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飴ちゃん
掌の袋に入った飴玉を見つめる。オレンジ味の飴だった。亜貴はその場で袋を開けて、飴玉を取り出すと口に入れた。途端に、甘いような、酸っぱいような味が口いっぱいに広がって、オレンジの香りが鼻を抜けた。
ふっと、緊張していた体から力の抜ける感覚がした。それと同時にじわじわと視界が滲んでいくのが分かった。
そこで、自分はようやく怖かったんだな、と自覚する。
洋介。
無性に洋介に会いたくなった。
公園で気持ちを落ち着けてから携帯の地図を見ると、どうやら駅とは真逆へと走っていたようだった。
太田のアパートの周辺を避けながら駅へと向かう。喉がカラカラだったので、自動販売機で飲み物を買って飲みながら歩いた。
全力で走ったせいか、疲労感が凄かった。駅のホームで電車を待つ間もぼうっとただホームから見える景色を見ていた。
目的の電車が到着し、人の波に流されるまま一緒に乗り込んだ。車両の奥へと進んで連結部分の手前付近に立つ。2、3駅だけなので席には座らなかった。夏休みと言えど平日の昼間なのでそこまで混んではいなかったが、席が埋まるぐらいには人がいた。
亜貴はしばらく電車から見える高速で流れていく風景を見ていたが、なんとはなしに目線を隣の車両に移した。
あれ?
隣の車両に、見慣れた顔があった。
洋介。
そこで、これが洋介の大学の最寄り駅に繋がる路線だと思い出す。今日は確か、サークルの活動で大学へと行っていたはずだった。ならば、その帰りだろうか。
声をかけようと、隣の車両へ移動しようとしたのだが。はっと、思わず足を止めた。
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