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知らない誰か

 洋介は1人ではなかった。背の小さい、可愛らしい女の子が一緒だった。  つり革に捕まって、隣同士で顔を見合わせ楽しそうに会話をしていた。同じサークルの子だろうか。  一緒にいる女の子は、以前、洋介が付き合っていた由美とは全く違うタイプだった。清楚な感じの、かと言ってそれが嫌みにもなっていない、性格の良さそうな印象の子だった。  背の高い洋介と、その思わず守りたくなるような雰囲気の可愛い彼女はお似合いだった。  そう。自分よりも。  洋介はやっぱり、女の子と付き合った方が幸せになれるのではないか。  突然、根拠のないネガティブな思考が湧き上がってきた。  今日の出来事や、洋介が自分とヤりたがらないことや、目の前の2人の姿とか。そんなものが一気に押し寄せてきて、亜貴の中でぐるぐる回る。自分はもっと楽天的で我慢強い方かと思っていたけれど。  今はどうしても悪い方にしか考えられなかった。  降りる駅のアナウンスが聞こえる。  亜貴は車両出口まで急いで進んだ。電車が到着し、扉が開いた瞬間、急ぎ足で車両から降り改札口へ向かった。 「亜貴」  少し大きめの声で名前を呼ばれたのが分かった。気づかれたらしい。もちろん、誰かなんて振り向かなくても分かる。でも気づかないフリをして歩を進めた。  ブルブルっと携帯がポケットの中で震えた。それも無視して改札口を出ると駐輪場へと向かう。  さっきまであんなに洋介に会いたかったのに。  今は会いたくなかった。あの女の子とも会いたくなかった。笑って挨拶をする自信がなかった。

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