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走る

 靴を履かぬまま、ひたすら走った。汗が流れ落ちて、息が上がる。すれ違う人たちが不思議そうな顔で自分を見ているが気にしている余裕などなかった。  ただ、あの場所からできる限り離れたくて。道も分からないまま、ただやみくもに走った。 「うわっ」  何かに躓いて思いっ切り転ぶ。ゆっくりと体を起こして周りを見る。大きな公園の中にいた。 「あの……大丈夫ですか?」  並木道のど真ん中で派手に転んだ亜貴に、通行人がおそるおそる声をかけてきた。子供連れの母親だった。手を繋がれた小さな子供も心配そうな顔でこちらを見ていた。 「……大丈夫です。ちょっと、急いでたんで……」  そう言って、立ち上がって靴を履いた。その母親が、これどうぞ、とウェットティッシュを差し出してきたので、有り難く受け取る。そのティッシュで汚れた手と顔を拭いた。掌と顔に擦り傷ができたらしく少ししみた。 「良かったら絆創膏もありますけど……」 「あ、大丈夫です。もう家に帰るところなんで」 「そうですか」 「ありがとうございました」  ぺこりとお辞儀をしてお礼をする。母親はにこりと笑って、じゃあ、と子供の手を引いて去っていった。その姿を見送っていると。手を引かれていた子供が突然ぴたりと足を止めた。くるりと振り返ると、こちらへ急いでかけてくる。どうしたのだろう?とその動きを見ていると。 「お兄ちゃん。これ、あげる」  そう言って、何かを差し出された。よく見ると、飴だった。 「飴ちゃんくれるん?」 「おん。だって、お兄ちゃん、痛かったやろ? ママがな、いつも痛い時には飴ちゃんくれんねん。そうすると元気が出るからって」 「これ、ええの? もらって」 「ええよ。俺、今日は飴ちゃんなくても元気やから」  そう言って、その小さな男の子はニコリと笑った。 「……ありがとう。大事にいただくな」 「おん。じゃあねっ」  男の子が手を振って母親の方へと駆けていった。2人に向かって深々とお辞儀をする。  2人が見えなくなるまで後ろ姿を見送った。男の子が時々振り返って、その度に手を振ってくれた。

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