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嫉妬

 自転車の鍵を取り出して開錠する。ハンドルを握って動きだそうとしたその時。ぐっと腕を捕まれた。はっと一瞬息が止まる。 「おい」  こういう時。洋介は動きが速い。亜貴は俯き加減に振り返るとちらっと洋介を見上げた。そこに立っていたのは洋介1人だった。 「ホームで呼んだし、電話もしてんけど」 「……ごめん。気づかへんかった」 「……おい。お前、どうしてん、その顔」  洋介がのぞき込むようにして亜貴の顔を見てきた。 「ちょお、転んでもうて」 「どこで?」 「……公園で」 「……なんで公園なんかにおったん?」 「……配達の帰り」 「結構、擦れてるやんか」  そう言って、洋介が腕を伸ばして頬にできた擦り傷に触ろうとした。咄嗟に顔を背けてその手を避ける。洋介が少し驚いた顔をしてこちらを見た。 「亜貴……?」 「……大丈夫やから。それより、ええの? 女の子と一緒やったやん。待たせてるんちゃうの?」 「は? ……ああ、いや、あの子は別の駅やから。サークルの子ぉで、帰りがたまたま一緒になっただけやし」 「そう……なんや」 「おん……」  じっと洋介が見ているのが分かった。目が合わせられず俯いたままでいた。 「亜貴、お前、勘違いしてへん?」 「……してへんよ」 「あの子とは何でもないで。ほんまにただのサークル仲間やねん」 「そんなん……分かってるよ」  やけど。あの子は女の子やん。堂々と洋介の隣におれるやん。ほんで、いつかは、洋介と一緒になれる可能性やってあるやん。洋介を奪っていくかもしれへんやん。  そんな言葉は飲み込んだ。言ったところで、どうしようもないことなのだから。 「あの……俺、まだおかんに頼まれてることあんねん。やから……またな」  もごもごと早口で洋介に伝えて、無理やりのように自転車を押した。 「おい、亜貴っ」  そんな自分を呼び止める洋介の言葉も振り切って。

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