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ふっきーがカボチャサラダを食べられなくなった日

始まりは、若からの『すぐ参れ』という呼び出しの電話だった。 僕は松の一位に『また呼ばれた』と報告し、すぐに本丸の若の部屋に向かった。 本丸の若の部屋に誰にも見られないように入ると、いつもいる若の部屋に、若の姿が見えない。人を呼び出しておいてどこほっつき歩いてんだか、あの若様は……と思っていると、『詠か?』と、どこからか若の声が聞こえてきた。 「はい。どちらですか?」 キョロキョロ探しても若はどこにもいない。 「その部屋と和室を繋いだ新しいドアがわからぬか」 若の声がするほうを見ると、確かに新しいドアがあるのがわかった。 若の部屋は、どこに繋がっているのかよくわからないドアがいくつもついている。 「わかりました」 「入って参れ」 言われた通り新しいドアを開くと、目に入ってきたのは、『ふっきー急に呼び出してごめんね』と謝る雨花ちゃんを膝の上に乗せながら、もう時季外れだろと突っ込みたいこたつに入ってご満悦らしい若の姿だった。 前は雨花ちゃんが恥ずかしがって、こんな場面を見せることはなかったのに、最近雨花ちゃんも慣れてきてるのか、若とのいちゃこら姿を恥ずかしげもなく僕に見せてくる。 二人のこんな姿を見て喜んでいる家臣が少なくないのは知ってるけど、僕は見せられたくないんですけど!いちゃこらするのは二人の時だけにして欲しい!そんなお願いをしても、お前が慣れろと言われるのが目に見えているから言わないけどね! 若が友達だったら今叫んでいただろう。一生そうやって二人羽織でもしてろ!ってね。 「で。どうなさったのですか?」 僕は努めて冷静に聞いた。 「今度開かれるガーデンパーティー用の料理を決めてくれと、雨花が御代殿より依頼されたのだ。それも御台所の仕事ゆえ、雨花も今から少しずつ、そういった仕事に慣れておくといいということらしくてな」 「はあ」 「これから試作品がここにどわーっと運ばれてくるんだって。そこからパーティに出す料理を二人で決めてって言われたんだけど……オレと皇だけで決めるのもなんか心配だから、ふっきーにも一緒に考えてもらおうってことになって」 「はあ」 なんでもいいんじゃないの?本丸の料理人が作った料理なら、何を出しても美味しいって。……と思ったけど、せっかく僕を頼ってくれた雨花ちゃんに、さすがにそんなことは言えない。 一緒にこたつに入るように雨花ちゃんに勧められて、僕は大人しく、二人と一番遠い対面に座った。 すぐに料理がどんどんどんどん運ばれてくる。 え?一体何品選ぶんですか? そんなことを思っていると、若の膝から下りて、料理に手を付け始めた雨花ちゃんが、『オレこれちょっと苦手なんだよね』と言って、カボチャサラダの中のレーズンをひょいっとつまむと、ためらうことなく若の皿に、そのレーズンを乗せた。 「皇、レーズン大丈夫?」 「ああ」 「サラダとかケーキの中に入ってるレーズンはまだ食べられないわけじゃないんだけど」 雨花ちゃんがカボチャサラダの中から、もう一つレーズンを取り出して若の皿に乗せると、若はそのレーズンだけを口に放り込んだ。口の中でレーズンを転がすような口の動きをしたあと、コクリと飲み込んだ若は、『食感が良い』と、機嫌のいい顔をした。 「食感?」 「ああ。食感が似ておる」 「何に?」 「ん?余の好物に、だな」 うわぁ……若のこの何とも言えないいやらしい顔!こういう顔をしている時の若は要注意なんだよなぁ。 「え?好物?お前、好きな食べ物見つかったの?」 雨花ちゃんが若に飛び込みそうな勢いで前のめりにそう質問すると、若は『余が好きなものが何か、そなたはよう知っておろう』と、さらにいやらしい顔をした。 「え?」 雨花ちゃんが本気でわからない顔をしているから、僕が代わりに答えてやろうか!と、本気で思った。 若は好き嫌いを言ったらいけないと言われて育ってきた。それを知ってる雨花ちゃんは、若が好きだと思うものをいつも探っているふしがある。 だけどね、雨花ちゃん。若が自分で”好き”だなんて堂々と言うのは、この世でただ一つ、雨花ちゃんのことだけなんだよ。 そんな若が言う”好物”が何なのか……もう僕は嫌な予感しかしない。 「この干しぶどうの食感は、そなたの乳頭とそっく……」 「うわぁぁぁぁっ!」 若の言葉は雨花ちゃんの叫びでかき消されたけど、僕にはハッキリ聞こえてたー。干しぶどうの食感が雨花ちゃんの乳頭……すなわち乳首とそっくり……って……。 ちょっ……乳首の食感って何?!乳首の食感って!叫びだしたいの僕のほうだからぁっ! 「バカじゃないのっ!?」 雨花ちゃんは真っ赤になって怒ってる。うん、僕もそう思った。完全同意だよ、雨花ちゃん。その言葉、若に思いっきり叫べる雨花ちゃんがうらやましい!僕も叫びたいよ!バカだろっ!うおおお! 「食べ物じゃないじゃん」 真っ赤な雨花ちゃんがポツリとつぶやいた。 そういう問題じゃないから!っていうか、もうそこ話膨らませないで! 「食べ物とは言うておらぬ。好物と言うたのだ」 もうやだ。だから話膨らませないで! 「う……あ、食感とか言うな、バカ」 だからもうその話は膨らませんなって言ってんのー! 「ああ、舌触りとでも言えばよかったか」 良くない!そっちのほうが生々しいでしょうが! 僕はもういたたまれなくなって、『雨花ちゃんが苦手ならカボチャサラダは出さないってことでいいんじゃないですか』と、二人の会話をぶった切った。 「ああ、そなたは知らぬでも無理はないか。だが、誠に似ておるのだ。色ではなく舌触りだぞ?サラダの水分を吸ってふやけたからであろうか」 僕がぶった切ったはずの話は全く切れていなかった。若はまた一つレーズンを箸でつまんで、雨花ちゃんにそんな質問をしたけど……。 知るかぁぁぁ! 「何言ってんの!ホントバカだろ!」 馬鹿ですよ、ええ、本当に。若は雨花ちゃんが絡むと、急激に偏差値が下がって見えるから不思議だ。 いつもキリッとしてきた反動からなのか、雨花ちゃんを嫁に決めたと家臣に公言したあとの、若の雨花ちゃんの前でのダダゆるみが半端ない! 「そなたも口に含めば余の言うておることがわかろう。余の乳頭を貸してやっても良い」 「のあああああっ!ホントバカ!もうお前レーズン食べるなっ!」 雨花ちゃんはそう言うと、若の前にあったカボチャサラダからレーズンだけを取り出して、一気に自分の口の中に放り込んだ。 「食えるではないか」 「お前に食べさせたくないの!」 雨花ちゃんが真っ赤な顔で怒っているのに、若はすました顔で、『カボチャサラダは干しぶどうを抜くよう指示致そう』と、何やらメモに書き込んで、ニヤリと笑った。 「……」 僕の目の前には、まだ一口も食べていないカボチャサラダが残っている。 これ……食べるべきなんだろうか。悩んだ末、一口食べた。 口の中でクニャリとした食感がして、僕は急いで口の中からレーズンを吐き出した。 若がおかしなことを言うから!雨花ちゃんの、ち、ち、ち、ちく……想像しちゃったよおおおおっ!!ありえないっ! ああ、もう無理!お仕えする方の乳首を口の中で想像するとか……うおおおおおおおおおお!大老様、本当に本当に申し訳ありませんっ!雨花ちゃんに対してよこしまな思いなんか皆無なんですっ! だから嫌なんだよっ!この二人がいちゃこらしてるところに居合わせるのはぁぁぁぁ! ああ、もう無理ぃ!僕、この先レーズン食べられないこと決定したぁ! そのあと、思ったよりもスムーズに、一時間程度でガーデンパーティーのメニューは決まった。 こんなに早く決まるとは……。多分、若がレーズンを食べたことによって、雨花ちゃんと早いとこいちゃこらしたくなったからだと思うけど、やる気になれば仕事は早いんだよ、この二人。 僕はこの一時間で、フルマラソンでも走ったくらいの疲労感だったけどね。 このあと僕は、レーズンだけじゃなく、カボチャサラダも食べられなくなった。体が受け付けなくなったんだ。 くっそ。あの二人にお仕えするには、もっとメンタルの強化が必要だ!この調子だと、この先いくつ、食べられない物が増えるかわからない。 ああああ……カスタマイズしたいパソコンが今はないし、どうやってストレス発散してやろうか……。 あ!そうだ!若はこたつが大のお気に入りだったな。 もう時季外れだし、若が動かなくなるからそろそろ片付けてもいいのでは?と一白様に進言して、あのこたつ、早々に撤去してやる! それくらいの報復は、させてもらいますよ、若! fin.

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