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リバーシブルは地雷です

こんにちは。初めまして。生徒会副会長、小笠原瑠偉です。 先日行いました、生徒会役員三年生を送る会について、ご報告申し上げます。 先輩方の卒業式まで、あと何日かという日、生徒会の役員だけで、三年生を送る会……いわゆる三送会を行いました。 前生徒会長であるきみやすくんと、前副会長の藤咲先輩は、このまま神猛の大学部に進み、前書記の蟹江先輩と、前会計の柴牧先輩は、東都大学への進学を決めていました。 今日の三送会は生徒会役員だけで……という話だったのですが、これからも絶対に世話になるし、瑠偉には絶対得しかないから!という藤咲先輩のゴリ押しで、先輩方の代の一番のタニマチである鎧鏡先輩が、ご同席なさることになりました。 鎧鏡先輩は大変目立つかたなので、もちろん存在は知っていますが、直接話したことは一度もありません。 少々緊張しながら先輩方を迎え入れ、三送会を始めました。 なんやかんやと出し物をして、先輩たちと思い出話なんかをしているうちに、僕の鎧鏡先輩に対する緊張も、だいぶやわらいでいました。 鎧鏡先輩は、同学年であるきみやすくんや蟹江先輩からも、一目置かれているのがよくわかります。でも柴牧先輩だけは、鎧鏡先輩との距離感がおかしいのが、一目でわかりました。……鼻血。 学祭の大声コンテストで、衣織くんが叫んだ言葉から察するに、柴牧先輩は、鎧鏡先輩とお付き合い……なさっていらっしゃるのだろうと思います。鼻血。 そんなこんなで今日、衣織くんから、三送会を欠席すると連絡が来た時には、深いことは聞かずに了承しておきました。 それはさておき、あのきみやすくんが一目置いているのですから、鎧鏡先輩はそれだけでもすごい人なのがわかります。 きみやすくんは、本当にすごい人ですので。 そのきみやすくんが、藤咲先輩と出会ったことで、全くの別人になったのが、僕にはどうにも許せなくて、僕は藤咲先輩が嫌いです。僕のかっこいいきみやすくんを、返してくださいと言いたい。 きみやすくんは、都内の治安を守ることを目的として活動しているグループ”華麗衆(からす)”の幹部です。かれいしゅう……なんて言われたりもしますが、"からす"です。 華麗衆は、関東近郊の金持ちのボンボンばかりの、バイク好きたちが集団化したものがそもそもの始まりだそうです。 その集団がいつの間にか組織化され、何代か前の総長が、荒れ果てていく都内の状況をどうにかしないといけないと思い立ち、暴走族まがいに好き勝手走っていただけの華麗衆の活動に、自警団のような役割を持たせ、現在の華麗衆になったのだと聞いています。 華麗衆は、もともとがバイク好きの集団だったこともあり、バイクが乗れないお子様は、レギュラーメンバーにはなれません。バイクの免許が取れるまでは、プレクロと呼ばれる華麗衆の下の組織のメンバーとみなされます。 華麗衆は16歳から加入可能で、19歳で卒業することになっています。もともと金持ちの集団なので、それくらいの年齢になると、みんな忙しくなってくるものですから。 ちなみに、きみやすくんの前の生徒会長、鏑木那流(かぶらぎなる)くんは、華麗衆の総長だった人で、そんな関係で自分の次の生徒会長に、きみやすくんを指名しました。 きみやすくんは現在、華麗衆のナンバー3なんですが、本来なら総長を名乗ってもいい人だと、なるくんが言っていました。あ、ちなみに僕となるくんは、幼馴染です。そんななるくんに憧れて、僕はプレクロから華麗衆に加入しています。 加入してすぐ、一つ上のきみやすくんのかっこよさにやられたわけで……。本当にこう、なんていうか、強いし、カリスマ性はあるし、気配り出来るし、身長高いし、優しいし、ちょっと抜けてる発言をするところが親しみやすくて、本当にきみやすくんはかっこいいんです。 ……藤咲先輩さえそばにいなければ、ですけど。 そんなきみやすくんが一目置く存在なので、鎧鏡先輩は本当にすごい人なんだと思います。しかも、貢いでくださった金額が歴代一位のタニマチとか。衣織くんに出納長を見せてもらいましたが、本当に驚くほどの金額が、鎧鏡先輩名義で入金されていました。 その鎧鏡先輩と、どうやらお付き合いしているらしい柴牧先輩は、すごい綺麗な人で、どこか抜けている人……という印象です。忘れ物や落とし物が多く、何もないところでよく転びそうになっていたり。でも、見た目冷たそうに見える美人タイプの柴牧先輩が、そんな風に抜けているのが、たまらなく可愛いのだと、藤咲先輩が力説していました。 藤咲先輩は腹立たしい存在ですが、それについては、激しく同意します。 『一見ツンとして見えるばっつんの、実はドヂッ子という設定!ばっつんの、ツン:デレ、6:4という、ちょいツン多めの黄金比率!ばっつんは、天から受けの才能を授けられた、受けの天才なんだ!』なんて、藤咲先輩が言ってましたけど、それについても激しく同意です。 たまにいいことを言うかもしれない藤咲先輩ですが、僕が先輩に腹を立てているのは、きみやすくんのことだけじゃありません。 僕とキャラがかぶっているのも、許せないんです。 藤咲先輩が腐男子なのは、神猛の中でも有名な話ですが、僕だって負けないくらい腐ってるんですよ! それなのに!腐男子といえば藤咲先輩……なんていうイメージが定着していて、学校内のカップルのおいしいネタは、全部藤咲先輩のところに流れていきます。 そんなこんなで、藤咲先輩のブログ、『恋するフォーチュンプッシー~ある男子高校のホモップル事件簿~』は、今や大人気ブログになっています。 僕だって腐れブログを書いているのに、藤咲先輩があまりに濃いキャラなため、僕は全く腐男子と認知すらされておらず、誰もド腐れネタを僕に流してくれないんです! そんな個人的性癖の恨みもあいまって、僕は藤咲先輩を目の敵にしているわけです。 藤咲先輩は、同じ匂いを嗅ぎつけたのか、僕が腐男子だとすぐわかったようで、同志として僕を無駄にかわいがってきて本当にうざいのですが……。 聞いてもいないのに、学校内のカップルの話をしてきて、『一子相伝だから誰にも言ったら駄目だよ』なんて、言ってきます。一子相伝って……。 藤咲先輩は、『僕のど腐れ遺伝子は瑠偉に引き継ぐ!』とか言って、僕にあのブログを引き継げなんて言ってくるんです。いや!嬉しくなんかないですから!全然!藤咲先輩が積み上げてきたものを、ただでもらうとか、なんかご立腹ですので、ずっと断っているんですが……まぁ、そんなに言うなら、三送会の今日あたり、受け取ってあげてもいいかな……とは思ってるんですけど。 さて、三送会も盛り上がりが絶好調になってきた頃、柴牧先輩の様子が、どうにもおかしいことに気づきました。なんだか……クニャクニャしています。 「ばっつん先輩?大丈夫ですか?」 同じように、柴牧先輩の異変に気付いた書記のてんてんがそう声をかけると、柴牧先輩はてんてんに向かって、『可愛いね、てんてん』と、あまり見たことのないオス味のある顔を見せました。 「えっ?」 頬を触られて顔を赤らめたてんてんが、会長のきいちの腕を掴むと、柴牧先輩は、『そうか、てんてんはきいちがお気に入りか』と、フッと笑ったのですが、それがまた、なんだかものすごいオス味のある顔で……。 柴牧先輩は、もともと整った顔をしているので、かっこいいといえばかっこいい人なんですけど。生徒会役員として、役員服をビシッと着て、壇上に立っている時なんかは、ただのイケメンでしかありませんでしたし。 でもなんていうか、雰囲気がこう……おっとりした感じというか、男性的ではないので、トータルして"美人"という表現になるんでしょうね。 でも今、オス味を帯びた柴牧先輩は、確実に、かっこいい寄りのイケメンです。 いつもの柴牧先輩は確実に受けですが、今のこの柴牧先輩は攻めでもギリいけそうです。 「ばっつん先輩、どうしちゃったんですか?」 てんてんがそう聞くと、『あ!』と、藤咲先輩がチョコレートを一つ持ち上げました。 「チョコレートボンボンだ、これ」 それを見た瞬間、僕と藤咲先輩は、同時に、『お約束展開キタ!』と、お互いに指をさし合いました。 こういうところが、また腹立たしいんですよ。無駄に気が合っちゃうっていうか。 それはおいておいて……。 この、間違ってアルコールを摂取した受けが、酔ってデロデロになったところを、攻めがお持ち帰りしてヤッちゃうっていう、いわゆる”酔った受けをお持ち帰りっクス”は、BL界のお約束展開です。 それ以外にも、”受けが攻めだけ記憶喪失のち思い出しっクス”や、”セックスしないと出られない部屋に閉じ込められっクス”、”借金のかたに売り飛ばされた受けを攻めが金で貰い受けっクス”など、BL界には、いくつかの王道R18展開があります。 今回のこれは間違いなく、間違って酔った受けをお持ち帰りっクス展開です! 「柴牧」 鎧鏡先輩は、柴牧先輩の肩に手を置いて『大丈夫か?』と、聞きました。すると柴牧先輩は、鎧鏡先輩の頬に手を置いて、オス味全開で『綺麗だね、皇』と、指で頬を撫でました。 ほあぁぁぁぁっ?! それを見た藤咲先輩が、『待ったぁ!ちょっ、これまさかのリバ展開?』と、僕に聞いてきました。 いやいや、いくら柴牧先輩がオス味フルチャージしたところで、普段から浮世離れ的オス味を全身から放っているこの鎧鏡先輩を、攻めることなんて出来るわけがないです! これはいわゆる、酔った受けが攻めようとするも返り討ちにあうっクス展開、かと……。 僕が手でバツを作って藤咲先輩に見せると、『だよね』と、うなずいて、安心したように座り直しました。こんな簡単なBL方程式も解けないとは、藤咲先輩もまだまだですね。 しかし柴牧先輩は、その後も鎧鏡先輩の隣に座って、鎧鏡先輩の頭を抱えると、『ホント皇、いいにおいする』とか、『めちゃくちゃかわいい』とか、『Vous etes adorables,vraiment.』とか……え?今の何語ですか?……とにかく鎧鏡先輩を、かわいいかわいい、オレの天使とか言っていて……。 いつもはてんてんのことを、オレの天使なんて呼んでいる柴牧先輩が、今は鎧鏡先輩のことしか目に入っていない様子。 え……ちょっと待ってください!鎧鏡先輩と柴牧先輩って、もともと左が柴牧先輩ってことは、ないですよね? 僕はちょっと心配になって、藤咲先輩に、もともとこの二人、藤咲先輩が思っているがいばつではなく、ばつがい……なのでは?と、ジェスチャーを送ると、藤咲先輩はやはりジェスチャーで『それはない』と、返事をしてきました。 『がいばつ現場、実際見たんですか』と、ジェスチャーで質問すると、『僕の情報網なめんな』と、ジェスチャーで返してきました。 確かに、藤咲先輩の情報網のすごさは、僕も認めています。 でもこの二人のこの雰囲気……もともとがリバ設定だった、ってことはないんでしょうか? 藤咲先輩にそうジェスチャーで伝えると、藤咲先輩は、『リバなど許すかぁ!』と、鎧鏡先輩と柴牧先輩の間に割って入りました。 藤咲先輩は、完全左右固定主義者です。そんなことが、恋するフォーチュンプッシーにも書いてありました。それについては、僕も同じなんですが……。 「なんだよサクラぁ!皇はやらないからなぁ!どうしてもって言うなら、オレの天使を倒してからにしろ!行け!my babe!」 柴牧先輩は、藤咲先輩にはやらないと言った鎧鏡先輩を、藤咲先輩に向かって押し出しました。 もう、柴牧先輩、本当にグダグダじゃないですか。 押された鎧鏡先輩は、藤咲先輩ではなく、柴牧先輩の手首を取って引き寄せると、柴牧先輩の耳に口を近づけて、なにかを囁いたようでした。 柴牧先輩は、鎧鏡先輩を見つめると、『おやすみ』と、にこりと笑って、鎧鏡先輩の腕の中で、本当に寝てしまいました。 鎧鏡先輩は、柴牧先輩を抱きかかえたままソファに座ると、柴牧先輩を膝枕してソファで寝かせました。オス味ーーー!鼻血ーーー! 柴牧先輩は、鎧鏡先輩のおなかのほうに顔を向けて、体を丸めて寝ています。うわぁ、受け受けしい!そんな柴牧先輩の頭を、鎧鏡先輩は優しく撫でて……って!これ、リバ疑惑、完全解除です! 藤咲先輩を見ると、藤咲先輩もそう思っていたらしく、互いに力強く頷き合いました。 あ!別に!藤咲先輩と仲良くするつもりはないですからねっ! 柴牧先輩は、そのままいびきをかき始め……え?あの可憐な柴牧先輩が、いびき?! そして、ものすごいハッキリとした寝言を……主に英語だったようですが、たまに日本語や何語か僕にはわからない言葉で叫んで、そのたびに鎧鏡先輩が頭を撫でると、『すーたぁん』と、呪文のような言葉をつぶやいて、大人しくなりました。 「もう起きねーだろ?ばっつん。これ以上、醜態さらされるこっちもキチーわ。もう持って帰ったら?それ」 蟹江先輩がそう言って柴牧先輩を指さすと、『そうしよう』と、ちょっと優しい顔をした鎧鏡先輩が、重力に逆らうように、ヒョイっと柴牧先輩を抱き上げました。 攻めのお姫様抱っこ、キターーー! 一般人は、こんなこともなげに、男子をお姫様抱っこなんて出来ないですよ!確かに柴牧先輩は、女性モデルのように細いですけど、それでも子供じゃないんですから、ある程度の体重はあるはずです! それを!鎧鏡先輩は!背筋をまっすぐ伸ばして、美しい立ち姿勢を保ったまま、お姫様抱っこですよ! あまりの驚きに藤咲先輩に視線を送ると、藤咲先輩は『がいくんは天から選ばれし攻め!』と、どや顔でジェスチャーしてきました。 恋するフォーチュンプッシーに、がいばつは藤咲先輩が最初に目をつけたカップルだと書かれていました。こんな最高のカップルを、藤咲先輩が発掘したなんて……。ここは素直に負けを認めます! 『完敗です』と、ジェスチャーを送ると、『愛い奴。あとで副会長室に来い』と、藤咲先輩からジェスチャーがかえってきました。 柴牧先輩をお姫様抱っこしたまま、鎧鏡先輩が乗り込んだ生徒会室棟専用エレベーターは、何故か一階ではなく、屋上に向かっていました。 『あれ?鎧鏡先輩、押す階を間違えたのでは?』と、蟹江先輩に質問すると、『あの二人については深く追求するな、瑠偉。タヒるぞ』と、言いました。 タヒるとは、ネットスラングで、死を意味します。 「わかりました」 生徒会への寄付は、大体が鎧鏡先輩のお父様名義ではなく、鎧鏡先輩本人名義でした。あんな金額を寄付出来る鎧鏡先輩とは、一体何者なのか……。 でも僕は、鎧鏡先輩が何者かなんてどうでもいいんです。鎧鏡先輩が、完全無欠の攻めってことさえわかっていれば……。 鎧鏡先輩と柴牧先輩の退場によって、三送会もそれからすぐにお開きになりました。 僕は、藤咲先輩の指示に従って、副会長室に向かいました。 「小笠原です。入ります」 そう言ってドアを開けると、副会長室には、すでに藤咲先輩が立っていました。 「来たね、瑠偉」 そう言うと、藤咲先輩はジャケットの内ポケットから、小さなリモコンらしき物を取り出しました。 副会長室の椅子の後ろの壁に向けて、ピッとリモコンを押すと、椅子の後ろの壁が、シュッと割れました。 「え?!」 藤咲先輩は『どうぞ』と、その割れた壁の中に入るよう、僕を促しました。 壁の中は、狭い廊下が続いていて、グルグルと歩いた先に、小さなドアがありました。『中へ』と言われてドアを開けると、どれくらいの広さだろう……結構な広さの部屋の中は、モニターでいっぱいでした。 どのモニターにも、映像がうつっています。よく見ると、神猛高等部の色々な場所や、どこかの街中?だったり、色々な場所の定点カメラのような映像です。え?っていうか、ここ校舎のどのあたりになるんですか? 「ここを瑠偉に引き継いで欲しい」 「え?!」 「ここは僕の情報ルーム。副会長の重要な役割として、先生方や一般の生徒と、この生徒会とのスムーズな意思疎通を実現させるってのがあるのは、知ってるだろ?そのためには、いろんな情報を掴んでおくと、話が早いからさ。この部屋は、もともと歴代の副会長が掴んだ、外に漏らしたらいかんだろうっていう情報を隠しておく部屋だったんだ。それを僕が全てデジタル化して、この状態に改造した。ちょうどコンピューターに詳しいかにちゃんもいたしね。で、ここで、ブログネタもちょいちょい拾ってるんだ。神猛の大学部は共学だろ?今までみたいに、ブログネタを拾うことは出来なくなると思うんだ。だから瑠偉。この情報ルームと一緒に、僕のブログ……恋するフォーチュンプッシーを引き継いでくれないか。僕たち腐男子は、まだまだ数が少ないし、肩身が狭いだろ?そんな同志を、少しでも元気づけたいと思って、あのブログを始めたんだ。それと同時に、腐男子人口の増加計画として、あわよくば、僕のブログに間違えて入ってきた輩を腐れの沼に落せたら……と、いう考えもあったんだけど……。僕のブログを読んだヘテロ男子に芽生えた腐れの芽を、花開くまで育てるためには、定期的かつ新鮮な腐れネタを供給し続けることが大事なんだ。僕のブログを毎日チェックするほどしっかり腐れたら、もう二度と、腐れていなかった頃には戻れない。腐れは沼だ。瑠偉もそれはわかるだろう?僕たち腐男子が、腐女子なみに市民権を得るまで、僕たちは、仲間を増やす努力を怠ったらいけない。未来の腐男子たちのためにも。僕はそう思って、このブログを日々更新し続けてきたんだ。だけど……僕はもう、あのブログを盛り上げるネタを入手することが困難な状況になる。だから瑠偉!全腐男子のため、これから腐れる男子たちのために、この僕の意思を継いで、恋するフォーチュンプッシーで、腐れネタを垂れ流し続けてくれないか?!」 藤咲先輩は、驚くほどの長セリフを、一気にまくしたてました。 「え……瑠偉?」 「あれ……なんだろう……目から汗が」 僕は、何故か泣いていました。 いや、もう認めよう! 僕は、藤咲先輩の熱意に、猛烈に感動したんだ! 「瑠偉……」 藤咲先輩が差し出してくれたハンカチを、僕は拒否しました。 「そのハンカチは、ご自分の涙を拭くために使ってください」 「え?」 「藤咲先輩、いいえ、サクラ先輩!僕……先輩の意思を引き継がせていただきますっ!」 「るいぃぃぃぃぃぃ!」 サクラ先輩はそこで号泣して、自分のハンカチで、涙と鼻水を拭きまくっていました。 「さてと」 パソコンを起動させ、僕はキーボードを打ち始めました。 サクラ先輩は、卒業した今も、ちょいちょい高等部に顔を出し、腐れネタを発掘しているようです。 あんな感動的にど腐れブログを引き継いだのに、サクラ先輩は今でも現役バリバリです。 僕にブログを引き継いだのは、ただ単に趣味で始めたこのブログが、あまりに人気になり過ぎて、更新しなくちゃいけないという責任感に疲れてしまったからだと、今では僕はそう推察しています。 ただの趣味に戻った腐れネタ探しをしているサクラ先輩は、すごく楽しそうに見えます。 あれから、僕とサクラ先輩は、驚くほど仲良くなりました。 サクラ先輩の性癖は、聞けば聞くほど僕と一緒ですし。 ブログのオフ会を一緒に開催したり、今では一番の腐れ仲間になりました。 仲良くなったことで、サクラ先輩ときみやすくんの、誰も知らないだろう秘密を聞くことになったのですが……まぁ、それはまた、別の機会に。 「瑠偉、いるぅ?」 ほら今日も、サクラ先輩がネタ探しにやってきました。 「いいネタ入ってますよ!」 fin.

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