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嫌な予感
太田に促されて、畳の部屋へと入った。
小さな丸テーブルに、小型テレビ。布団が一式、片付けられないまま窓際に敷かれていた。後は、テレビの横に小さな本棚があって、DVDや動物関係の書籍などが並んでいる。部屋の隅に小さなスタンドラックがあって、衣類が整然とかけられていた。他に物はほとんどなく、部屋も清潔に保たれているようだった。
物が多い洋介の部屋とは全然ちゃうな、と思う。たまに物に埋もれてインテリアの一部のようになって床に座ってゲームをしている洋介を思い出してふふっと笑った。
ふと視線を感じて振り向くと、太田がコーヒーカップを2つ手にして立っていた。
「どうぞ」
「ありがとう」
コーヒーカップの1つをテーブルの上に置かれた。太田がテーブルを挟んで向かい合わせに座った。
「太田って、めっちゃ綺麗にしてんねんな、部屋」
「まあ……元々物が少ないから」
「実家暮らしやないねんな」
「……俺、出身、兵庫やから」
「ああ、そうなんや」
なんとか会話を広げようと試みたが、太田からはただぽつぽつと短く言葉が返ってくるだけで、とたんに話すことがなくなり沈黙が広がった。
「……コーヒー、飲まへんの?」
そう太田に言われて、全くコーヒーに手を付けていなかったことに気づく。
「ごめん。話してたら忘れとったわ」
コーヒーカップを手にして一口飲んだ。その時。なんとなく変な感じがした。味も匂いも何にも変なところはない。だけど、何か亜貴の中で、そう、嫌な予感、みたいなものがしたのだ。
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