくりさせちゃうよ!』と言って、バケツを取り出した。
カメラがバケツの中身を映すと、バケツの中はミミズでいっぱいで……。
俺は思わず『ひっ!』と、声を上げた。
これは、おいおい!モザイク処理しておけや!
しっかし、ばっつんとがいくんは、特に何のリアクションもなく、抱っこしたりされたりのまんま、大人しく画面を見ている。
……あのぉ、ばっつん?そろそろそっから降りてもいいんじゃね?
画面の中のサクラは『生物部から、予算についての相談っていう名目で呼び出されたばっつんが、今からこの生物室にやってくる予定なんだけど!このミミズたちが廊下をウニョウニョしてたら……どうなるだろうね~?』と、ニヤリと笑って、躊躇なくバケツをひっくり返した。
うわぁぁぁ……ないわぁ。ええ?こんなことされてたの?ばっつん!
鬼だな、サクラ。
いろんな場所に取り付けただろう定点カメラの映像に切りかわると、ばっつんらしき後ろ姿が生物室に近づいてきた。
ばっつんに気が付くと、生物部の奴が『あ、すみません!ミミズを逃がしてしまって!』と、ばっつんに話し掛けた。
ばっつんが、ふっと下を見たのがわかる。
大声を上げると思ったばっつんは『あ、そうなんだ?手伝おうか?』と、しゃがみ込んで、ミミズを一匹掴んだ。
どっ……ぅええっ?!
『どこに入れたらいいかな?』と、聞いたばっつんに、生物部の奴がバケツを渡すと、ばっつんはものすごい勢いでミミズを掴んで、バケツに入れていった。
俺なんぞは、見ているだけでもうしばらくスパゲティは食べられないと思っているのに、ばっつんは躊躇なくミミズを手づかみしてて……気持ち悪いっていうか、もう、胃液が上がってきそう……。
ばっつんがミミズを全部取り終わると、画面にサクラが出てきて『大失敗!』の文字がドーンと映し出された。
「これ、ドッキリだったの?」
がいくんの膝の上で、ばっつんが驚いている。
サクラ……ほら、ばっつん今驚いてるぞ?
ある意味、成功じゃねーか?
「っていうか、ミミズ素手で掴むとかさ……」
サクラがそう言って嫌な顔をすると、がいくんは薄暗いのをいいことに、膝の上のばっつんの後頭部に……キス……した?
いや!キスしたかどうかの前に、膝抱っこの時点で、すでにおかしかった!この二人!
「え?ミミズって、手以外の何で掴むの?」
……うん、サクラが言ってるのは、そういうことじゃないぞ?ばっつん。
そのあと、映像は違うサクラに切り替わった。どうやら、さっきとは別の日らしい。
『この前は失敗しちゃったけど、今日はばっつんの最愛の後輩、てんてんに協力してもらいまーす!』と、サクラが言うと、こちらに手を振っているてんてんがスクリーンに映し出された。
『この前、これをプレゼントって言って、ばっつんにあげてまーす!』……サクラがそう言ってこちらに見せてきたのは、民族衣装みたいな服を着たおじさんだかおばさんだかよくわからない、ちょっと気味の悪い人形?みたいな物だ。
っていうか、これ!そうだ!ばっつんの会計室に飾ってあった!最初に目に入った時は趣味悪!って思ったんだ。だけど、ばっつんが持っているってことを加味すると、一周回ってセンスいいのか?と思わせて来るっていう不思議!ばっつんは、なんていうか、持ち物一つとっても全てにおいてオシャレなんだよなぁ。
『ばっつん、人形だと思って飾ってるみたいなんだけど、実はこれ、人形じゃなくてクラッカーでーす!人形だと思ってるコレが、パンッ!なんて破裂音をさせたら、これはさすがにばっつん、驚くよね?僕が種明かしに行くと怒られる可能性が高いから、可愛いてんてんに行ってもらうことにしました!頑張って!てんてん!』と、サクラに言われたてんてんは、ガッツポーズを決めて会計室に入っていった。
定点カメラの映像に切り替わると、会計室に入ったてんてんが『あ!これ知ってます!可愛いですよね、いいなぁ』と、くだんの人形を指さしながら、ばっつんに話し掛けた。
「かわいい?え?そう?ちょっと不気味じゃない?てんてん、こんなの欲しいの?」
ばっつんも気持ち悪いと思ってたのか。ウケる。
「かわいいじゃないですかぁ」
てんてんは、そう言って人形を手に取った。
「え?ホント?あ、じゃあ、サクラにどこで買ったか聞いて、同じのてんてんにプレゼントするよ」
「え?これをくれるんじゃないんですか?気味悪いんですよね?」
「あー、それでもほら、サクラがオレにくれたやつだから。てんてんには新しいのプレゼントするよ」
ばっつんはそう言って笑うと『オレとお揃いになっちゃっていいの?』なんて笑って『ちょっとサクラに聞いてくる』と、席を立った。
てんてんは『いや!いいです!いいです!自分で聞いて買いますから!』と、ばっつんを椅子に座らせて、自分が会計室を出て行った。
「ええええ?あれもドッキリだったの?オレ未だに家に飾ってあるのに!」
ばっつんはそう言うと『うちに帰ったら、あいつにクラッカーの仕事をさせてやる!』と、お怒りで……。
……クラッカーの仕事をさせてやるって、何だよ、ばっつん。
映像は、しょぼんとするてんてんと、仁王立ちのサクラの二人に切り替わった。
「てんてーん!何スゴスゴ帰ってきてんの!」
「だって、あんな薄気味悪いのに、サクラ先輩からもらった物だからって、大事にしてるんですよ?そんなばっつん先輩を驚かすなんて、僕には出来ません!」
てんてんはそこでスクリーンから退場した。
サクラのドアップが映し出されて『大失敗!』の文字が…。
そのあと画面には米印が出て『その後、ばっつんから、あの薄気味悪い人形をどこで買ったか聞かれた僕は、快くもう一体、ばっつんにプレゼントしたのであった』の字幕が出た。
それを見て、俺はまた吹き出した。
映像は、また別の日のサクラを映し出した。
『ドッキリ大作戦が失敗続きなので、今度こそ成功させたいと思います』とか言っている。サクラは胸の前にボードを掲げた。
『おばけ大作戦』と書かれている。『元祖ドッキリと言えばおばけでしょ!おばけ、カモン!』とサクラが言うと、奥のほうから学生の幽霊というようなメイクをされた男子生徒?が、登場した。
『学祭の生徒会のお手伝いをちょろっとしていてくれた、一年生の遠藤くんです!ばっつんは遠藤くんと一緒に仕事をしてなかったはずなので、生きてる人間だとは思うまい!今度こそ驚かせてやるからなぁ!』と、サクラは張り切った様子で、こちらに向けて指をさした。
スクリーンには、会計室で仕事をしているばっつんが映し出された。
差し入れを持ってきた風に、会計室に入ってきたサクラが『最近、生徒会室の廊下の奥に、幽霊が出るって噂があるの、ばっつん知ってる?』と、話しかけた。
「え?そうなの?」
「ばっつん、おばけ平気?」
「おばけ?……うーん……死んだ人が出てきてるって意味なら、まぁ、そこまで怖がることはないかなって、思うけど」
「じゃあ、ちょっと見てきてくれない?」
ばっつんは『まぁいいけど。雰囲気的にまだ明るいんじゃない?』と言いながら、会計室を出て行った。
ここまでの映像を見て、ばっつんは『あれもオレへのドッキリだったのか!』と、またプンプン怒り出した。どうやらこれから先の映像がいつ行われたものなのか、ばっつんにはわかったらしい。
『オレ、驚いてないし!』と、ネタバレし出したけど、ばっつんを抱っこしているがいくんに『続きが見たい』と言われると、ムーっとしながら大人しくなった。
そんなばっつんのネタバレは無視で、映像は流れ続けた。
場面は変わって、生徒会室から出て、奥のいくつかの部屋へ向かう廊下を歩くばっつんの後ろ姿が映し出された。
ばっつんは、普通に廊下をスタスタと歩いていく。もう夕方過ぎていたのかな?外は暗くなり始めたところらしく、電気をつけていない廊下は結構な暗さだ。
すると、廊下の奥の突き当りが、急にボアッと明るくなって、人の姿が浮かびあがった。
人の姿が浮かび上がってすぐ、ばっつんは『あれ?遠藤くん?だよね?』と、"幽霊"に話し掛けた。
廊下の突き当りで『え?』とか言って、おばけ役の遠藤くんのほうが驚いちゃってるっていうね。
「なんなんだよ、このシュール動画は!」
俺が爆笑しながらチャチャを入れると『黙れ』と、サクラに口をつままれた。
映像の中ではばっつんが『そんな恰好してどうしたの?いじめ、とかじゃないよね?』と、マジで心配している。
衣織がデカくなる前、いじめみたいなことをされていたのは、俺も聞いて知ってる。だからばっつん、そんな心配をしたんだろう。
「あ、あの、先輩、僕のこと、ご存知なんですか?」
「一年の遠藤くん、だよね?生徒会のお手伝いしてくれてたでしょう?その節はありがとう」
知ってるじゃん!ばっつん、遠藤くんのこと、知ってるじゃん!
依然として、ばっつんを抱っこしているがいくんが『覚えていたのか』と聞くと『顔と名前を覚えるの、なんか癖みたいになってて。ほら、礼状とかで、ね?』と、ばっつんが答えた。
れいじょう?
その返事を聞いたがいくんが『ああ』と、納得したみたいな返事をしたんだけど……俺には、ばっつんが何を言ってんだか全くわからない。
……絶対付き合ってるって、この二人。
スクリーンには、なんでこんな幽霊みたいな恰好をしているのか質問するばっつんと、サクラ先輩が……と、口ごもる遠藤くんが映し出された。サクラが無理言ったんだね?ごめんね、と、謝ったばっつんが、サクラにはよく言っておくから着替えてもう帰っていいよ?と、遠藤くんの肩を叩いて、サクラのもとに帰って行く様子が映し出された。
そのあとスクリーンには『このあと僕は、ばっつんにこってり怒られたのであった。大失敗!』という字幕が流れた。
それから、思い出アルバム風な、ドッキリの映像が流れ始めて、それを背景に立っているサクラが『今回の、ばっつんドッキリ大作戦は、ことごとく失敗に終わりました。が!可愛い驚き顔以上に、ばっつんの魅力あふれる動画が撮れたと思います!ばっつんの半分はやさしさで出来てるの?……さて、史上最高のタニマチである、がいくん!満足していただけましたでしょうか?ご満足いったのなら、どうか卒業したあとも、神猛学院高等部生徒会をどうぞごひいきに!』と、ぺこりと頭を下げて動画が終了した。
「これを見てなかったとか、ないわぁ、がいくん。よかった、今日聞いておいて。見てもらえないうちに消してたとこだよ」
「恩に着る、藤咲」
「恩に着なくていいから、卒業したあとも、この生徒会のこと、ちょっと応援してやってくれると助かります!」
サクラはぺこりと頭を下げた。
サクラ……。
ほんっっっとに、大部分おかしな奴なんだけど、サクラに友達が多いのは、こういうところなんだろうなぁ。
「約束する」
がいくんは、大きく頷いてくれた。
生徒会OBとしては、感動的な場面なんだけど、いかんせん、膝の上にばっつんを乗せたままなんだよ、この人ぉ!
「うん、ばっつん?もういい加減降りていいと思うぞ?」
そう声を掛けると、ばっつんは『どはっ!』と、ドッキリ大作戦では見せてくれなかった、すごい驚き顔を見せてくれたっていうね。
……おあとがよろしいようで。
で。
そのあと、卒業式練習から戻ってきた田頭とふっきーも呼び出して、サクラプレゼンツ卒業旅行は強制的に実行されることに決まった。
「えー、俺、行きたくない。行きたくないよな?ふっきー」
「え?僕は行く気満々だけど」
そんなことを言うふっきーに、体をのけぞらせるほど驚いた。
「ええええ?男6人の時点で乗り気じゃねーのに、そのうち4人が出来上がってるとかキッチーでしょ?ここにちせみがいたら、喜んで行くのにさー。サクラ、お前、ハニバニに衣装提供とかしてんだから、呼べねーの?」
「呼べるわけないだろ!」
ようやく膝の上からばっつんをおろしたがいくんが、ばっつんに『ちせみ?』と、質問したのが聞こえたので、俺ががいくんに『honey bunnyってアイドルユニット知ってる?そのメンバーのちせみ……満月知世 って子が、俺の推しなんだ』と説明すると『みつきちせ……』と、がいくんがちょっと何かを思い出すような顔をした。
「お!聞いたことある?」
この俗世と切り離されているようながいくんが、アイドルの名前を知っているイメージは皆無だ。それなのに!ちせみの名前を知っているとしたら、俺の推しはものすごい知名度が上がってるってことなんじゃねーの?おお!
「珠姫に、そのような名の友人がいたような……」
「へぇ。そんなによくいる名前じゃないのに、同姓同名なんてすごくない?」
「たまきちゃん?」
俺がそう聞くと、ばっつんが『ほら、オレたちが二年の時の学祭に来たじゃん。皇の妹』と、説明してくれた。
「おお!来た来た!モデルみたいな妹さんな?って、モデルはやってないの?妹さん」
そう言うとばっつんが『珠姫ちゃんはそんな感じじゃないよね』と、がいくんを見て笑った。
がいくんの妹って、一コ下、だっけ?だとすると、ちせみと同い年、だよな。ちせみと同い年で同姓同名とか、ものすごい偶然……え?偶然……だよな?
まさか、ご本人登場?いやいやいやいや。
もっと詳しく話を聞こうと思ったら、隣でばっつんが『珠姫ちゃんの友達の名前なんて、よく覚えてたじゃん』と、がいくんの腕をつついている。がいくんは『何やらその友人には面倒事があるようで、本当に困ったら助けてもらっていいかと相談された。その友人の名が、確かそのような響きだった気が……』なんて言っている。
「ちなみに……妹さんの学校って神猛の女子部?」
「いや……確か、桜馨旃壇(おうかせんだん)女子大の付属だったか……」
妹さんが通う学校をうろ覚えなの?がいくん!
そう思っているとばっつんが『兄弟の学校の名前とか、わからないよね。オレも姉上がどこに通ってたのか知らないし』と、慌てたように付け加えた。
……まぁ、そんなもんか?
「がいくんがここだから、妹さんもうちの女子部かと思ってた」
サクラがそう言ったので、俺も大きく頷いた。
「ま、おうせんのほうが、女子校じゃ有名か」
桜馨旃壇女子大学……通称おうせんは、人気の高い女子校の中でも、頭がいい系の歴史の古い学校だ。
推しをこんな風に言うのもなんだけど、ちせみがあのおうせんの生徒なわけがない……と、思う。
ちせみがどこの学校に通っているのか、それはネット社会の申し子とか言われているこの俺が、くまなく探しても見つからなかったトップシークレットだ。
金だの権力だのを使えば、ちせみが通っている学校はすぐにわかるだろうけど、どうせ金と権力を使うなら、ちせみが必死に隠している秘密を、一緒に守ることに使うのがクラスタってもんだろ?
うん。おうせんなら、ぜってー本人じゃねーな。
ちせみと同い年で同姓同名とか、ちせみクラスタとしては話のネタに、その子に会っておきたいもんだけどな。
「ってことで、卒業旅行は、6人で決行ね」
俺たちが何か言う前に、サクラは、『そゆことでー』と言って、そそくさと部屋を出て行った。
サクラが部屋を出て行くと『いいのかな?』と、ばっつんが、がいくんとふっきーの顔を見た。
『大丈夫だと思うよ』と、ふっきーがそう返事をすると、がいくんもばっつんに小さく頷いて、頭をポンポンと撫でた。
……自然~!もうそのしぐさが自然に出てきちゃうとか、ぜってー付き合ってるって、この二人。
「ばっつん……聞いたことあったかな、俺」
「え?何を?」
「ばっつんとがいくんは、付き合ってんの?」
とうとう聞いちゃいましたよー!俺!
ばっつんは、バッとがいくんのほうに顔を向けた。
うん、そうかそうか。それがもう答えみたいなもんだよね。
「え、いや……え?」
ばっつんは、あからさまにうろたえながら、がいくんとふっきーをチラチラ見ている。……なぜそこでふっきーまで?
するとふっきーが『二人は付き合ってないよ。だって、すめと付き合ってるの、僕だから』と、感情のない顔でそう言った。
「ぅええええええ?!嘘だろ、ふっきー?!」
「ホント」
「がいくんと付き合ってる?ふっきーが?」
「ソウダヨ」
心なしか、話し方が堅いぞ?ふっきー。
ばっつんにも『ホントに?』と、聞くと『あ、え、あ、う』と、目を泳がせる。
『がいくん、本当?だってついさっきまで、ばっつん、膝にのせてたよね?』と聞くと、がいくんが何か言う前に『オレたちもこれでね!』と、ばっつんが、がいくんとふっきーの腕を引っ張って部屋を出て行ってしまった。
残されたのは、田頭と俺で……。
「ふっきーの話、本当だと思う?」
「さあな。でも、あんまり深入りすると、消されっぞ」
田頭はそう言いながら、サクラが出してくれたお茶菓子を、もっさもさ食っている。
「は?」
田頭は『学祭でうちのクラスの出し物、壊されただろ?』と、急にそんな話をし始めた。
「あ?ああ。A組とB組の根深い摩擦が明るみになったやーつな?」
「あれ、B組の天戸井?のファンが、ふっきーに嫌がらせのためにやったってことになってたべ?」
「ああ。天戸井がわざわざA組まで来て、頭下げたじゃん。あいつ、あんな綺麗な顔してんのに、根性あるよな」
「あれ、どうやら違うんだわ」
「は?」
「学祭の実行委員長として、うちのクラスの出しもん壊した奴のこと、サクラと一緒に探ってたんさ。そしたら、ちょっとやべーことになりそうになって、途中で調べんの断念した」
「は?何、それ?」
「いや……かにちゃんには、まだ生きててほしいから、詳しくは聞いてくれるな。大学受かって暇だからって、ふっきーだのがいくんだののこと、調べんなよって話」
田頭は、サクラがいれたコーヒーを飲んで『君子危うきに近寄らず、だよ、かにちゃん』と、のんびりそんな返事をした。
うちのクラスの学祭の出しもん、壊した奴らのことを調べてて、やべーことになりそうになったって話が、なんで、ふっきーとがいくんを調べんなって話になるわけ?ふっきーへの嫌がらせと、がいくんは関係ないじゃん。がいくんが、そのふっきーの自称彼氏だからか?でもあれ、絶対付き合ってないじゃん。
「それって、押すなよ、押すなよ、的なやつじゃなくて?」
本当はもっと調べろって意味か?
「ちげーわ。本気でやめれ。詮索は身を亡ぼすぞ、かにちゃん。まだ生きていたいだろ?ほれ」
田頭はそう言って、チケットをピロッと俺の目の前に差し出した。
ハニバニのコンサートチケットだ!しかもアリーナ席!
「どした?これ!」
「サクラから。卒業旅行に行ってくれるなら、これやるってさ」
「くっ……サクラめ。どこまでも汚い手を使いおって!……蟹江、卒業旅行、行きます!」
俺は、田頭の手からチケットを受け取った。
「しっかし、俺、いなくたって良くね?四人で行けばいいじゃん」
「俺、今、どこで撮られるかわかんねーじゃん?どうせ撮られるなら、クラリバ社の社長の息子と一緒に卒業旅行……なんてほうがイメージ上がんだろ?」
「はぁ?」
「かにちゃんちが一番、一般的知名度高いからさ。クラリバの息子と俺が仲良し……とか、世間的に盛り上がるネタじゃねーか」
「なんじゃそら!完全に田頭のイメージアップ大作戦のダシじゃねーか!バイト代出せ!」
「だから、それあげただろ?」
田頭はチケットを指さした。
「はぁ……ま、いっか。っつか、ふっきーにもなんか賄賂あげたの?」
「いや別に。ふっきーは、がいくんがいれば喜んで行くだろ?付き合ってるって言うんだからさ」
田頭はそこでふっと笑って、またコーヒーを一口飲んだ。
「ぜってー嘘じゃん。あれでがいくんがふっきーと付き合ってたら、ばっつん、相当痛い奴だぞ?」
そういうと『そりゃそうだ』と、大笑いした。
「それでも、ふっきーは自分ががいくんと付き合ってるってことにしておきたい事情があるってことだろ?かにちゃんも二人の友達なら、そこんとこ汲んでやんなさいよ」
田頭は、俺の肩をポンッと叩いた。
ま、確かに。そういうことだわな。
「田頭ぁ……お前、ホント、なんつうか、アレだな」
「ああ、俺はなんつうか、アレなんだよ」
「俺、お前が選挙出るなら、ホント手伝うわ」
「だったらひとまず、喜んで卒業旅行に同行してくれ」
「ああ。はいはい。田頭家三男、イメージアップ大作戦な?」
ばっつんドッキリ大作戦といい、今日は大作戦記念日かっつうの。
「よし!かにちゃんへのお礼に、ハニバニのコンサートには俺が同行してやるよ。うまくいけば、ちせみちゃんに楽屋とかで会えるかも」
「はぁ?なんで?なんで田頭がそんな技使えんの?」
「馬鹿だなぁ、かにちゃん。俺は今や時の人だぞ?」
そうか!こいつ、こんなんだけど政治一家のサラブレッド、今や時の人、田頭三兄弟の三男様だった!
「でも実際、ちせみちゃんと楽屋なんかで会ってみたら、すげー嫌な奴だったりするかもよ?」
「んなわけあるか!ちせみは天使の権化だぞ!」
田頭は爆笑すると『楽しみにしとけよー』と、生徒会室を出て行った。
ちせみの楽屋訪問が報酬だとすれば、男6人の卒業旅行も、一気に行く価値が出てくるってもんだ。
うおおおお!俺、ちせみに会うために頑張る!待ってろよ!ちせみぃぃ!
fin.
ともだちにシェアしよう!